11.
「武藤 静よ。宜しくね。」
笑顔で彗に挨拶する静は、長い髪をポニーテールにした綺麗な女性だった。つい彗までも見とれてしまうような凛とした美しさだ。
「静。」
翔平が静を廊下に連れ出す。今から始まる何かに対する不安からか、二人の姿を見送る彗の胸は締め付けられるように苦しかった。
廊下に出た翔平は、静に向き合った。
「アイツの鎧を剥ぎたい。………静。協力してくれないか?」
静は眉をひそめた。美人だけに、そういう表情も美しい。が、翔平が惑わされることは無い。彼女を恋愛対象として、意識したことが無いせいだ。
「……翔、私に何をさせたいの?鎧を剥ぐってどういう意味?」
「アイツは心に鎧を纏っている。男っぽい格好や言動をすることで、甘えを封じようとしているんだ。だが、親父が死んで俺が保護者になった以上、家族に対してまで虚勢を張るのを赦したくない。……まぁ、アイツは俺をまだ家族とは認めていないだろうが。」
「……でも、彗ちゃんには、心に蓋をしなきゃならない理由がある訳よね?それを無視しちゃって良いの?」
「あいつには、俺が酷く傍若無人な男に見えている筈だ。俺の命令だと言えば、また好き勝手なことを言い出したと、諦めるだろう。心では納得していなくても、表面だけでも従う筈だ。そこから、少しずつでも変わっていけりゃ良い。」
翔平は面白くなさそうな表情になる。
「大体な、俺の保護下にいて、ゴキブリ一匹にさえ対抗できないクセに、全く俺に頼らないように神経を張り詰めているというのが、気に入らない。」
静は微かに笑った。
「ってことは、要するに翔は、彗ちゃんに甘えてもらいたいのに、彼女からシャットアウトされてるから、スネてるのね?!」
「ちっ、違う!えっと、つまりだな、アイツがもう少し気楽にというか、片意地を張らずに過ごせるような、そういう変化を起こしたいんだ!普通の女の子らしく毎日を生きられるような………。」
赤面して否定する翔平。だが、一瞬の後にはまた真剣な眼差しに戻る。
「大体、緊張を解く筈の家にいて、常に戦闘態勢でいるなんざ、哀し過ぎると思わないか?!………俺だってアイツが辛い思いをずっとしてきていることは解っている。解ってはいるが、だからといって自分の命を絶つことまで考えて欲しくないんだ。例えそれが本心で無かったとしても。」
他人であった少女を受け入れ、彼女の為に悪戦苦闘する翔平を微笑ましく思いながら、静は言った。
「………つまり私はあの子に、女の子としての喜びや楽しみを体験させて、本来の姿に戻してあげるお手伝いをすれば良いってことかしら?」
「ああ、そういうことだ。………多分、亡くなったアイツのご両親も、心に鎧を付けて生きる娘の姿は見たくない筈だしな。」
翔平は少し表情を和らげた。
「アイツにまつわる詳しい話は、駿にでも聞いてくれ。それから、アイツに掛かる費用は全て俺が持つ。身に付ける物も揃えてやって貰えると助かる。アイツは男っぽい服装で武装しているが、本当は女の子らしい格好もしたいだろうと思うんだ。だが、そのへんのことは俺じゃ判らねぇから。……急に呼び出して、勝手なことを言って、悪いな。」
静は微笑んで首を振った。
「できるだけのことはしてみるわ。」




