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【168 驚愕の真相】

【168 驚愕の真相】



〔本編〕

 遡ること五日前の龍王暦一〇五一年七月二六日の夕刻。ソルトルムンク聖王国の東部に位置するスキンムル城は兵士たちでごった返していた。

 一万人規模の聖王国人和将軍の兵が、この城から東へ約五百メートルの地点から、帰陣してきたのである。

 ナンダを破っての勝利であるから大勝利といえるであろう。

 皆、疲れてはいたが、非常に明るかった。

 それにハクビが実は八大龍王の一人である沙伽羅シャカラ龍王であるということも、その喜びに輪をかけていた。

 今までは、敵であるバルナート帝國に八大龍王の一人のナンダがいて、帝國に力を貸しているという噂の中戦っていた。

 むろん、聖王国の上層部はその噂は虚言ということで意に介していないが、戦場で実際にナンダの戦いを見た兵士たちは、朱雀騎士団のナンダは神であるということを確信していた。理屈ではなく、感覚でであろう。いや本能とでもいうべきものかもしれない。

 その上、去年の一二月に結ばれたソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の休戦協定の際、帝國側から八大龍王の第二龍王である跋難陀バツナンダ龍王まで軍団長として帝國に助力していると紹介されたらしい。

 この件はザッド宰相によって緘口令かんこうれいが敷かれたが、やはり人の口には戸が立てられないものである。今年の一月の終わりぐらいには公然の秘密になって皆が囁やいていたのである。

 いずれにせよ聖王国軍は神を有している國と戦っているという引け目がある。聖王国は『神である正義に反する國』というレッテルがいつ貼られるかしれない状態なのであった。


 さて、この時代より前においても後においても、多くのいくさがあったが、いずれも『正義』対『悪』という図式は存在していなかった。

 『正義』対『悪』という構図が成り立つのは、子供番組や時代劇などのドラマの中だけである。

 実際、この世で起こった戦いはいずれも『正義』対『正義』である。自分を『悪』と認識して、戦えるほど人は強くない。自分が『正義』と信じてこそ、人は無謀ともいえる戦いの渦中へと身を投じていけるのである。

 少し話を脱線させてしまったが、聖王国にシャカラが現れたことにより、聖王国の兵は誰もがいつも頭の片隅に持っていた不安感――『自分たちを悪とする』認識を払拭させることができたのである。


 さて、人和将軍の軍がスキンムル城に帰陣してから六時間後の午後十一時頃。一万をかぞえる聖王国地利将軍グラフの軍がスキンムル城に到着したのである。

「おぉ~ハクビ……ではなく、シャカラ様! 朱雀のナンダを倒されたのはまことにめでたい! バルナート帝國との戦いも最終局面を迎えましたな!!」

「いや。グラフ将軍から『様』の敬称で呼ばれるのは非常に面映おもはゆい。これからは、敬称を外して、シャカラとお呼びください。ハクビの時と同じように……」

「おぉ~それは勿体ないお言葉。しかし神のお言葉であるなら、これからはシャカラと呼ばせていただきましょう!!」

 戦勝気分に、普段はあまり軽口をたたかないグラフ将軍も、この時ばかりは陽気であった。

 ――そしてその日の午前〇時を回ったことにより、日付の変わった同年同月二七日。スキンムル城の本丸の一室で数名が酒をたしなんでいた。

 その数名は以下の七人であった。

 人和将軍シャカラ。シャカラの副官のシェーレ。もう一人の副官のドンク。龍人ドラゴノイドのソヤ。スキンムル城城主のミラーグス。地利将軍グラフ。そして白き小型龍ヴァイスドラゴネットのカリウスであった。

 ここでシャカラの口から、今、八大龍王間で起こっている真相を告げられることになった。それは、予想だにできなかった龍王間同士の内部対立であった。

「僕は、四年前の龍王暦一〇四七年の九月にゴンク帝國の竜の山脈ドラッヘゲビルゲ第八の山アハトベルクに天界からやってきた。

 百体ぐらいの小規模な竜の争いがあったので、それを鎮めるためにだ。同時期に他の場所でも争いがあったため、それはカリウスに任せて、僕は単独でその山(第八の山)に到着した。

 竜の争い自体は二日程度で鎮めたが、せっかく下界に来たので一月ひとつき程度ゆっくりしようと考えていた」シャカラはここで酒を一杯グッと飲み干し、話を続けた。

「アハトベルクに来て半月ぐらい経った時、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。聞こえた方を見ると難陀ナンダ龍王が息せき切って走ってこちらに向かって来たのだ。

そのナンダの話によると、第七龍王の摩那斯マナシ龍王が、先代の第八龍王である優鉢羅ウバツラ龍王をあやめて、次代の優鉢羅ウバツラ龍王を軟禁したということであった。

 《馬鹿な! 僕たち龍王には対の龍王が必ずいて、その対同士が争えばお互いが滅びてしまうという解除不能の呪いがかかっているじゃないか! マナシの対の龍王はウバツラだぞ。ウバツラを殺めることはマナシにはできないはず……》

 僕のこの問いかけにナンダはこう答えた。

 《いや先代の優鉢羅ウバツラ龍王は、六百歳を超える老齢故、次代の優鉢羅龍王に一人息子を選んだ。それにより龍王の呪いが、次代優鉢羅龍王に移動した。その隙にマナシは先代のウバツラを殺したのだ。マナシとしては、次代のウバツラも殺したかったが、対の呪いによって、それは叶わなかった。そのため、軟禁という形で封じ込めてしまったらしい。この時、第五龍王の徳叉迦トクシャカ龍王と第六龍王の阿那婆達多アナバタツタ龍王が、マナシに協力をしていたことが分かった。とにかく、俺はこの事実を知るや、先ず第四龍王の和修吉ワシュウキツ龍王に知らせ、次にお前シャカラに知らせたというわけだ!》

 《何故そんなことが起きた?》

 この僕の問いにはナンダはもう答えられなかったのだ。なぜなら、ナンダの背後に忍び寄ったトクシャカによって、ナンダは真っ二つに斬られたのだ! 真っ二つに斬ったとしかいいようのない剣戟であった。ナンダを切ったそのトクシャカの剣圧を受けて、僕も気を失ってしまった。

 そして、気づいた時には、トクシャカによって、封印の闇を頭部に送り込まれ、体全体に回ったその闇によって僕の能力の全てを封じ込めてしまったのだ。そして、そのままその闇によって僕は地下一万メートルの地底に沈められた。

 ――しかし、僕の潜在能力も負けてはいなかった。二年程の時を経て、再び地上に僕を戻した。場所は、若干角度が変わったせいでゴンク帝國の『第八の山アハトベルク』ではなく、ソルトルムンク聖王国の『クルス山』になってしまったが……、

 とにかく龍王暦一〇四九年八月に、ホルムとマークによって僕が発見されたというわけだ! 彼らは近くで白い閃光が瞬き、落下音がしたと言っていたが、あれは、僕が地下から地上へ飛び出した時の音というわけだ。

 ――しかし、僕の潜在能力では地上に出るのが精一杯だった。結局、僕の記憶と能力を封じていた闇の封印は、結果的にナンダの突きの炎の力で打ち破られたというわけだ!!」




〔参考一 用語集〕

(龍王)

 難陀ナンダ龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王)

 跋難陀バツナンダ龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王)

 沙伽羅シャカラ龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王)

 和修吉ワシュウキツ龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王)

 徳叉迦トクシャカ龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王)

 阿那婆達多アナバタツタ龍王(カルガス國を建国した第六龍王)

 摩那斯マナシ龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王)


(人名)

 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)

 グラフ(ソルトルムンク聖王国の地利将軍)

 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)

 シェーレ(ハクビ将軍の副官)

 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)

 ソヤ(沙伽羅龍王に仕えていた龍人)

 ドンク(ハクビ将軍の副官)

 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)

 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)

 ホルム(コムクリ村の住人。ハクビをクルス山で発見した)

 マーク(ハクビの親友)

 ミラーグス(スキンムル城の城主)


(国名)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国 第八龍王優鉢羅ウバツラの建国した國)

 バルナート帝國(北の強国 第七龍王摩那斯マナシの建国した國 金の産地)

 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅シャカラの建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ。今は滅亡している)


(地名)

 アハトベルク(竜の山脈の一つ。『第八の山』とも呼ばれる)

 クルス山(ソルトルムンク聖王国の南西にある山)

 スキンムル城(ソルトルムンク聖王国の東部地域の城)

 竜の山脈(ゴンク帝國東部に位置する八つの山が連なっている山脈。ヴェルト大陸一のドラゴンの生息地でもある。『ドラッヘゲビルゲ』とも言う)


(兵種名)


(付帯能力名)


(竜名)

 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)

 ドラゴノイド(十六竜の一種。竜と人との混血で、竜の血が多く混じっている種類。『竜人』とも言う)


(その他)

 人和将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。第三位の称号である)

 地利将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。第二位の称号である)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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