冷たい過去
「ちょ‥‥‥ちょっと待ってよ!!それって‥‥‥雉は‥‥‥‥」
「彼女しかいないんだ。カーネリアンを持っているのは。」
琉度はそう告げた。
「それに、彼女は雉を殺したいとは思っていない。逆に好きなんだと思うよ。」
その言葉にやよいはさらに驚いた。
「それじゃあ‥‥‥都さんは‥‥‥」
好きな兄を、一族の命令で殺さなくてはならない。
そう言う事になってしまう。
「じゃ‥‥じゃあ、何で一族の命令に従わないといけないの!?」
やよいには信じられなかった。命令だからといって、自分の好きなようにできない事が。
その思いが琉度にも伝わったのか、少し切なそうに琉度は言った。
「少し、雉の過去を教えてあげる。プライバシーの侵害にならない程度だけど。」
昔、雉はとある結構有名な寺で生まれた。
元気で怖い物知らずのわんぱく小僧だったらしい。
そしてその3年後に、妹の都が生まれた。
兄弟はとても仲がよく、いつも一緒にいた。
だが、両親は兄を寺の僧、妹を巫女にして一族をもっと大きくしようとしか考えていなかった。
雉は将来、侍になりたかった。だが、両親はそんな事を許してくれるはずもなく、仕方なくこっそりと剣技を磨いていた。
時は流れ、雉が17、都が14歳になったとき、両親は強引に二人を自分たちの思うようにしようとした。
だが、雉はそんな両親が嫌で、この寺を出て行こうと決心する。
ある満月の夜、雉は寺を出ようとした。
そのとき、都が止めにかかる。
「なぜ!?なぜお兄様は寺の僧になるのが嫌なのですか!?」
「俺は自由に生きていきたいんや。一人の侍として。だから、ここで親のいいなりにはなりとうない。」
雉の決意は固かった。都はそれを聞いて
「ならば、わたしもともに参ります!」
そう言った。
だが、そのとき両親に見つかってしまう。
雉はとっさに身構えたが、都が雉に
「逃げてください!!ここはわたしが引き受けます!!」
「都‥‥‥!!すまん!!」
そう言って雉は逃げ、都は捕まった。
親は雉を何とか探そうとしたが、都が
「お兄様を捜すというのなら、わたしは今すぐ腹を切ります。」
そう言って、兄のために巫女になった。
だが、兄はその半年後に殺され、妖魔になってしまう。
都は悲しみに明け暮れた。だが、雉は妖魔として再びこの世に召還された。
都はそのことを親から聞き、とても喜んだ。
しかし巫女は悪を浄化する存在。
巫女として、悪は払わなくてはならない。
両親からでた言葉は
妖魔となった雉を殺せ
つまり‥‥‥‥
「つまり、雉を守るために巫女になったのに、雉を殺す存在となってしまった‥‥‥というわけだよ。」
「そ‥‥そんな‥‥‥」
あまりにも悲しすぎる。いくら掟だからと言っても。
「一度は彼女も雉を殺そうとしたんだけど、雉は恐ろしく強くなってて、歯が立たなかったんだって。」
やよいは眠り続ける彼を見た。
こんな悲しい事があったなんて。
「って、なんで琉度がそんな事知ってるの!?」
「結構物知りなんだよ。ハーフだし。いろんなところから情報が入ってくるんだ。」
「へぇ〜‥‥‥。」
そういうもんなの?と半ば少しあきれたが、都がやってきたので話は中断された。
「お待たせしました。準備ができたので‥‥‥雉を‥‥‥こちらに。」
「あ‥‥はい!!」
そういって雉を都の前に寝かせる。
都は複雑な顔で治療を始めた。
手から出てくる赤い光はそっと雉の体を包み、回復させていった。
「すごい‥‥‥カーネリアンって‥‥‥」
正直うらやましかった。何もできない自分と違って、雉を助けることができるというのが。
「‥‥‥‥うぅ‥‥‥‥」
「雉!!」
「‥‥‥‥‥‥」
雉はそっと目を開けた‥‥‥‥。