26.
翌朝。彗は丸首のTシャツをカットソーに変えて、翔平から貰ったネックレスをして登校することにした。カジュアルシャツとジーンズはそのままでも、翔平が目を細めて
「………可愛いな。」
と言ってくれたのが、彗には嬉しかった。
家を出ると、前で待っていた真樹も驚いたような顔をした。彗は少し照れくさくなる。
「……どうしたんだ、彗?何かいつもと全然違う………。」
「………心境の、変化……かな。」
「アクセサリーを付けてるのなんか、初めて見た。」
彗がちょっと赤くなる。
「……こういうの、何にも持ってないだろうって、翔平さんが………。」
「………買ってもらったのか?」
「………うん………。」
恥ずかしそうな、けれど嬉しそうな彗に、真樹の視線が尖る。
「………好きなのか?」
「え?」
「好きなのか?翔平さんのこと………。」
彗は視線を落とした。
「………解らない………。」
「でも、プレゼントを貰って嬉しかったんだろう?」
彗は俯いたまま、コクンと頷いた。
「兄貴だぜ?」
「………うん、解って、る、けど………。」
頬を染めつつ瞳を潤ませる彗に、真樹は思わず激情に駆られた。その細い手首を掴む。驚いたように見返す彗に叩き付けるように言った。
「俺だって、いや、俺の方がずっと前から、お前のことが好きだったのにっ!」
真樹は掴んだ手首を引き寄せた。
突然のことに狼狽していた彗は、反応が遅れてしまう。顔が急激に近付いて、でも逃げるに逃げられない。
「やだっ!翔平さんっ!」
目をギュッと閉じたら涙が滲んだ。叫んだ唇を塞ぐように何か触れた。涙が粒になって瞳から溢れ出す。
だがその時、唇に触れたものがカサリと音を立てた。
ゆっくりと瞳を開けると、間に入った名刺大の一枚の紙が自分を護ってくれたのが涙の向こうに見えた。一瞬前とは違った涙が溢れて止まらない。紙を人差し指と中指で挟んで立つ青年の脇腹に抱き付く。
「翔平さんっ!」
翔平は横から抱き付く彗の背中に腕を回しながら、真樹に向き合う。抱き付いている彗にさえ解る程の怒りを迸らせて、だがそれを抑えるように言った。
「真樹……。コイツはお前のことを信じていた筈だ。そのお前がコイツを傷付けてどうする?!」
真樹は苦しそうに顔を歪めて俯いた。踵を返すと無言で走り出す。
それを見送った翔平は彗の顔を覗き込んだ。
「………彗。大丈夫か?」
だが彗は、パニックになってしまったかのように、翔平に抱き付いたまま、泣きじゃくっている。翔平は小さく息を吐いて、囁いた。
「………今日は休め。帰るぞ」
彗は泣きながらコクンと頷く。そんな彗を引き離すこともできず、腰を抱くようにしながら、家に向かってゆっくり歩き出した。
家に着く頃には、少し彗も落ち着いてきた。落ち着いてくると、段々自分の気持ちも見えてくる。どんなに翔平に頼っているか、側にいて欲しいと思っているか、惹かれているのか………。こんな感情は初めてのことだった。間違いなく、翔平に恋をしてしまっている、そう自覚した。




