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ダブルS  作者: かじき
20/36

20.



 夜になって、また翔平の部屋に引っ張ってこられた彗は、大人しくベッドに入った。だが、いつもは背中を向けるのを、今夜は扉に凭れ掛かる翔平の方を向いた。

 朝、真樹に言われたことで、彗の中に言い様の無い孤独感があった。確かに翔平も家を出ていた間に恋人を作っていておかしくない。そしてそれは静ではないかと疑っていた。彗も静には好意を持っている。あの二人が恋人同士であっても不思議は無いと思う。だが、こうやって側にいてもらえる時間が、いずれ失われると思うと、また独りになるという不安が頭をもたげる。

彗がぼんやり考えていると、目があって、翔平が立ち上がる。ベッドの脇まで来て座った。

「どうした?眠れないか?」

「う、ん………。」

「夢を見るのが怖いのか?」

 それは怖い。彗は頷いた。

「じゃあ、眠るまでここに座っていてやるから。」

 翔平の瞳が優しくて、彗はつい甘えたくなってしまう。孤独を打ち消したい気持ちと、独りで生きていく事ばかりを考え自分に厳しくしてきたことの反動のせいなのかもしれない。それに蛍光灯の下とは違い、スタンドの薄明かりでは、自分の表情も多少は隠れているのでは、という思いもあった。

「……翔平さん。」

「何だ?」

「……手。」

「手?」

 彗はコクンと頷いた。

「……繋いでもらっても……良い………?」

 翔平は穏やかに微笑んだ。

「ああ。」

 手を繋ぐと、彗は改めて、翔平の掌の大きさを感じた。最初は片方の手を繋いでいた彗は、両手で翔平の大きな掌を包み込む。けれど、大きくて両手でも収まり切らないようなその掌に、何故か安心して瞼を閉じた。

 久し振りに、いつもの悪夢を見ずに目覚めると、まだ夜中の二時を回ったところだった。悪夢に邪魔されなかった分、短い時間でも熟睡できたようだ。見ると、彗の手を繋いだまま、翔平も眠っている。ベッドに横向きに頭を乗せて。だから彗からは、頭しか見えなかった。

 彗は翔平を起こさないように、手を繋いだまま、そぉ~っとベッドから下りる。翔平の横に座り、向き合うように自分もベッドに横向きに頭を乗せた。

 スタンドの明かりの中で、こうやって近くで見ると、真樹がカッコ良いと言ったのも頷ける程、翔平は整った顔立ちをしているのが判った。だが、その鋭い瞳が隠されている今は、カッコ良いというよりはあどけなくて、純粋で幼い少年のように見える。

 その頬に、髪に、何だか触れてみたくなって、彗はおそるおそる空いている方の手を伸ばした。あと少しで指先が前髪に触れる、と思った時、その手を掴まれた。翔平の鋭い瞳が自分を見ていて、思わず彗は身震いした。

 と、翔平の瞳から鋭さが抜け、穏やかに変わる。

「何だ、彗か。驚かせるなよ………って、お前、何で起きている?また夢を見たのか?」

 翔平に息が掛かる程顔を近付けられて、彗は瞳を伏せ、首を振った。

「ああ。泣いてないな。……良かった。」

 翔平の声に、本当に安心したような色が見えて、彗は口を開いた。

「……翔平さんが手を繋いでくれたから……、見なかった、怖い夢………。」

「そうか。」

 翔平がまた頭を撫でてくれる。

「で、何、じっと見てたんだ?」

「だって、翔平さんの寝てるところなんて、初めて見たから………。いつも私のせいで、あんまり寝てないみたいだし………。」

 翔平はちょっと笑った。

「寝てるぞ、ちゃんと。じゃないと、人間は生きていけないんだからな。」

「解ってるけど………。」

「ん?どうした?」

「……ううん。ただ翔平さん、やっぱり哲平と似てるなって思って………。」

 翔平はちょっと笑った。

「アイツが俺に似てるんだ。年が離れてても、弟だしな。」

 言われて彗は少し寂しくなった。自分にはもう似ていると言ってもらえる家族はいないのだから。

 だが、その感情を受け止めたかのように、翔平は続けた。

「彗。お前とも兄妹なんだぜ?!確かにご両親にはもう会えないが、お前は独りじゃない。兄と弟がいるんだ。それを忘れるな。」

 最初に会った時から暫くは怖かったけれど、今では彗にも翔平がいかに自分を心配して心を砕いてくれているのか、少しずつ解り始めていた。こうして自分を見つめる瞳がどんなにか優しいことも。

「……まだ、夜中だ。寝れる時にはちゃんと寝ておけ。」

「………うん。」

 素直に頷くと、翔平にいつものように抱き寄せられた。だが、混乱した状態ではない彗は狼狽する。いつも自分はこうやって翔平に縋っているのかと思うとひどく恥ずかしくて、でも当たり前のように包み込んでくれる翔平の腕が優しくて、どうして良いか判らなくなってくる。でもそんな掴み所の無い感情を持て余す自分に翔平が気付かないから、彗はついそのまま翔平の胸に凭れた。自分の鼓動がこんなに早くて苦しい程なのに、翔平から伝わるのはゆっくりと規則的な鼓動で、彗は何だが照れくさいような、悔しいような、それでいて落ち着くような、何とも言えない気分になる。その感情を押し隠すように、彗は瞳を閉じた。


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