終わりと始まりの境界線
「‥‥‥‥ゃん‥‥‥ちゃん‥‥お姉ちゃん‥‥」
小さな妹のささやきに、やよいは目を覚ました。
「あれ‥‥‥?わたし‥‥」
「何やってたの!?いきなり大きな声出したから様子見にお姉ちゃんの部屋に行って入ろうとしたら、いきなりまぶしくなって‥‥‥。
それから少しして落ち着いたから部屋をのぞいてみたらお姉ちゃん倒れてるし。なんかあったの?」
「‥‥‥えっと‥‥」
そういえば何があったかよく覚えていない。
(たしか、キジバトの手当をして‥‥‥‥そうだ!!あの訳の分からないキジバトは!?)
ふと辺りを見渡したが、それらしいものはどこにもなかった。
「ゆ‥‥夢‥だったのかな‥‥!?」
「何が?そういえば拾ってきたキジバトは?」
「あ‥‥どこかに行っちゃったんじゃないかな‥‥?それより早く下行こう。」
妹は少し首をかしげていたが、すぐに、
「わかった。じゃあ下いこ!」
と言った。やよいも後に続くようにして部屋を出た。
(なんか背中になんか付いてるような‥‥気のせいだよね!!)
『誕生日おめでとう!すみれ!』
「ありがとう!お父さん、お母さん!」
「これは、父さんと母さんからのプレゼントだ!」
「わ〜!!あけてもいい!?」
「いいわよ〜。」
家族はすっかりすみれの誕生日にとけ込んでいた。
だがやよいは、ついさっきのキジバトの事が頭から離れなかった。
(あのキジバト‥‥いったい何者!?しかもどこ行ったんだろ‥‥‥‥って、なんでしゃべる変な鳩の心配してるのよ!!あいつのせいで気を失ったんだから!!)
家族とは少し離れたところにぽつんと座っていた。
「そうよ!!悪いのは全部あの鳩よ!!」
「お前があんなことするからやろ?」
いきなり背後から声がした。驚いて後ろを見ると、足下にキジバトが転がっていた。
「な‥‥なんでまだここにいるわけ!?!?ま‥‥まさか背中の妙な違和感は‥‥‥」
「やよい〜?どうかしたの?やよいもこっちにいらっしゃい。」
しかしやよいは、今は誕生日よりこのキジバトの方が気になって、
「ごめんお母さん。ちょっと調子悪いから部屋で寝ていいかな?」
といって、猛スピードでキジバトを隠しながら自分の部屋へ走っていった。
「‥‥‥元気にみえるんだけど‥‥‥」
という母のつぶやきは聞こえなかった。
やよいは部屋に入ると、すぐにキジバトに駆け寄った。
「どういう事か説明してよ!!」
「説明しろと言われてもなぁ‥‥。お前の背中にしがみついとったことか?それ以外はお前が勝手にやってんで?」
「‥‥手当のこと?」
「これのどこが手当やねん!!羽動かされへんやん!!つーか手当やったんや!!」
たしかにこれでは動きたくても動けない。
「ちょっと!そこまで言わなくてもいいじゃない!!一応助けてやったんだから!!」
「何でもええからはよこの包帯ほどいてくれ!!このままやったらなんもできん。」
「‥わかったわよ。」
やよいはそういって、包帯をはさみで切った。
「はぁ。やっと自由や〜。」
キジバトはうれしそうに呟いた。やよいは少し腹が立ったらしい。むすっとして
「じゃあ、早く説明してよ!」
と、きつい口調で言った。
「へいへい。ちゃんと説明するから、ちぃと待ち。」
そうキジバトが言い終わると同時に、キジバトの体が光り出した。
「えええ!?何!?どうしたの!?」
やよいが焦っているうちに、光はすっと消えていった。
そして、そこにはキジバトの姿はなく、かわりに一人の20歳ぐらいの青年が立っていた。
「えええええええええ!?!?どうなってんの!?キジバトじゃないの!?」
最早やよいはパニック状態だった。
「俺は妖魔の雉ちゅうもんや。ちなみにこっちが本当の姿やで。まあよろしゅうな。」
「‥‥‥妖魔‥‥‥?」
「まあ、お前らが言う、いわゆる“妖怪”やな。」
「ちょっと待ってよ!!わたしは煮ても焼いてもおいしくないわよ!!!」
慌ててやよいはそう言った。
「別に殺そうとか喰おうとかそないな気はないねんけど。」
「じゃあ何しようってのよ!!」
「お前との契約を破棄したいだけや。」
「‥‥契約‥?契約って?しかもわたしとの契約って‥‥!?!?!?」
もうやよいには訳が分からなかった。
第一妖怪がいるなんて全く信じてなかったので、夢ではないのかとも思うようになってきた。
「おれがキジバトのとき、お前は俺を包帯でぐるぐる巻きにしたやろ!?」
「だから手当だって!!」
「‥‥そのあと、このペンダントを俺にかけ、そして俺の名前を呼んだ。」
「‥‥‥‥!?」
何が言いたいのかさっぱり分からなかった。
「実はなぁ、人間が妖魔と契約するには、人間が何か身につけてるものと同じ形のものを契約したい妖魔の同じところにつけ、そして人間がその妖魔の名前を呼ぶことが条件やねん。お前、俺に今言ったことやったやろ?」
そういえば、色違いだが、たしかに形の同じペンダントを彼の首につけた。
「でも、わたしあんたの名前なんて知らなかったし、言ってないわよ!」
「でもお前言うたやろ?“キジバト”って。俺の名前は“キジ”やから。」
たしかにやよいは雉って言った。
よって、やよいが勝手に雉と契約してしまった事になる。
「えええええええええええええ!?!?!?じゃあわたしどうなんのよ〜!?」
「せやから契約を破棄する方法を探したいから、お前も手伝え。」
「何でわたしもやらないといけないの!?」
やよいは納得がいかなかった。だが、その態度が雉の怒りにふれたらしい。
「お前が勝手に俺と契約したんやろうが!!!!責任持つのは常識やろ!?」
「なによ!!元はといえばあんたがこんな紛らわしい名前なのがいけないのよ!!!」
「なんやとぉ!?」
「なによ!!」
ついに口げんかが始まった。
「‥‥‥‥‥お姉ちゃん‥‥‥どうしたんだろ‥‥‥‥」
二人の怒鳴り声は、一階まで聞こえたらしい‥‥。
「あ〜もう!!なんなのよこのクソ雉〜!!!!」
その日は、やよいの大声がやまなかったとか。