30.
昼寝なんてしなければ良かった。
今更ながら、彗は後悔した。
いくら翔平に助けられて、その腕に縋って安心できたからと言って、眠ってしまうんじゃなかった。夜がどんなに辛くても、眠りに逃げることができなくなってしまったのだから。
浅い眠りの中で聞いた静の声。
『マンションはどうするの?』
それに対する翔平の答えは
『ここで一緒に暮らせたら……。』
だった。
その会話は、おそらく夢ではなくて、現実に交わされたものだろう。
でも、考えたくはない。毎日、翔平の隣に静が寄り添う姿を見なければならない未来も、翔平の愛情も優しさも静に注がれている様を感じなければならない未来も、そんな二人の想いを笑顔で受け止めて見守っていかなければならない未来も………!
だが、一緒に暮らすのを嫌がれば、翔平は静の元へ帰ってしまうかもしれない。手の届かない、声の聞こえない、笑顔を見ることさえかなわない、私の知らないどこかに行ってしまうかもしれないのだ。
常に恋人と一緒にいる姿を見続ける日々と、遠く離れて会うこともままならない時間のどちらが苦しいのだろう?辛いのだろう?
そう考えると涙が溢れてしまいそうだった。でも泣いてはいけない。翔平に起きていることが判ってしまう。いや、悪夢を見たと、泣いて縋り付いてしまった方が良いのだろうか?その腕のぬくもりが自分のものではないと知っているのに?
最初の頃の厳しい翔平の姿をずっと貫いてくれていたら、こんなに心を占められることは無かったのに。静を想うのなら、自分にまで優しくしてくれなければ良かったのに。
ひとりぼっちになってから初めて見つけた大切な人は、最初から失うことが決まっていたのだ。こんなに好きなのに……。ずっと側にいたいのに………。
想いは混乱してゆく。自分にとって確かなのは、繋いだ翔平の掌の温度だけなのに、求めることが赦されないのであれば、これから先どうやって生きていけば良いのかさえ彗には解らなかった。
夜の非情な長さを、彗は改めて思い知らされた。
短いです。




