入り乱れる思考
「カーネリアンを持ってる奴のところへ行こう。」
そう琉度に言われたやよいは、静かに琉度が準備をすますのを待っていた。
何か手伝おうかと言ってみたが、「大丈夫だから少し待ってて」と言われ、そっと焦る気持ちを落ち着かせようとしていた。
雉は一向に目を覚ます気配はない。
それどころか雉の体は少しずつ冷たくなってきているような気がする。
「雉‥‥‥。」
さわっても何も変わらないとわかっていたが、そっと雉の頬に触れ、優しくなでた。
不安がどんどんこみ上げてくる。
そんなとき、そんな不安を吹き飛ばすような声がかかった。
「準備できたよ!」
「ほんと!?」
琉度はそう言ったが、特に変わったことはない。
「えっと‥‥‥どうすんの‥‥‥?」
少し心配になって聞いてみた。
だが、琉度はにっこり笑って
「まぁ落ち着いて。」
と言った。
そして琉度は目を閉じた。
すると、いきなり空気が凛としたものにかわり、真っ白の陣が地面に浮かび上がった。
そして、その陣に小さなゆがみができ、次第に通れるトンネルのようになっていた。
「行くよ。」
「‥‥えええ!?!?」
やよいは驚く暇もなく、琉度に引っぱられて時空のゆがみに飛び込んだ。
「‥‥‥‥ここ‥‥‥どこ‥‥‥!?」
気がついたら、周りは霧がかかったように真っ白だった。
身近に感じるような気もするが、こんなところは初めてだった。
「ここは、霊樹の幹の中だよ。」
「霊樹!?」
「あれ?知らないの?学校の樹齢100年の木。それが霊樹。で、今は‥‥‥」
「その木の中に居るって事!?」
信じられないように周りを見た。
何も見えないけど、何か居るような気がしたから。
耳をすましていると、小さな足音が聞こえた。
やよいは身構えたが、琉度は余裕で微笑んでいる。
足音がだんだん大きくなり、こちらにやってくる者が肉眼で見えるようになってきた。
そのときに見えたのは、小さな少女。
髪はピンク色のショートヘアーで、目はきれいなアクアマリンのような色をしていた。
その少女はやよいに気づくと、そっと声をかけてきた。
「こんなところに‥‥‥何用ですか?」
「あ‥‥あの‥‥‥」
やよいはとっさの事でうまく言えなかった。
そんなやよいの代わりに琉度は答えた。
「実は君の力を貸してほしい。助けたい奴がいるんだ。」
「あなた‥‥‥琉度ではないですか。お久しぶりです。」
その少女は改まってお辞儀をした。
やよいも慌ててお辞儀をする。
「先ほどは失礼いたしました。琉度の知り合いですよね?」
「あ‥‥はい。」
「わたしは都と申します。ご存じの通り、カーネリアンを持っています。」
彼女、都はそう言った。顔には表情が全くない。まるで感情もないかのように。
「それで?お助けしたいと申すお方は?」
「彼を‥‥‥雉を助けてほしいんです!!」
都は一瞬目を見開いた。そして静かに
「‥‥‥‥‥そう‥‥‥‥ですか‥‥‥‥‥‥」
と告げた。
さっきとはまるで様子が違う。
顔には、懐かしさと切なさがにじみ出ていた。
「わかりました‥‥‥‥‥‥。少しお待ち下さい。」
都はそう言うと、すっと姿を消した。
「どうしたんだろ‥‥‥?雉と何かあったのかな‥‥‥。」
そんなやよいの疑問に琉度は静かに答えた。
「彼女は雉の妹で、巫女なんだよ。」
「い‥‥妹ぉ!?」
やよいは驚いたが、次の言葉に息をのんだ。
「彼女は巫女だから‥‥‥‥一族の命令で妖魔である雉を殺さなくちゃならないんだよ。」
「え‥‥‥‥‥‥?」
小さな声が、響き渡った‥‥‥。