18.
彗が家を出ると、いつものように真樹が笑顔で待っていた。
「おはよ。」
「……おはよう。」
並んで歩き出すと、真樹が躊躇うように口を開いた。
「………なぁ、彗。」
「……何?」
「最近お前、バイトの送り迎え、翔平さんにしてもらってるだろ?バイクで。」
彗は瞳を上げた。
「……何で知ってるんだ?」
「音で解るよ、隣だもん。」
「……そうか。…うん、そうだね。」
真樹は視線を落とした。
「お前、俺が夜は危ないから送り迎えしてやるって言った時には断固!拒否しておいて、翔平さんなら良いのか?」
「良いとか悪いじゃなくて、何となく成り行きというか……。」
「成り行きでも何でも、翔平さんだから従ったってことだろう?」
彗はちょっとスネたような表情になる。これまで殆ど表情を変えたことのない彼女の微妙な変化に、真樹は目を瞠った。
「………だって、翔平さん、怒ったら怖いんだもん………。」
だって怖いんだもん、なんて女の子っぽい言葉遣いも初めて聞く。真樹は無性に悔しくなった。
「怖いから、翔平さんの言うがままになるって言うのか?」
「そういう訳じゃない、けど………。」
「それとも、翔平さんがカッコ良いから、気を引きたいのか?!」
彗はキョトンとした。
「翔平さん……て、カッコ良い、の、かな?」
「へっ?カッコ、良いだろう?!」
「そうか……。そんな風に考えたこと、無かった………。」
真樹は少し気が抜けた。彗に微妙な変化が見られても、本人にその自覚は無いのが判ったからだ。
「まぁ、彗にとっては、義理とはいえ兄貴になるもんな。カッコ良いとか悪いとか、そういう意識で見る相手じゃないよな。」
彗は僅かに視線を落とした。
その反応を見て、真樹は思い付いた。血の繋がらない兄妹が結婚できることは真樹も知っている。イコール恋人同士になるのもアリの世の中だ。だが、彗は真面目なところがあるから、『義理の兄妹』が牽制の役目を果たすかもしれない。
「まぁ、その内、翔平さんも彼女の一人くらい、家に連れてくるかもな。」
彗の頭に、静の笑顔が思い浮かんだ。微かな胸の痛みを感じながら、頷いた。
「………そうだね………。」




