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【001 白き青年】


【001 白き青年】



〔本編〕

 ヴェルト大陸の八國はちこくの一つ『ソルトルムンク聖王国』。

 その南西部に位置するクルス山の中腹で、二人の男が狩りをしていた。

「マーク! 獲物はそっちだ! お前が仕留めろ!!」

「分かった! 父さん!」

 マークと呼ばれた青年はそう答えると、弓に矢をつがえた。

 矢をつがえた前を、一匹の兎が横切る。

 マークが、兎に狙いをつけ、矢を放とうとしたその時。

 彼の視界が、真っ白な閃光で覆われ、刹那、大きな衝撃が起こり、大地が大きく揺れた。


「マーク! 大丈夫か?!」

 ひげ面の四十代の男――ホルムは、その衝撃に尻もちをついたが、すぐ立ち上がり、息子であるマークに向かって叫ぶ。

「大丈夫! 父さんは?!」

「わしも大丈夫! ……しかし、何だ! 今の衝撃は!! 何かが近くに落ちたのか! ……マーク! すぐ近くだ! その場所を見にいくぞ! 場合によっては、村に伝える必要もあるかもしれないからな……」

 ホルムはそう言うと、マークと共に、その揺れた場所に急いで向かった。


「父さん! 人が倒れている!!」

 その場所に辿り着いたマークが、後から続いているホルムに伝える。

 その場所は木々に覆われていたが、それが全てなぎ倒されており、直径十メートル、深さ一メートル程度の大きなクレーターが出来ていた。

 そして穴に、一人の男が倒れていたのであった。


「もう、死んでいるのかな?!」

 マークがつぶやく。

「村の者ではないな! ……だが、まだ息はある!」

 ホルムは、倒れている男の顔を確認し、脈をとり、そう答えた。

「とりあえず誰であれ、うちまで彼を運ぼう! マーク! 手伝ってくれ」

「うん!」


「……あれ? この人……、手に何かを握っている!」

 マークの呟き。

 マークが呟いたよう、その倒れている男の両手は、何か柄のようなものを握っていた。

 ただ、握られている物については、土砂にほぼ埋まっていたため、マークが土砂を取り除くまで、男が握っているそれが何であるかは、分からなかった。

 マークが、土砂を払うことにより、その握っているものが何かが分かる。

 倒れている男が握っているそれは、斧であった。それも両手に一本ずつ。

 斧は、二本とも、使い込まれた感のある古めかしい代物だった。

 ただ、斧は木こりが使用するような木を切るための一般的な斧でなく、戦いで使用する、いわゆる戦斧せんぷと呼ばれる代物であった。

 二本の戦斧は、大きさがそれぞれ異なっていた。

 一本は人の背丈ほどの長い柄に、刃渡り二十センチメートル程度の斧。

 そしてもう一本は、柄の長さが二十センチメートルほどという極端に短く、刃渡りも十センチメートル程度の、投擲とうてきに適している手斧。


「よし、彼はわしが運ぼう! マークは、この二つの斧を持って帰るぞ」

 そう言うと、ホルムは自分の弓矢をマークに託し、倒れている男を背に担いだ。

 この親子――ホルムとマークは、クルス山のふもとにあるコムクリ村に住んでおり、狩猟を主な生業なりわいとしていた。

 彼らは、謎の男を、自分の家に連れて帰った。

 男はマークと同世代の二十代ぐらいに見え、身長が百七十センチメートル程度で痩せ型であった。

 目立った特徴と言えば、肌の色が透き通るように白く、その肌よりさらに白い髪と眉であった。

 青年はホルムの家に着いても、すぐに意識が戻らず、彼が意識を取り戻したのは、三日後のことであった。


「ここはどこですか?」

 目を覚ました青年が、最初にホルムに尋ねた言葉である。

「おっ! 意識が戻ったか! よかった! ここはコムクリ村だ。何故、お前はクルス山で倒れていたのだ? そもそも、お前はどこの者だ?!」

「……コムクリムラ? ……クルスサン? それは何処ですか? ……それより僕は誰ですか?!」

 青年のこの答えにホルムは呆れたように、

「それはこっちが聞きたいことだ! ……ん? お前! もしかして、自分のことが分からないのか? 名は何という?!」

 ホルムの問いに、青年はさらに困惑した顔つきになる。

「名前? 分からない!」

 どうやら、青年には自分が誰なのかの記憶が全く無かった。

「困ったことになった!」

 ホルムは、腕を組んで考え込んでしまった。


「あっ! あれは?!」

 ホルム同様、途方に暮れていた青年が、急に叫ぶ。

「僕の斧だ!!」

 青年が、ホルムの家の片隅に置かれていた二本の戦斧に気が付いた。

 青年は、そこまで駆け寄り、戦斧を手にとった。

「その斧は、お前が倒れていた時に握っていたものだ。その斧についての記憶はあるのか?!」

「いえ!」

 ホルムの問いに、青年が答える。


「記憶にはありません! ただ感じました! 僕のだと……!」

 謎の青年はそう答えると、右手に長い柄の斧である長斧ちょうふ、そして、左手には短い柄の斧である短斧たんふを握り、その姿で、ホルムの方に向き直った。

 ホルムに向き直った彼の姿は、立っていると倒れていたという違いこそあれ、ホルムとマークが、彼を初めて穴の中で見た姿と、全く同じであった。


 ヴェルト大陸が八大龍王と呼ばれる神々に平定され、千年余りの年月が過ぎた龍王暦一〇四九年八月のある日の出来事である。




〔参考一 用語集〕

(神名・人名等)

 ホルム、マーク(コムクリ村の住人。ホルムが父でマークが息子)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王 優鉢羅ウバツラの建国した國)


(地名)

 コムクリ村(ソルトルムンク聖王国の南西にある村)

 クルス山(ソルトルムンク聖王国の南西にある山)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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