空の決闘
黒い風に飛ばされて、やよいは地面に向かってものすごいスピードで落ちていた。
(嘘‥‥わたし‥‥こんなところで死ぬのかな‥‥‥)
そう思って、やよいは目を閉じた。
急に軽い衝撃が来たかと思うと、体が軽くなった。
そっと目を開けると、なんと宙に浮いている。
そして目の前には‥‥‥
「‥‥!?き‥‥雉!?」
「ふう。なんとか間に合ったみたいやなぁ。」
雉は人間の姿で、背中には翼が生えていた。
「ど‥‥どうして翼が!?」
「とりあえず、どっかに降りるで。」
雉はそう言って、高度を下げていった。
雉とやよいは、校庭の裏にある、大きな木の近くに降りた。
「大丈夫か?」
雉はそう言って、やよいの顔をのぞき込んだ。
突然だったのでやよいは至近距離で雉と目が合い、慌てて離れて
「だ‥‥大丈夫!!」
と、真っ赤になって言った。
雉はぽかんとしながら「さよか。」とだけ答えていた。
(な‥‥なんで雉なんかに赤面すんのよ!!あんな変な妖怪に!!)
気持ちを落ち着かせようと、やよいは必死になっていた。
だが、
「おい、来るで。」
と言う雉の言葉で、それどころではなくなった。
「どうしてやよいを助けたの?あなた、人間じゃないくせに。そっか、あなたがやよいの彼氏だから?」
かすみは勝手に話を進めはじめた。
雉はただじっとかすみを見ていたが、何か思いついたようだ。
「かすみ姉!!こいつとは何にも‥‥『ああ。お前の言う通りや。』‥‥って何言いってんのよ!?!?ちょっと雉!?」
慌てるやよいに、雉は小さく耳打ちした。
「ええから俺に合わせろ!もしかしたら助けられるかもしれん!」
「ええ!?ほんと!?」
「アホ!!声でかいわ!!」
多少まるぎこえのような会話をして、雉はかすみの方を見た。
[そう‥‥。いいわねやよいは。幸せで!!!」
かすみがそう言った瞬間、かすみの体は黒い風に覆われた。
「みんなみんな、死んでしまえ!!」
そう言って、やよいに向かって飛び込んできた。
「うわああ!!」
やよいは身構えたが、不思議と衝撃はなかった。
雉が力を使ったらしい。
「平気か?」
「大丈夫。」
その様子を見ていたかすみは、
「‥‥‥‥許さない‥‥‥‥。」
そういって、さらにどす黒い風に包まれていった。
「かすみ姉‥‥‥なんで‥‥‥わたしを殺そうとするんだろう‥‥‥」
その問いには雉が静かに答えた。
「おそらく‥‥あの子は自分とお前を重ね、照らし合わせているんやろ。自分は不幸があったのに、妹はちゃんとした彼氏もいて幸せそう。だから憎い。そういうこととちゃうか?」
「って、なんでわたしの彼氏って事にしたのよ!!」
「そうしたら、逆上して負のエネルギーが出てくるやろ?その時に負のエネルギーを取り除けば、元に戻るかもしれんからな。」
「‥‥そんなことできるんだ‥‥。雉って何者!?」
「だから妖魔や言っとるやん。」
雉の考えにやよいは驚いた。
だが、驚いている暇はない。かすみが先ほどより黒い風を纏ってこちらに向かってきた。
「悪い。やよい、ちょっとこっちこい!」
「ええええ!?////」
突然引っぱられたかと思うと、やよいの体はすっぽりと雉の腕に収まっていた。
「そんなに一緒にいたいなら、二人まとめて殺してやる!!」
先ほどよりも逆上したかすみは、そう言って攻撃しようとした。しかし‥‥
「はっ。殺せるもんなら‥‥‥」
雉の手は、見えない何かをしっかりと握った。
そして、かすみに向かって
「殺してみろや!!」
思いっきり振り下ろした。
「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その瞬間、かすみが纏っていた黒い風が吹き飛び、光で何も見えなくなった‥‥‥。
「‥‥どう‥‥なったの!?」
やよいはだんだん見えてきた視界の中で、必死に姉を捜した。
すると、光の中から優しい笑顔がふと見えた。
「やよい。ありがとう。」
「かすみ姉!!」
どうやら、正気に戻ったらしい。
「ほんとにごめんね。怖い目に遭わせてしまって。」
そう言って、かすみは静かに雉の方を見た。
「ありがとうございました。後はお願いします。」
「‥‥もう、ええんか?」
「はい。ちゃんと罪は償わないと。」
「ちょっと待って!!罪って何なの!?」
やよいの問いに、雉ではなくかすみが答えた。
「生きている人間を殺すと罰を受けるの。たとえ未遂であってもね。」
「そ‥‥そんな‥‥‥‥」
「だが、罪を償えばちゃんと天国へ行ける。」
雉の言葉を聞いたやよいは、はっと顔を上げた。
かすみは幸せそうに微笑んでいる。
「じゃあ、そろそろ行くわ。」
そう言うと、足の方がだんだん薄くなっていった。
「かすみ姉!!」
やよいは涙をためてそう叫んだ。
「雉さん。やよいのこと頼みます。」
雉は何も言わず、そっと頷いた。
「やよい。幸せになってね。」
そう言うと、かすみは光となって消えていった‥‥。
「よかった‥‥。ちゃんと元に戻って‥‥。」
やよいは少し泣きながらそういった。
「そうやな‥‥。」
二人の間を、やさしい風が通り抜けた‥‥‥。