崩れる日常
「ど‥‥どうして‥‥かすみ姉は死んだはずじゃ‥‥‥!?」
なぜ、死んだはずの姉がここにいるのか。やよいには全く分からなかった。
死んだはずの姉‥‥かすみはこう言った。
「ずっとあなたを見ていたわ。やっと気づいてくれたのね。」
「かすみ姉‥‥‥『おい!!そいつから離れろ!!』‥‥!?」
急に雉が怒鳴ったと思うと、やよいは雉に思いっきり引っぱられた。
「雉!?」
「平気か!?」
「‥‥!?う‥‥うん‥‥。」
やよいはそう言うと、そっと雉を見た。
「よし。せやったらさっさと逃げるで!!」
雉がそう言った瞬間、雉と雉に抱えられているやよいは光に包まれて、その場から消えた。
一人ぽつんと残ったかすみは、
「‥‥逃がさない‥‥。」
そう呟いて、くすくすと笑った。
そのころ、雉とやよいは学校の近くの路地にワープしてきた。
「ってて‥‥。おい、大丈夫か?」
「だ‥‥大丈夫。て、あんたいったい何したの!?」
「ここまで力使って移動したんや。」
「そんなことできるの!?」
「それより、さっきの幽霊はほんまにお前の姉なんか?」
やよいはさっきのことを思い出した。
姿も声も、明らかにかすみだった。
「かすみ姉は、3年前に自殺したの。ちょうど今のわたしぐらいの時に。原因はたぶん彼氏といざこざがあったからそれだって事になってる‥‥。」
「‥‥さよか‥‥。とにかく今日は気ィつけた方がええ。たぶんまた来るやろうから。」
「ちょ‥‥ちょっと待ってよ!それってどういう‥‥‥」
「学校とやらがもうすぐ始まるんやないんか?」
ふと時計を見ると、もう時間がほとんどなかった。
「‥‥あああ!!ほんとだやっば〜!!じゃあ雉!いらないことしないでよ!!」
やよいはそういうと、超特急で走っていった。
「‥‥やれやれ。」
そういうと雉は人間からキジバトに姿を変え、やよいの後に続いた。
キーンコーンカーンコーン‥‥‥
「な‥‥何とか間に合った‥‥。」
やよいはギリギリセーフで教室に滑り込んだ。
「おはようやよい。今日は遅かったね。」
声をかけてきたのは絵里という、やよいの友達だった。
「おはよ‥‥。」
「今日生徒会の集まりなかったの?」
「‥‥わかんない‥‥あははははははは。」
絵里は首を傾げたが、深くは追求しなかった。
そうしている間に教師が来て、授業が始まった。
(今朝のは‥‥‥かすみ姉‥‥‥‥)
授業に集中しなければならないとは思っていても、つい思考がそっちに回ってしまった。
結局、ほとんど授業に集中できないまま昼を迎えた。
「ああ‥‥さっぱりわかんない‥‥‥。」
「まあまあ。そう気を落とさないで。一緒にお昼屋上で食べようよ!」
「そうだよね。ありがとう絵里。」
二人は屋上へ向かった。
「ねえ、やよい。あのキジバト何してるのかな?」
絵里の言葉にぎょっとして、やよいは慌てて絵里の向いてる方向を見た。
さっきからずっとガラスをくちばしでたたいている。
「‥‥あんのクソキジバト〜!!」
「‥‥‥ど‥‥どうかしたの‥‥!?」
絵里が驚いてこちらを見ているので、やよいは慌てて
「あ、いや〜‥‥ごめん先に屋上いっといて!忘れ物しちゃって!!ね?」
と言い、絵里を先に屋上に行かせようとした。
「‥‥‥わかった。じゃあ、先に行ってるから、なるべく早く来てね。」
そう言って、絵里は階段を上っていった。
「雉!!あんた何やってんの!!!!!」
「しゃーないやん!人間の姿なったらあかんのやろ?」
「だから、学校でさっきみたいなわけのわからないことしないでよ!!」
やよいは怒って言った。
「用がないならもう行くわよ。」
「今朝のやつがかなり近くに来とる。せやから用心しとけよ。」
「!?それってどういう‥‥‥」
そう言った瞬間、
「キャアアアアアア!!」
上から、そんな叫び声が聞こえた。
「この声‥‥絵里〜!!」
「お‥‥おい!!ちょー待て!!」
雉の言葉を無視して、やよいは屋上に向かって走り出した。
階段を駆け上り、屋上のドアに手をかけ、やよいは勢いよくそのドアを開けた。
「絵里!!」
そこには、倒れている絵里と、死んだはずの姉が立っていた。
「絵里!!しっかりして!!絵里!!」
やよいは絵里に駆け寄った。絵里は気絶しているだけだった。
「やよい!遅かったじゃない!ずっと待ってたのよ。」
「かすみ姉‥‥‥これはかすみ姉がやったの‥‥?」
やよいはかすみに問いかけた。かすみは、
「そうよ。やよい以外には用はないもの。」
そう笑いながら言った。
「何で‥‥何でこんなことするの!?かすみ姉は優しかったじゃん!!」
やよいの言葉に、今までかすみが浮かべていた笑みがすっと消えた。
「じゃあやよいこそ、どうして今までわたしを見てくれなかったの?3年前から、ずーっと毎日会っているのに!!」
「‥‥‥!?」
そのときのやよいには意味が分からなかった。
そんなやよいを見て、かすみはだんだんと本性を現してきた。
「‥‥そうよね‥‥やよいも、わたしのこと嫌いだったのね‥‥だからずっと無視し続けて‥‥‥」
「‥‥!?ち‥違うよ!!」
やよいはそう言ったが、かすみは聞こうとしない。
「‥‥‥自分は幸せだから‥‥‥わたしのことなんかどうでもよかったのね‥‥素敵な彼氏までつくって‥‥‥許せない‥‥‥」
「ちょっと待って!!違うよ!!しかも素敵な彼氏って誰のこと!?まさか‥‥雉は違うから!!」
やよいは別の意味で焦っていた。
そんなやよいを見て、かすみは
「許せない‥‥やよいなんて‥‥‥‥‥死んでしまえばいいのよ!」
と言った。
そう言った瞬間、やよいに向かって黒い突風が吹いた。
「うわあああ!!」
やよいの体は空中に浮いた。そして、屋上のフェンスを越えた。
「‥‥え‥‥‥!?」
「あなたも、わたしと同じように死になさい。」
すみれがそう言うと、やよいの体は、下に向かって落ちていった‥‥。