22.
土曜日。約束通り、彗は静とショッピングに出掛けた。
静も彗もジーンズ姿だが、彗本人から見ても、静はお洒落で自分は野暮ったい、と思えた。何だか隣に歩くのが恥ずかしいような申し訳ないような気分になる。だが、静はいつもと変わらない笑顔で言った。
「私ね、スリムなタイプのカーゴパンツが欲しいのよ!素敵なのが見つかると良いな。」
ナントカパンツと言われてもチンプンカンプンだ。今までお洒落とか女の子らしさとかそういうものには無縁だったのだから、仕方がない。
「………そうですね。」
微笑んだつもりが作ったような笑みになってしまう。それでも、静は更に嬉しそうに言った。
「彗ちゃんのお洋服も買うのよ?!」
「えっ?!どうして、ですか?」
「翔が、今度一緒に出掛けたいから、彗ちゃんに似合う服をいっぱい買ってやってくれって、軍資金をはずんでくれたのよ。」
「……でも、私……翔平さんに洋服を買ってもらう理由が………。」
「彗ちゃんには無くても、翔の方にあるんだから良いのよ。それに翔、ああ見えて凄く稼ぎは良いんだから、いつも頑張ってくれてる彗ちゃんにそれくらいしてあげてもバチは当たらないわ。」
静の言葉に、彗はつい尋ねた。
「あの、翔平さんって、どういうお仕事されてるんですか?」
静は驚いたような顔をした。
「えっ?彗ちゃんも聞いてないの?哲平くんも知らなかったのよ?!………もう、ほんとに翔ってば何やってんのかしら?!」
その言い方が何だか妙に親しげで、彗の心に小さなトゲを埋め込む。
それに気付かない静は、やっぱり笑顔で言った。
「翔の仕事のことは、また翔に聞いてみると良いわ。駿も哲平くんに本人に聞けって言ってたし、翔が話していないことを私が勝手に話すのも良いことじゃないから。」
翔平が自分には話してくれないことも、静は当たり前のように知っている。その事実は新たなトゲを心に埋め込んだ。
足が痛くなる程歩き回って、静は待望のカーゴパンツとそれに合わせたロングのカーディガンを、彗は静の見立てで、スクエアネックのペパーミントグリーンのカットソー、緩いVネックのオレンジのカットソーにデニムのロングタイトスカート、レースのボレロにシルバーのミュールを買った。カットソーは二枚あると使い回しが利くこと、ずっとジーンズかパンツだった彗に、いきなり丈の短いスカートは抵抗があるだろうということ、それに履き物もスニーカーしか持っていない為にミュールを選んでくれたのだった。
「チュニックとかスパッツも、彗ちゃんに似合うような素敵なのがあれば良かったんだけど………。まぁ、まだまだ彗ちゃんのお洋服は足りないんだから、また一緒にショッピングしようね!」
お洒落なカフェで向かい合ってランチしながら、静は綺麗な笑顔を見せた。本当に綺麗な女性だと彗は思う。顔の造作は勿論だが、それ以上に表情、そして内面から溢れる何か特別な魅力が、静を輝かせていると思う。それは恋心かもしれない、と彗は思った。そしておそらくその相手は翔平だろうと。だから、夜中に呼ばれても飛んでくるし、同居生活も厭わないのだ。そう考えて、また心に新しいトゲが埋め込まれていく。
チクチクと心に突き刺さるトゲの痛みに耐えながら、彗は静にぎこちなく微笑み返した。




