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翌日から、とりあえず三人の生活が始まった。
食事は彗が作った。これがこの家の、いつもの生活なんだろう。三人で朝食を食べた後、哲平と彗はそれぞれ学校に行く。一人残された翔平は、まず食事の後片付けをし、家の中を掃除した。とはいえ、彗と哲平の部屋だけは避けた。哲平はともかく、誰かが私室に入ることを彗がどう感じるか判らなかったからだ。
一通り掃除機をかけ終わると、翔平は自分の部屋に行った。グリーンのGOOD―BYEもそのままだ。昨夜は気分的余裕が無かったのか気が付かなかったが、ベッドに寝転がると太陽の匂いがするのを感じた。多分彗が、頻繁に布団を干してくれていたのだろう。彗は、いつ戻るか解らない人間、それも自分を疎んじて出て行った者の布団を頻繁に干すという心遣いのできる若者なのだ。それなのに、あの冷たい声、感情のこもらない言葉………。何がアイツにそういう態度を取らせるのだろうか。
そう思いながら、もう一人、翔平が避けては通れない相手に電話を掛ける。
「……駿か?」
『翔。お前、どこに行っている?』
「どこでも良いだろう。とりあえず、俺は暫く帰らねぇ。仕事は休業ってことで頼む。」
『何、ふざけたこと言ってやがる!まさか、女か?』
「違う。」
『これまでまぁ~~~ったく女に縁が無かったお前が、ようやく目覚めたのか?』
「違うって!」
『だから、外泊のみならず、朝になっても帰らなかったんだな?!次の日になっても、またその次の日になっても、当分は女から離れたくないって言いたいんだな?!』
「いい加減にしろ!」
『今まで全然女っ気が無かったクセに、そんなに入れ込むとは、大人の階段を上り始めたんだねぇ、翔平君。』
「違うって言ってんだろうが!この勘違い女好き野郎が!」
『じゃあ何だ?もしかして、ストーカーしてんのか?それで片時も目を離したくない、と?』
「だっから、どうしてお前はいつも女絡みでしか考えられないんだ?!とにかく俺は今、実家でモメ事があるんだ!それが解決するまでそっちには戻らねぇ!」
『……何かあったのか?』
駿の興味が透けて見える。
翔平はちょっと嫌な予感がしてクギを刺した。
「親父が死んだんだ。それに伴うゴタゴタがあるだけで、別にお前に関係のある案件じゃねぇ。」
携帯電話の向こうで微かに笑う気配がした。
『……水臭いな。俺とお前の仲じゃねぇか。』
その言葉を残して、通話が切れる。翔平は嫌な予感が満載になった。