19.
あけましておめでとうございます。
本年もどうそ宜しくお願い致します。
今朝も翔平は、学校へ向かう彗を見守っていた。正直、いくら彗でも、真樹が一緒に登下校している時に、自分の命を危険に晒すような真似はしないだろうとは思っている。そもそも、いつかの橋の上でのあの言葉も、本気では無かっただろうと思っている。本気であんな思いを持ち続けているのであれば、これまで死に向かって何ひとつせずにいるとは考えられないからだ。それでもこうやって影で見送るのは、単なる翔平の自己満足かもしれなかった。
表情はあまり変わらなくても、彗は確実に真樹を信用している。四年の月日というのは、それだけの力を持っている。
確かに夜の不安定な状態の彼女は、少しずつ翔平を頼るようになってはきている。だがそれは、不安定だからこその態度であって、まだ本当の意味で心を開いた訳ではない。かえって静の方が、女同士という気安さからか、翔平に対するよりも心を開き始めているのではなかろうか。笑顔を作ろう、見せようとしている様子が伺えるのだから。今の彗の中では、翔平も、翔平の友人である駿一も、心を閉ざすという意味に於いては大差ない。真樹の方が遙かに彗の信頼を得ていると感じる翔平だ。
家に戻ると、駿一と静が向かい合って話し込んでいる。仕事柄、気配に敏感な二人は、リビングに入ってきた翔平に同時に言った。
「「お帰り。」」
「ただいま。……お前等、タイミングバッチリだな。」
駿一と軽く視線を合わせた静は、すぐに翔平に向き直って口を開いた。頬が薄桃色に変わっているが、口調は冷静なままである。
「あのね、翔。駿にも話してたんだけど、彗ちゃんのお父さんが設立した会社って、『根本』だったわよね?!」
「ああ。」
「経営が危ないわよ?!」
「………倒産、ってことか?」
「おそらく今月中には不渡りを出すわ。」
「何でそんなことになった?」
「元々『根本』は彗ちゃんのお父さんが作ったパソコンソフトで売上を上げていた訳で、バージョンアップするにも新たなソフトを開発するにも、必要不可欠なブレーンだったのよ。更に後を引き継いだ彗ちゃんのお父さんのお兄さんっていうのが、専門知識は勿論、商才も経営手腕も何も無い人で、あれよあれよという間に業績が悪化したの。」
「そうか。」
「なぁ、彗ちゃんって遺産とかどうしたんだ?」
駿一が危惧していることは、翔平にも想像がつく。遺産目当てに彗の身柄を返せという話に発展する可能性を懸念しているのだ。
「哲の話では、この家に入る時に相続放棄しているらしい。」
「それが本当なら良いんだけど……。」
「何にせよ、しばらくは彗ちゃんから目を離さない方が良いぜ?」
「このことが無くても、当分は目を離すつもりはない。」
「まぁ、翔がいる時なら危険は無いだろうが……。」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている。」




