表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/629

【178 第二龍王跋難陀(一) ~水の女神~】

【178 第二龍王跋難陀(一) ~水の女神~】



〔本編〕

龍王暦一〇五一年九月二五日。

 ヴェルト大陸で最も北にある都――バルナート帝國の帝都ドメルス・ラグーン付近は大雨が降っていた。

 この大雨は、同年八月八日から降り始め、一度も晴れることなく、四十九日間降り続いている。しかし、その雨はドメルス・ラグーンの南の地域では降っているが、ドメルス・ラグーンから北の地域では降っていない。

 ドメルス・ラグーンの南側からヴェルト大陸をそこで東西に分断するライン状に降っているのである。

 自然現象とはとても思えない。作為的な現象である。

「ドガァァァァ~ン!!」

 ドメルス・ラグーン全体を震わそうとするほどの大音響が辺りに響き渡った。

帝都の南側でその音は起こったのである。

「三つ目の水脈がついに吹き出したか! これで帝都の南方は、堅固な水の城壁が出来て、渡ることは不可能だな」帝都の中心にある城から、外を見ている一人の男が呟いた。

 百九十五センチメートルの長身でありながら、それを長身と思わせない胸板も広い筋骨隆々した体躯。ふさふさとした黒髪に、大きな黒い瞳。決して美男子とは言えないが、覇王の風格を漂わせる顔つき。

 四十三歳の男盛りの王――バルナート帝國の現帝王ロードハルトである。

「御意! この水の城壁を突破することなど、どれほどの兵がいても無理でしょう」ロードハルトよりやや背は低いが、それでも充分長身の白いローブを纏った男が答えた。

 ローブで顔が隠れているが、緑色の瞳が炯々けいけいと輝いている。

 バルナート帝國宰相のマクダクルスである。

 水の城壁と呼ぶように今、帝都の南側には幅十キロメートルに及ぶ巨大な河が東西に流れている。

 ドメルス・ラグーンの付近から水が噴き上げ、東と西の両側に流れ、海に注がれる大河となっているのである。

 この造られた大河が、ヴェルト大陸をドメルス・ラグーンの南側で二つに分けているのである。この造河のせいで、北方の海から迂回しない限り、南方からドメルス・ラグーンに侵攻することは不可能である。

「この大雨の帯は、私の『陣地作成スキル』の結界です。シャカラの霧の陣が達する前に敷きましたので、『陣地作成の先敷せんふの優位性』のことわりのっとり、私の陣から北側では、シャカラのそれ(霧の陣)を広げることは不可能です」ロードハルトの横にいた女が答えた。

「やはり噂の通り、朱雀のナンダを倒したのは第三龍王のシャカラか!」

「間違いありません!」帝王の問いにその女が答えた。

 女は百六十五センチメートルの背丈に、スカイブルー色の顔。そして、それより青みがかった髪が腰まで達し、さらに深みを持っている蒼い大きな瞳をしていた。

 絶世の美人であった。

 否、美人というより佳人や麗人のたぐいの美しさである。

 今更言うまでもなく八大龍王の一人、跋難陀バツナンダ龍王であった。

 今は摩那斯マナシ龍王からの派遣で、バルナート帝國の四神兵団の一つ、青龍兵団の軍団長の地位についている。

 なるほど、バツナンダの言葉通りドメルス・ラグーンとそこから北の地域は霧どころか雲一つない快晴であった。

「ところでバツナンダ! シャカラの動きは分かるのか?」ロードハルトが顎に手をあてて聞いた。

「三万の軍を率いて、聖王国と我が國の国境の町バクラを昨日通過しております。今はこの帝都に向けて進軍中です」

「ほう! この霧の中でそれが把握できるとはな……」ロードハルトは感心して呟いた。

「神の力を過小評価されておりますな! 帝王は……」バツナンダの顔がキュッと引き締まり、ロードハルトに一瞥を加えた。

“この女神は、怒っても美しい”ロードハルトはそんな不遜なことを頭によぎらした。

「人の領域では、まったく五感を狂わす霧かもしれませんが、神である私の能力であれば、その動きを読むことは造作のないこと……」

「それは、付帯能力アドバンテージスキルの『天眼・千里眼スキル』に相当する能力か?」

「御意! しかし……」ロードハルトの問いにそう答えたバツナンダはさらに続ける。

「人と神の能力には、天地の開きがあります。人の定められた規則の範疇はんちゅうで言えば、同じ能力かもしれませんが、そのレベルから問えば、全く別物と認識していただくのが良いと思います。人の命とはえの命……どちらも同じ一つの命ですが、人はそれを同等とは扱わないでしょう……それと同じです」

「なるほど……」ロードハルトはそう呟いた。

「それで、我が方には一万しか兵が用意できないが……。いかがするバツナンダ!」

「五千の兵をここ(ドメルス・ラグーン)の守りに、残り五千は私が率いて、造河の北岸にて敵に対峙します。そして王は王子と共に、この城に籠もっていて下さい」

「それは嫌だ!」ロードハルト、バツナンダ、マクダクルスの後ろから若者の声が聞こえた。

 後ろをみると一人の若者が、二人の従者を引きつれて現れた。

 身長は百八十五センチメートルの長身。体型が痩身のため、見た目より高く見える。白い肌に黒い髪。顔つきはロードハルトに似ているが、その瞳はブルーであった。

 ロードハルトの嫡子である王子ネグロハルトであった。瞳の色は父親に似ず、母親のそれであった。

「僕は多くの帝國国民が倒れるのはもう見たくない! 今度の戦いは、絶対に負けられない戦いと聞きます。父上、どうかこの僕に兵をお与えください。ナンダとヴォウガーを倒した憎きシャカラ! この手で討ち果たしたいと思います……」今年十五歳になる若き王子の血気であった。

「子供のお遊びではないのでな……」バツナンダの痛烈な皮肉である。

 多感なる十五歳の少年王子を怒らせるのには充分な言葉であった。

「おい! バツナンダ! この僕を馬鹿にするのか! 僕では役不足とでもいうのか?」

「相手は神! 役不足どころか論外だ! この城で大人しくしてもらわないことには、私が全力でシャカラに立ち向かえない!!」

「貴様! 僕を何だと思っている! 僕は、この國の……」

「そこまでだ。ネグロハルト」ロードハルトの言の葉であった。

 この静かな帝王の言の葉に、王子の口は封じられた。

「しかし……父上!」

「ところでバツナンダ! 我々(ロードハルト帝王とネグロハルト王子)を密かに消そうとするやからがいるのは本当か?」ロードハルトはネグロハルト王子の言葉を無視して、バツナンダに問いかけた。

「御意!」バツナンダは短く答えた。

「何者かは分かりませんが、確実に王と王子を狙っている者がおります。今は、この私の目の届くところでありますので大事はありませんが、私が戦いに出た後には、トヤルとオルドレンの近くから離れないでいただきたい! トヤル! オルドレン! 任せたぞ!!」

「「ハッ! バツナンダ様!」」バツナンダの言葉に、王子の両脇にいた二人の従者が、頭を下げた。

 二人とも蒼いローブを身に纏い、顔が隠れていた。

 一人は王子より背の高い身長二メートル程度。もう一人は小柄で、身長が百五十センチメートル程度であった。

 二人は蒼いフードを外した。そこにあるのは、人の顔ではなく竜の顔であった。

 トヤルが龍人ドラゴノイド。オルドレンが蜥蜴男リザードマンであった。

この者達トヤルとオルドレンは、私が天界で使役してきた者達。お側にいれば、王や王子を狙う輩の殺意は察せます。どんなことがあってもこの二人からは離れないでいただきたい。なにぶん、王と王子を狙っているものは、天界か地下界の人を超えている存在だと考えられます。

 近衛兵という人の力では何人いようとも王と王子を守ることができません。私もシャカラとの戦いに全力を尽くせば、王と王子へ神経を向けることはできなくなります」

「そういうことだ! ネグロハルト! お前はこの父の後を継ぐ大切な身だ! 軽率な言動は慎むように!」ロードハルト帝王のこの言の葉に、ネグロハルト王子も下を向いて頷いた。

「ところでバツナンダ! そのやからとは、ソルトルムンク聖王国の前王コリムーニ老聖王をバクラの地で殺害した者なのか?」

「おそらくは……しかし、単独ではなく複数存在している可能性もあります。今はそれ以上のことは分かりません。それでは私は進軍の準備をしますので、これにて……」

 蒼い美しき女神はそう言うと、帝王と王子のもとを辞して、階下の兵舎に向かっていった。




〔参考一 用語集〕

(龍王)

 難陀ナンダ龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)

 跋難陀バツナンダ龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)

 沙伽羅シャカラ龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)

 和修吉ワシュウキツ龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)

 徳叉迦トクシャカ龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)

 阿那婆達多アナバタツタ龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)

 摩那斯マナシ龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)


(人名)

 ヴォウガー(バルナート帝國四神兵団の一つ玄武兵団の軍団長。故人)

 オルドレン(跋難陀龍王に仕えている蜥蜴男)

 コリムーニ老聖王(ソルトルムンク聖王国の前王。四賢帝の一人。故人)

 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)

 トヤル(跋難陀龍王に仕えている龍人)

 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長。故人)

 ネグロハルト王子(バルナート帝國の王子。ロードハルト帝王の息子)

 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)

 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)

 ロードハルト帝王(バルナート帝國の帝王。四賢帝の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅ウバツラの建国した國)

 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯マナシの建国した國。金の産地)


(地名)

 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)

 バクラ(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある町。町の中心に国境があり、北側がバルナート帝國領、南側がソルトルムンク聖王国領である)


(兵種名)


(付帯能力名)

 付帯能力(ごく一部の者にだけそなわっている能力。全部で十六ある。『アドバンテージスキル』ともいう)

 陣地作成・物体作成スキル(十六の付帯能力の一つ。自分の周辺或いは一定の場所や部分に、自分に都合の良い結界(陣地)或いは物体を作る能力。その結界内では敵にあたる者は何らかの制限を受ける。また作成された物体は結界内において、その能力を最大限に発揮する)

 天眼・千里眼スキル(十六の付帯能力の一つ。超長距離にある物体、超極小の物体、超高速の動きをする物体、他の物体に遮断されて直接見ることのできない物体等を見ることができる能力)


(竜名)

 ドラゴノイド(十六竜の一種。竜と人との混血で、竜の血が多く混じっている種類。『竜人』とも言う)

 リザードマン(十六竜の一種。竜と人との混血で、人の血が多く混じっている種類。『蜥蜴男』とも言う)


(その他)

 陣地作成の先敷の優位性(同程度の能力の陣地(結界)であれば、先に敷いた方の能力が優先されるという法則)

 青龍兵団(バルナート帝國四神兵団の一つ。バツナンダが軍団長)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ