【018 回想バクラの戦い(七) ~決着~】
【018 回想バクラの戦い(七) ~決着~】
〔本編〕
またもや敗れた聖王国側にさらに戦意を喪失させられる情報が届く。カルガス國に潜んでいた聖王国の偵察隊からであった。
カルガス國は北東に位置する中堅国家で、ソルトルムンク聖王国、バルナート帝國に次いで大きな國である。今回の戦いではソルトルムンク聖王国への味方を表明したが、バルナート帝國の背後(北方側)をつくと言って、実際の兵は一兵も送らず、実質的な日和見を決め込んだ。
仮にソルトルムンク聖王国が勝っていれば、当然、カルガス國は約束通りバルナート帝國の帝都に攻め入ったであろう。しかしカルガス國はバクラの戦いの二日目(龍王暦一〇五〇年三月二日)のソルトルムンク聖王国の敗戦を知り、本国を出兵した。そのカルガス國軍は一万を数えた。
カルガス國軍は、バルナート帝國の帝都に向かうでもなく、聖王国と帝國が対峙している国境のバクラに向かうでもなくその中間にあたる真西に進路をとった。いざという時、バルナート帝國の帝都と国境のバクラのどちらにでも進軍できる方向であった。
そして三日目。突然、バクラに向かう道を選び、この時初めてカルガス國はバルナート帝國に味方することを宣言し、そのままバクラにいる帝國軍に合流しようとする動きを見せたとのことであった。
ソルトルムンク聖王国のジュルリフォン聖王子は、この情報は兵士達に大きな動揺を与えると判断し、三将軍(天時将軍、地利将軍、人和将軍)など主要な者数名にだけ伝えた。しかし同盟している他の三国(クルックス共和国、ゴンク帝國、ジュリス王国)の斥候達も、カルガス國の動きをそれぞれの國の将軍達に伝えたことにより、三国は動揺し、その慌ただしい動きで聖王国軍を始め他の同盟国の末端の兵士にまで、カルガス國の裏切りは伝わってしまった。
龍王暦一〇五〇年三月三日の朝九時。ちょうどナンダがゴンク帝國の巨竜の頭を串刺しにした時のことである。
同日の正午ちょうど。満を持してバルナート帝國、ミケルクスド國連合軍十万の全軍が進軍を開始した。対するソルトルムンク聖王国を中心とする四カ国連合軍は昼間にもかかわらず戦線を離れ逃亡する兵が続出する有様であった。
趨勢は決した。聖王国連合軍はバクラの地から退却をはじめた。
かろうじて、天時、地利、人和の三将軍の采配により軍としての形態を維持してはいたが、それも二時間が過ぎ、三時間が過ぎる午後三時に至り、ほぼ全軍が崩壊した。他の三カ国(クルックス共和国、ゴンク帝國、ジュリス王国)もここに至り、自国の防衛のため、聖王国軍から離脱し、自国へと帰還しだした。
その時、右翼に配置されていたジュリス王国の兵が、北西の自分の國に帰るため、退却している聖王国軍の退路を東から西へと横切った際、事件が起こった。自分達聖王国軍を置いて帰還しようとし、かつそのために自分達の撤退ルートを邪魔したジュリス王国軍に腹を立てた聖王国の兵により、ジュリス王国の兵に攻撃が加えられた。このソルトルムンク聖王国とジュリス王国の味方同士の戦闘で少なからず死傷者が発生した。
さて、聖王国軍は天時、地利、人和の三将軍がジュルリフォン聖王子を守りながら、崩壊した軍の一部を編成しつつ、小規模な反撃は繰り返していた。バルナート帝國軍側も、この聖王国軍の反撃で、勝ちの勢いで突出した兵が数十名死傷した。
しかし、だからといって全体的な戦いの趨勢そのものが覆るはずもなく、聖王国軍は負け続け、ついに三月八日、聖王国の首都であり、軍事の拠点でもある王城マルシャース・グールに退却した。
三月一日から三日までの三日間の戦いを後に『バクラの戦い』と呼び、この戦いで聖王国軍は四万の兵を失った。
そしてその後の追撃戦でさらに兵三万を失い、竜に至っては八日間で五千体を超える損傷を出した。この五千体とは聖王国全土の一年間のドラゴンの産出量のほぼ二倍に匹敵する数字であった。
マルシャース・グールに到着した時、多くの死傷兵、バルナート帝國への投降兵、並びに逃亡兵が続出したため、聖王国の兵は三千人にまで激減したのである。
〔参考一 用語集〕
(神名・人名等)
ジュルリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の王子)
ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
(国名)
ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅の建国した國)
バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯の建国した國。金の産地)
カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多の建国した國)
ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦の建国した國。飛竜の産地)
クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃)
ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀の建国した國。馬の産地)
(地名)
バクラ(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある町)
マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)
(竜名)
バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純に竜と言った場合、バハムートをさす場合もある)
(その他)
三将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部。天時将軍、地利将軍、人和将軍の三人)
〔参考二 大陸全図〕
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