【020 それぞれの選択】
【020 それぞれの選択】
〔本編〕
『バクラの戦い』の回想から話は戻り、龍王暦一〇五〇年五月八日。コムクリ村が帝國軍に襲撃されてから五日がたっていた。
その間ハクビ、マーク、レナの三人はコムクリ村から南東三十キロメートルの地点にあるアユルヌ渓谷で、兵としての訓練を受けていた。
ハクビは騎兵を希望した。本来、騎兵は第二段階からの兵種であるが、既にハクビはその段階まで達していたため、青銅の鎧で武装されている馬――ブロンズホースが一頭与えられた。
ハクビの騎乗の能力はすばらしく、本来であれば右手で武器を操り、左手で手綱を持つところ、両手に武器を持ち、下半身だけで馬を操ることができた。
人には、訓練次第で上達していく力(筋力)や技量などがあるが、それとは別にその人特有の持って生まれた才能と呼ばれる能力がある。その能力は鍛え方次第ではとてつもない力を発揮し、戦闘の際の大きなアドバンテージとなる。
龍王暦五〇〇年頃、ある一人の学者がその能力を研究し、一生かかって十六種類に体系化した。それは十六の付帯能力と呼ばれた。それに対し、誰もが持っている能力(筋力や瞬発力等)を基本能力という。
さて、十六の付帯能力の一つに『騎乗』というスキルがある。馬をはじめとする動物や竜に騎乗するにあたって直感的にその動物、或いは竜と心を通わせることができる能力である。単に乗馬の技術が優れているといったレベルの話とは違う。
ハクビはそのため、手綱を必要としないで騎乗することができ、騎兵でありながら両手に武器(長斧と短斧)が持てるという、敵となる相手に対して、大きなアドバンテージを持つことができるのである。
さて、その頃マークは弓の訓練に励んでいた。元々猟師の子供だったので弓兵になるしかないと思っていた。しかしやはり剣の道もあきらめられず、地利将軍のグラフにそのことを相談した。
グラフ将軍はマークの剣の技量も見た上で、両方の訓練を同時並行でするよう指導した。マークは弓か剣。どちらかを選ぶものだと考えていたので、この方針にはびっくりした。しかし本来したかった剣も訓練出来るようになったので、マークは大喜びだった。
グラフ将軍は、弓兵の白兵戦での脆さを実感し、白兵戦になったときに剣を操り、戦えるような弓兵の存在を見据えての発想だった。
その頃マークの妹レナは、母親の後を継ぐべく、白魔法を限定の訓練を本格的にはじめた。
〔参考一 用語集〕
(神名・人名等)
グラフ(ソルトルムンク聖王国の地利将軍)
ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年)
マーク(コムクリ村の住人)
レナ(コムクリ村の住人。マークの妹)
(国名)
ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅の建国した國)
(地名)
アユルヌ渓谷(ソルトルムンク聖王国南西の渓谷。聖王国軍残党の拠点)
コムクリ村(ソルトルムンク聖王国南西の村。ハクビ、マーク、レナの住んでいた村)
(兵種名)
第二段階(兵の習熟度の称号の一つ。下から二番目のランク。この称号を与える権限は町や村の長或いは地方領主以上の者が持つ。セカンドランクとも言う)
(付帯能力名)
付帯能力(その人物個人の特有の能力。『アドバンテージスキル』という。十六種類に体系化されている)
騎乗スキル(十六の付帯能力の一つ。竜や動物に乗る能力。また乗用している竜などと心を通わす能力も含まれる)
〔参考二 大陸全図〕