【011 黄金の戦士グラフ】
【011 黄金の戦士グラフ】
〔本編〕
ハクビ、マーク、レナの三人の前に現れた十数頭の騎兵は聖王国軍であった。
「お前達はこの村の者か?」そう言うと先頭のゴールドナイト(最終段階の兵)が兜を脱ぐ。
少し赤ら顔の顔半分が髭で覆われた中年の男性であった。
「はい! そうです!」ハクビが代表して答えた後、続けた。
「ところであなたはどなたですか? 聖王国の兵に見えますが……」
赤ら顔の男はにこりと笑うと答えた。
「うむ! その通りだ。わしはこの國の地利将軍のグラフだ! この村を救いに来たのだが一足遅かったか!」グラフ将軍は非常に残念そうであった。
「チリショウグン! もしかして聖王国の最高幹部の三将軍の一人の地利将軍ですか?」マークが興奮して口をはさんだ。
「そうだ! こちらが地利将軍のグラフ様だ」グラフ将軍の後ろにいた一人の槍兵が答えた。
そしてその槍兵は続けて、
「俺は、そのグラフ将軍の副官でスルモンと言う」
「「助かったんだぁ~」」マークとレナの兄妹はそろってそう言うとその場に座り込んでしまった。
「スルモン!」
「はっ」
「この者達をいますぐアユルヌ渓谷まで案内しろ! わしは他に生存者がいないか調査してから戻る」
そして、ハクビ達三人はスルモンに案内されてアユルヌ渓谷に向かった。数名で守られながらアユルヌ渓谷に向かう道すがらハクビはマークに尋ねた。
「マーク。地利将軍って何だ?」
「そうか! ハクビは知らないのだな。分かった説明する」マークはそう言うと説明を始めた。
「僕らの國であるソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高位に『三将軍』っていうのがあるのだ。三将軍は並の将軍より上位で、天時将軍、地利将軍、人和将軍と呼ばれている。ソルトルムンク聖王国の考え方で、天・地・人――つまり、天の時、地の利、人の和がなければ何事も成し遂げられないというところからきている。さっき会ったグラフ将軍はその三将軍の二番目にあたる地利将軍にあたるのさ」と……。
さて半日後、ハクビ達三人はコムクリ村から南東に三十キロメートルの地点にあるアユルヌ渓谷に到着した。そこには数十もの横穴が自然に作られており、その中の一番大きな洞窟に五十人近くの人々が潜んでいた。
「ここアユルヌ渓谷は、今の我々(聖王国グラフ軍)の拠点である。ここで兵を集め、反撃のチャンスを窺っているのだ」副官のスルモンがハクビ達三人にそう説明した。
さて、コムクリ村に残ったグラフ将軍とその部下達はコムクリ村の生存者を捜したが、ハクビ達三人以外一人もいなかった。ハクビが倒したバルゴー隊長もグラフ将軍到着から二時間後、息を引き取った。
グラフ将軍、バルゴー隊長の兜を見てつぶやく。
「これはバルナート帝國四神兵団の一つ――白虎騎士団の小隊長クラスの者がかぶる兜だ」と……。
額の部分についているシルエットは、確かに虎の横向きの頭部のようであった。
さて、アユルヌ渓谷でグラフ将軍の戻りを待つ間、ハクビ達三人は、副官スルモンから今年の三月に行われた『バクラの戦い』と、その後の『マルシャース・グール王城陥落』までの詳細について聞かされたのである。
〔参考一 用語集〕
(神名・人名等)
グラフ(ソルトルムンク聖王国の三将軍の一人。地利将軍)
スルモン(グラフ将軍の副官)
ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年)
バルゴー(バルナート帝國軍の白虎騎士団に所属する小隊長)
マーク、レナ(コムクリ村の住人。マークが兄で、レナが妹)
(国名)
ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅の建国した國)
バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯の建国した國。金の産地)
(地名)
アユルヌ渓谷(コムクリ村の南東にある渓谷)
コムクリ村(ソルトルムンク聖王国の南西部にある小さな村)
バクラ(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある町)
マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)
(兵種名)
ゴールドナイト(最終段階のゴールドホースに騎乗する重装備の騎兵。『金騎兵』とも言う)
〔参考二 大陸全図〕