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一章 『再会』と良く似た『何か』 一話目

Wrote:RIL


 月の無い夜の事だった。

「いやー良いものを見せてもらった!アレは世紀の大発明だ!」

帰り道。

教会への招待状をひらひらと弄びながら、ベルクはケタケタとやけに上機嫌に笑っていた。

「学会なんてつまらんもんだが、毎回あんなものが見れると良いんだが」

ベルクにつられるように、サヤも微笑んでいた。

「車輪を回すだけで光を発するとは、どういう仕組けなんだろうな。魔具の気配も魔法の気配も無かった」

「あの様な珍しい物、エルリットさんにも見せて差し上げたかったですね」

サヤの言葉に、ベルクは軽く笑い、答えた。

「多分あいつがアレを見る事は無いだろうな」

「何故ですか?」

「エルがその手の学会に呼ばれる姿が想像出来るか?」

ベルクの問いかけに、サヤは数秒軽く空を見上げて考え

「そんな事言っちゃ、エルリットさんに失礼ですよ」

と、苦笑しながら答えた。

ようするに、サヤも同じ結論という事だ。

「まぁ…あんな便利な物が世の中に出回る事が考えられないのもあるんだけどな」

「なんでですか?火も魔法も使わずに光を得られるなんて、とても便利じゃないですか。皆さんの生活も楽になります」

ベルクは目を細めながら、言った。

「あんなものが世の中に出回ったら…」

瞬間、私が持っていたランプの中の蝋燭の火が、音も無く消えた。辺りが闇に包まれる。

「…蝋燭が売れなくなるだろう?」

サヤが苦笑しながらランプの中に火を点け直す間、ベルクは続ける。

「蝋燭なんて俺達ですら使ってるんだ。あんな物が出回ってみろ、蝋燭屋が売れなくなって暴動起こすぜ。世の中便利過ぎる物はそう簡単に受け入れられないもんさ…それこそ、ミア・フォルトみたいにな」

ランプに火が点くと、辺りが橙色に包まれ風に私達の影がゆらいだ。

「魔力も触媒も使わず、ただ車輪を回すだけで光を得るとは…それこそまさに『魔法』だ。この間の汽車の事といい、科学ってのは実に恐ろしいもんだ」

ベルクは、やれやれと肩をすくめた。


 月の無い夜の事だった。

屋敷に着くと、ベルクは私達の前に出て私達を手で制した。

「おかしい。強引に『開けた』跡がある」

私には『視え』ない。サヤに目配せすると、首を横に振った。サヤにも『視え』ないようだ。

つまり…

「お前達はここで待ってろ」

ベルクは人差し指を口元にあて、足音を立てずに屋敷の中に入っていった。

屋敷の中に『誰か』が居る。もしくは、居た。

…そしてその『誰か』は、私達の手に負えない相手。

私はランプを地面に置き、首から提げた鈴を手に。

サヤは腰のカタナを手に。

ベルクの入っていった屋敷を警戒する。

幾ら私達より格上でも、ベルクが誰かに後れを取る事はありえない。

だから危険なのは、ベルクに追い立てられた『誰か』が私達を狙う事。

風が吹くたびに私達の影が揺れ、その度に私の鈴が音を鳴らし、サヤのカタナがぴくりと動いた。

息を殺して待つ事、十数分。

「ヤバい物が盗まれた。回廊の方だ」

頭を掻きながら苦々しい顔をしたベルクが戻ってきた事で、私達は警戒態勢を解いた。


「盗まれたのは金目の物が幾つか、魔具も幾つか。まぁこの際そんな物はどうでもいい」

回廊の荒れ具合に、サヤは珍しく怒りが見え隠れした表情をしている。

おそらくは、私もサヤと同じような顔をしているのだろう。

壷は割れ、花は踏みにじられ、本棚からは本が散乱し、引き出しは全部引っくり返され、至る所に置いてある水晶も全部割られている。

「この屋敷を3人全員で離れる事は滅多に無いからな…やっぱ教会の学会なんぞ行くべきじゃなかった」

回廊の一番奥、私達ですら普段は立ち入れないベルク専用の部屋。

魔力に満ち溢れたその部屋の中央に置かれた台座には、何も置かれていない。

「こいつだ。初代の造った封印式の遠隔装置。」

回廊はベルクの魔法で閉ざされた空間。だから、普通の人は表向きの屋敷の中にしか入れない。

だからこそ、本当の意味での貴重品は回廊の各部屋に厳重に保管される。

犯人はベルクの魔法を食い破れるほどの存在。

そんな人には先ほどの調度品荒らしはただ無意味な事だろう。

この目的は、ベルクへの嫌がらせ…そして、挑戦?

「初代・ミア・フォルト最大の遺産が盗まれた…これは教会に報告しないわけには行かない…かぁ…」

ベルクは忌々しげに舌打ちをすると、手を額に当てた。

教会に弱みを握られる。それは私達には…いや、ベルクにとっては酷い痛手だ。

「まずったな…先代との約束も、このままじゃ果たせそうにないぞ…」

ベルクは大きなため息をつきながら地べたに座り込み、眉間にしわを寄せ額に手を当てて何事かを考え始めた。

私もサヤも、初代ミア・フォルトについて知っている事はあまり多くはない。

ただ、ミア・フォルトとベルクの関係について。その一点は私達もよく知っている。

シンシアという女の子とミア・フォルトの交わした約束。

そして、ベルクとミア・フォルトの交わした約束。

私達ですら知らなかった場所に保管されていた、世界で一番有名な魔法使いの遺産が盗まれた事実。

私達の安穏とした生活はこの事件から狂いだすのだろう。


月の無い夜の事だった。

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