27.
家に入って、リビングのソファに座っても、彗は翔平から離れなかった。
駿一が、翔平の振りをして、学校に彗の欠席の連絡を入れる。静が彗にホットミルクを淹れた。
「………で、何があった?」
電話を終えた駿一が尋ねた。
「これだけ彗ちゃんがショックを受けてんだ。何も無かった訳じゃないだろう?」
翔平の歯切れが悪くなる。
「うん、まぁ、ちょっと、な………。」
「あの、真樹とかいうヤツに迫られたのか?」
翔平は愕然とする。
「駿!お前、もしかして見ていたのか?」
駿一はニヤリと笑った。
「現場を見てなくても、あの坊やが彗ちゃんに夢中なのは、明らかだったろ?!」
「そう、だな。」
そして翔平は、自分にくっついたままの彗の顔を覗き込む。
「だが彗は気付いて無かっただろう?だからショックだったんだよな?」
彗は小さく頷いた。
「でも、翔がいたんだから未遂よね?」
静に問われて翔平は頷いた。
「当たり前だ。俺がアイツに遅れをとるか。」
「なら、良かったわ。やっぱり女の子は、何事も好きな人相手じゃないと、ね。」
彗も微かに頷いた。
「………うん。……好きな人とじゃなきゃ、やだ………。」
翔平が彗の頭を撫でる。
「まぁ、そりゃそうだよな。」
駿一が面白そうに言う。
「じゃあ、先に好きな男にしてもらったらどうだ?最初っから最後まで。」
途端に翔平が顔をしかめる。
「駿。彗が傷付いている時に、そういう冗談はよせ。」
だが、駿一は更に楽しむように、瞳を煌めかせて言った。
「翔にとってはそれだけじゃねぇだろう?ヤキモチっつーか、独占欲っつーか、そういうのもあるんじゃねぇのか?」
「お前は想像力が過ぎる。」
「そうか?じゃあ聞くが、いずれは彗ちゃんも男を連れてくるかもしれないんだぜ?この人とお付き合いしています、とか、彗ちゃんを僕に下さい、とか……。そういう男に、ヤキモチを焼かずにあっさり彗ちゃんを譲れるのか?ん?翔平くん。」
ニヤニヤしている駿一に、翔平は断言した。
「彗の保護者として、俺は、俺が認めた男にしか彗はやらない。そう決めている。」
駿一がちょっと笑った。
「まるっきりガンコ親父だな。それが独占欲でなくて何なんだ?」
翔平が答える前に静が尋ねた。
「じゃあ、もしも、もしもよ。真樹くんだっけ。彼がそういう行動を取ってなかったら、彗ちゃんを譲れた?」
「駄目だ。」
「どうして?」
「四年もコイツの側にいて、コイツの心の傷を癒せていない。」
「それ言っちゃうと、すんげーハードル高くなっちまうぜ?彗ちゃん、大変だな。半端な彼氏じゃ、翔は認めてくれないぞ?」
彗は子供のように首を振った。
「彼氏なんて、いらない。」
翔平以外は。
そんな彗の内心に気付かずに、翔平はちょっと笑った。
「なら、好きな男ができるまではずっと、俺の横に居れば良い。」
「うん。」
彗は素直に頷いた。
そんな二人に、駿一と静は視線を交わし合いつつ苦笑した。




