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一章 『再会』と良く似た『何か』 四話目

Wrote:SIA


「そういえば、ドラゴン居ないなー……」

お昼休憩に昨日貰ったパンをかじりながら、呟いた。

人に使役された、人を襲わない安全なドラゴンなら、少し見てみたい気もするのに、さっぱり見掛けない。

結局、昨日私は割と大きなお屋敷の階段で野宿をした。

壁に囲まれてて屋根があったから、快適とは言わないまでも道端で寝るよりマシな睡眠を取れた。

とはいえ体の節々が固まってしまっていて、首周りでぺきん、ぽきん、と音を立てると少し頭が軽くなった。

私は昨日よりももっと街の中心の方に向かっている所だ。

パンに使われている少ししょっぱくて甘い、赤い液状の不思議な香辛料はとても気に入った。

それで汚れた手を舐めきってから、今日何回目かになる質問を街の人にしてみた。


「忘れ物を思い出させる魔法?そんな事が出来るのは、それこそ世界中でミア・フォルトくらいの物だろう」

今日何回目かの同じような返答を聞いて、ちょっとげんなりしてきた。

「教会に行ってみたらどうだい?何かわかるかもしれないよ」

朝のうちに何度か教わった事を聞いてみる。

「確か、この街にミア・フォルトさんの家があるんでしたよね?」

「あぁ、そうだね。歩いて行くには少し遠いけどね」

何度か人に尋ねてその都度方向を確認しながら、街を進んでいく。

ミア・フォルトというのは何やら、物凄い魔法使いらしい。

曰く。世界一有名な魔法使いである事。

曰く。彼女は女性で、全知全能とも言える存在である事。

曰く。不老不死で、何百年も昔からこの国にいるという事。

曰く。200年も昔に、なんとかという伝説の魔物を倒したという事。

曰く。彼女を守る恐ろしく強い魔物を2体も使役しているという事。

「ここまでくると眉唾ものだなぁ……」

あまりにも、現実味が無い。魔法使いだったあの子も言っていた。

『不老不死なんてものは存在しえない』と。

それでも、当てが無い私は教会とミア・フォルトとを両天秤に掛けてミア・フォルトを優先した。

理由は一つ。

あの子が教会を疑問視していたからだ。

日を追う毎に、随分と色んな事を思い出した。

その殆どがあの子の事だ。顔も名前も思い出せないけど、あの子の言動……

あの子との記憶だけは、割と鮮明に思い出せるようになっていた。

「えへへー……」

昨日パン屋さんで貰った帽子をくるくると回しながら、私の旅路の好調っぷりに笑みをこぼした。

この帽子はツバの部分が小さく、かぶる部分が大きく膨らんでいて、見た事も無い珍しい形をとても気に入った。

あの子の言っていた教会に対する評価を思い出す。

昔の教会は、記録では神様を純粋に信仰する素晴らしいものだった。改革が行われた後の教会はおかしい、という事。

それにしても……

「ミア・フォルト……ミア・フォルト……何処かで聞いた事あるような気がするのになぁ……」

私がこの街で聞いた誰もが知っている有名人だから、聞き覚えがあるだけかもしれない。

なのに、妙な引っかかりを感じていた。

しばらくの間歩いてから、また方角を確かめるのに同じ事を街の人に質問をした。

また、同じような答えが返ってきた。


「え……何、お金とるの?ここ」

歩いては『ミア・フォルト』について聞きを繰り返し、ミア・フォルトの家に着いた時には夕方過ぎだった。

結局最後は、親切なお婆さんが道案内をしてくれて、無事にミア・フォルトの家に着いた。

だけど……

あまりにも、そんな物凄い人が住んでいるような家には見えない。

昨日勝手に野宿に使わせて貰ったお屋敷の方が、大分……というより、比べる事が失礼な程にこの家はみすぼらしい。

先ず、壁がレンガですらない。昔懐かしの木造建築だ。

この辺一帯でも珍しい。しかも、見たところかなり昔に建てられたような朽ちた家だ。

そして……

お婆さんが去り際に教えてくれた、料金箱。

この家を訪ねるのには銅貨を1枚入れなければならないらしい。

銅貨を一枚!

お洒落なレストランで、ちょっとそれなりのランチが食べられてしまう値段だ。

こんな人の生活の気配すらない家に入るのに銅貨一枚というのは、どうにも躊躇われた。

そもそも、好き好んでこんな家に住んでいるだなんて、どう考えたって変人だ。

建物の古さという物珍しさでお金をぼったくる商売に、ミア・フォットの第一印象は『最悪』。この一言に尽きる。

「……仕方ないけど、決まりは決まりだもんね」

銅貨を一枚木箱に入れると、チャリンと銅貨同士のぶつかる音がした。

意外な事に訪ねる人はそれなりにいるらしい。

「ごめんくださーい」

コンコンとノックしても反応が無いからドアノブを回してみたら、家の扉は鍵が掛かっていなかった。

仕方なく家の中に入ると、これまた妙な光景が広がっていた。

「……なんで家の中にバリケードを張るの……?」

家の中には、生活に必要そうな調度品は一通り揃っていた。

けど、おかしな事に、人一人が通れるくらいの大きさの通路を作るかのように、家の中にはロープが張り巡らされている。

部屋のこちらから部屋のあちらに行くのに、ぐるりと壁際を回らないといけないなんて不便じゃないだろうか?

それに、何の変哲も無いランプや、ツボや、楽器なんかの傍に立て札が立ち、何やら大量の文字が書かれている……使い方でも書かれているのだろうか?そんな物の使い方は小さな子供でもわかるだろうに、どうやら魔法使いは優秀なら優秀であるほど頭の中があべこべらしい。

そうすると、あの子はあまり優秀な魔法使いでは無いのかもしれない。

「うーん……」

それでも、この街に着てからなんとなく一番見覚えがあるような気がする品々を横目に次の部屋に入る。

この部屋もバリケードが敷かれていた。使われた形跡の無いベッドに、数個の黄ばんだヌイグルミ。

「あ、これ見た事ある」

この街に着いてからヌイグルミを見る機会なんて無かったから、私の記憶の中にあるものだろう。

それにしても、布地も黄ばんで薄汚れていて、相当昔のもののようだ。

「……やっぱり似てるけど別物かな」

常識的に考えて、学校にも通っていなかったような小娘が、そんな貴族の集めるようなアンティークを持っているわけ無い。

出来るだけ家具には触らないようにして、まるで子供部屋のようなここを後にする。

次の部屋に向かおうとした所で、庭に一人の女の子が居る事に気付いた。

この位置からは顔は見えないが、紫色の髪の毛を両側で縛って垂らし、淡い色のドレスを身に纏っている。

私は街で聞いたミア・フォルトの外的特徴を思い出した。

女性で、不老不死。

「でも、小さすぎない……?」

そう。『女性』というには、あまりにも背が低い。私よりも低い。まるで小さな子供のような……

彼女は私に気付かずに、窓から見えない死角の方に歩いていってしまった。

「あ、あぁ!ちょっとまって!」

私は窓から身を乗り出すと、「えいっ」と声を上げながら窓から外の芝生に飛び降りた。

くしゃり、と昨日のパンの入った紙袋が、潰れてしまった。


 私の声に振り返った女の子は、やっぱり私よりも小さな子のようだった。

薄紫色の髪の毛に紫色の瞳。淡い色のドレスに、首からは大きな鈴を垂らしている。

女の子はぽかんと小さく口を開け、目には少しの戸惑いの色を浮かべていた。

「あの、あなたがミア・フォルトさん?私-」

出来るだけ不信感を抱かせないように声を掛けながら歩き寄ろうとしたら、女の子は大きな動作で、でも素早く首に垂らした鈴を私に向け、半身を引きながら私を睨みつけた。

リィィィィン……

あまりの状況に、私も困惑する。鈴の音が、私の言葉をさえぎった。

女の子は、震えている。気丈な目で私を睨みながらも、私への恐怖心が見て取れた。

警戒心とか、そういうレベルのものではない。

この子は、私を、敵視している。

困った。

「か、勝手に入っちゃってごめんね?でも、ちゃんと銅貨を入れてきたんだよ」

言い訳をしながら私が一歩歩くと、女の子も一歩後ずさった。

どうしたものか……と、考える。どうやらこの子はミア・フォルトでは無いようだ。そういえば、さっき子供部屋のようなものがあった。もしかしたら、この子はミア・フォルトの娘さんなのかもしれない。

何が怖いのか、ガチガチと歯と歯で音を鳴らしながら、女の子は涙を浮かべている。

それでも、その目に私への敵意は消えていない。むしろ、涙を流しながらも目を見開いて、まるで親の敵か何かのように睨みつけられている。

正直、怖いのは私の方だ。

「え、えーと……お姉ちゃん怖い人じゃないよ?ちょっと、あなたのお母さんに用事があって……」

私が一歩、近づく。

女の子が一歩、後ずさる。

「そ……そうだ、パン、食べる?美味しいのがまだ一つ残ってるんだよ」

私が一歩、近づく。

女の子が一歩、後ずさる。

一体私がこの子に何をしたんだろう。わけがわからない。

そのうちに、女の子の背が塀にぶつかった。それに驚き、焦った女の子はバランスを崩して転びそうになる。

「危ないっ!」

間に合うかどうかわからないけど、倒れそうになった女の子を支えようと走る。

ぱしんっ

と、私に鈴を向けていた女の子の右手を掴んで、なんとか倒れるのをふせいだ。

暫くの間、沈黙する。

空気が、固まる。

数秒後。

「あ……あぁ……あああああああああああああああああああぁっ!」

火が点いたように、女の子が耳をつんざく悲鳴を上げる。

「うわひゃっ!?」

これには、むしろ私が驚いて、思わず女の子の手を離す。

リィン、リィン、リイィィン……

と、鈴の音を立てながら右手を振り回して、女の子は私を追い払う。

私もたじろいで、数歩後ずさる。

半ば半狂乱に陥ったかのような女の子を前に、どうすれば良いのかがわからない。

とりあえず謝る?パンでご機嫌を取る?さっきの部屋にあった人形でなだめる?

…とりあえず一つずつ試す!

「あ、あの、ごめんね?お姉ちゃん別にあなたに何かしに着たわけじゃ……」

リイィィン!

先ほどと同じように、鈴の音が私の言葉を遮る。

……いや、言葉だけじゃない。

リィン、リィン……

鈴の音がする事に、体が重たくなっていく。

気がついたら、立ったまま、水晶の絨毯で寝ていた時のように全身が動かなくなっていた。

女の子の目に、殺意を、感じた。

「滅せよ!」

その一言を聞いた瞬間。

私の意識は、闇に溶けた。

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