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彗は、咎めることもなく、淡々と駿一の分まで料理を作った。
今夜のメニューは豚の生姜焼きだ。本当は鯵の塩焼きにするつもりだったが、鯵は三尾しか無かった為、急遽変更することにしたのだ。幸い豚肉は多めに購入し、冷凍保存してあった。
出来上がった料理をテーブルに並べると、駿一が瞳を輝かせた。
「うわ!豚の生姜焼きだっ!俺、大好きなんだ、これ!」
いつもムスッとした表情で言葉も少ない翔平と、軽薄で悪ガキっぽい駿一とは、友人とは言いながら、彗にはかなり対照的に思えた。二人に共通する項目と言えば、時折見せる視線の鋭さと身を包む空気の張り詰めた清澄さだろうか。不用意に近付くと切れてしまいそうな雰囲気に、彗は畏れを感じないではいられない。
だが、そんな彗の内心に気付くことは無く、駿一は笑顔を向けた。
「彗ちゃん、君は最高だよ!良いお嫁さんになるぜ?!俺のところにこない?」
言われて、彗は伏し目がちになる。こういうテンションの男は苦手だ。どう対応して良いか解らない。しかも、当たり前のように彗が女の子だと受け止めている。敢えて男っぽい格好をし、感情の起伏を隠しているのに、普通に女の子扱いされるとかえって不安で堪らなくなってしまう。
「………駿。いい加減にしておけ。それとも切られたいか?」
翔平が言うと、駿一は肩をすくめた。
「嫉妬深いな、翔。」
「そういう問題じゃねぇ。彗が困ってるだろうが。いつも女女言ってやがるクセに、女心が解らないとは言わせないぞ。」
駿一は渋々言った。
「………解ったよ。正攻法でいけば良いんだろう?」
そして、真っ直ぐ彗を見つめてきた。
「ご飯、おかわりお願いします。」