23.
更新が遅くなって申し訳ありません。
ショッピングに出掛けるという彗と静を見送った後、翔平はリビングのソファで爆睡した。殆ど毎日、夜は彗が気になって眠っていない。昼間、仮眠を取るようにはしていたが、今日は彗の学校もアルバイトも休みで、しかも彗の身柄は静に預けた為、気が抜けたのか、ストンと眠りに落ちて、密度の濃い睡眠を得た。
午後になって、翔平は駿一の笑い声で目が覚めた。
「………うるさいぞ、駿!」
そう言って目を開けた翔平は、唖然とした。駿一と哲平が大量のアルバムを広げていたからだ。
「何やってんだ、お前等!」
「翔平が捨てた写真を、哲平がその度にこっそり拾って作ったアルバムを見てるのさ。」
「はぁっ??」
「だって兄さん、カッコ良いんだもん。一緒に写りたがってた女達は切り取って、兄さんだけにしたのを、アルバムに貼ったんだよ。」
哲平は笑って続けた。
「確かに、大半が隠し撮りで、しかも不自然に横とか後ろに変な女が写ってたりしていたけどさ、兄さん自身はカッコ良いんだから、捨てるの勿体ないじゃん。だから、兄さんの部分だけ切り取って、アルバムに貼ったんだよ。それがこんなにたくさんあるんだ。」
駿一がニヤニヤと笑った。
「随っ分、モテたんだな、翔。」
「うん。すっごかったんだよ!ほら、これ見て!」
と哲平が開いたページには、色とりどりの包みが入ったダンボール箱が三つ写っている写真があった。
「何だ、これ?」
駿一が言った時、リビングの扉が開いた。
「ただいま~。」
「……ただいま。」
女性二人が帰宅したのだ。
「ちょっと、何散らかしてるの?!」
散乱しているアルバムに驚く二人には構わず、駿一はもう一度哲平に尋ねた。
「これ、何なんだ?」
「兄さんが高二の時に貰ったバレンタインデーのチョコレートだよ。」
「は?ダンボール箱みっつもあるぜ?!」
「うん。」
「えっ?!なに、なに?」
静と一緒に彗も写真を覗き込んだ。小さいとはとても言えないダンボール三箱にぎっしりとチョコレートと思わしき包みが入っている。
「すご~い!」
静は無邪気に言ったが、彗が翔平を盗み見ると、当人は不機嫌そうに腕組みをして青筋を立てている。
哲平が補足した。
「確か兄さんが高一の時は、担任の先生が男の先生で、兄さんが学校で渡されたチョコレート、校則違反として没収して、先生達で分けて食べてくれって頼んだんだよね。だけど、高二になると担任が女の先生で、チョコレートを渡した女の子の気持ちを考えなさいって、宅急便で送ってきたんだ。学校から着払いで三箱。それがこれ。」
「その頃って哲平はまだ小学校一年生か二年生だよね。よく覚えていたね。」
珍しく彗が口を挟むと、哲平は自慢気な顔になった。
「俺が写真に撮ったんだもん、覚えてるよ。」
「ダンボール三つは凄いよなぁ~。芸能人並だろう。」
「特定の彼女はいなかったの?」
静に問われて、翔平は不機嫌そうな表情のまま、首を振った。
「好きでもない女と付き合うことに何の意味がある?」
「ということは、好きになるような相手はいなかったってことね?」
「女に興味は無かった。」
「で、この大量のチョコレートはどうしたんだ?もしかして全部捨てたのか?」
「いや、親父がどっかの施設に寄付した筈だ。」
「ああ、成る程。そういう手があるか。確かに処分するよりは良いだろうな。」
静が瞳を上げた。
「じゃあ、翔の方から女の子に何かプレゼントしたことはあるの?」
「………どうだかな。」
「え~っ?気になる~!彗ちゃんも気になるよね?!」
話を振られて、彗は戸惑いながらも小さく頷いた。翔平が顔をしかめる。
「………彗。お前までそんな興味津々な顔して俺を見るな。」
「今日の彗ちゃんの洋服が初めての女の子へのプレゼントだったりしてな。」
駿一が悪戯っぽく言うが、翔平はあっさり否定した。
「彗の洋服代は必要経費だ。」
期待したつもりは無かったが、はっきり必要経費だと言われて、彗は少し胸が痛んだ。でも、その痛みがどうして起こるのかまでは判らなかった。
翔平は顔を上げて、瞳を伏せた彗に向かって言う。
「そういや、服、着てみせてくれ。」
「そうね。スポンサーにはちゃんと見せなきゃね。」
静が笑って彗の手を取った。
「ちょっと待っててね。」
着替えて戻ってきたが、彗は見てもらうのが恥ずかしくて、リビングに入るのを少し躊躇った。普段はジーンズかパンツの彗にとっては、何と言っても、中学校の卒業式で最後に着た制服のスカート以来である。
静は躊躇する彗に微笑んで
「大丈夫。可愛いわよ。」
と言って、手を掴み、リビングへ引っ張っていった。
男三人が自分を見るのを感じて、彗は静の後ろに隠れた。それには構わずに静が解説を始める。
「彗ちゃんがあんまり抵抗無く着れる物が良いと思って、今までのお洋服をベースに考えたのよ。Tシャツをカットソーに、羽織っていたカジュアルシャツをレースのボレロに、ジーンズをデニムのロングタイトに変化させただけ。でも、可愛いでしょ?!」
「うん。可愛いな。」
駿一が言うと、哲平も頷いた。
「彗、すごく良いよ。似合ってる。」
だが、肝心の翔平が、何か考えるように彗を見ていた。
「何?気に入らない?」
静が尋ねると、翔平は否定した。
「いや、そうじゃない。………彗。」
彗は不安気に瞳を上げた。
「お前、明日もその格好に着替えろ。一緒に出掛けるから。」
「ということは、気に入ったってことね。」
静は満足そうに頷いた。




