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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第1章

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第34話:借りたシャツと、ミルフィーユ鍋

今日は一学期の打ち上げ。凛ちゃんからのリクエストで「ミルフィーユ鍋」を作ることになった朝陽ですが、準備中にお風呂場から大きな音が響きます。慌てて駆けつけると、そこにはシャワーでびしょ濡れになった、少しドジな令嬢の姿が。

キッチンには、出汁の優しい香りが立ち込めていた。

僕は豚バラ肉と白菜を丁寧に重ね、鍋の縁に沿ってぎっしりと敷き詰めていく。


「朝陽くん、私も何か手伝うよ! じっとしてるの、落ち着かないし」


「じゃあ……悪いけど、お風呂掃除を頼んでもいいか? 打ち上げの後にすぐ入れるようにしておきたいんだ」


「任せて!」


凛は腕をまくり、やる気満々でお風呂場へ向かった。

(……そういえば、今夜凛はいつお風呂に入るんだろう。まさか、うちで……いや、さすがに隣同士なんだし、自分の部屋で入るよな)

そんなことを考えながら火加減を調整していた、その時だった。


――ガタンッ! ドンッ!


「キャッ!?」


お風呂場から、何かが倒れる音と短い悲鳴が響いた。


「凛!? 大丈夫か!」


僕はコンロの火を止め、脱衣所へ駆け込んだ。

そこには、床に尻餅をついた凛が、外れたシャワーヘッドから降り注ぐ水をまともに浴びて立ち尽くしていた。


「……あ、えへへ。……転んじゃった」


凛は恥ずかしそうに顔を赤くして笑っている。


「笑い事じゃないだろ、怪我は!?」


手を差し伸べて彼女を立たせると、凛は「大丈夫、お尻がちょっと痛いだけ」と首を振った。

(よかった…)


だが、問題はそこではなかった。

びしょ濡れになった夏の薄いブラウスが、ぴたりと肌に張り付いている。


「……っ!!! 凛、とりあえずこれ!」


僕は慌てて大きなバスタオルを広げ、彼女の肩を包み込んだ。

「え? ……あ、何……?」

「……透けてる。……いろいろ」


「………………っひゃあああああああ!?」


僕が視線を逸らして告げると、凛は自分の胸元を見て絶叫し、タオルの中に縮こまった。

このまま帰すわけにもいかない。僕は彼女に、うちのシャワーを先に浴びて身体を温めるよう指示した。


「……凛、これ。僕のTシャツと短パンだけど、着替えに使って。お風呂上がりの服、今ないだろ?」


「あ……ありがとう、朝陽くん……」


数十分後。脱衣所から出てきた凛を見て、僕は思わず生唾を飲み込んだ。

(身長20センチも差があればそうなるか…)


僕のTシャツは彼女にはあまりにも大きく、首元が少しだけルーズに広がり、短パンも裾が余っている。いわゆる「彼シャツ」状態の凛は、いつもの令嬢のオーラが消え、どこか幼くて無防備に見えた。


「……似合わない、かな?」


「いや、……似合ってるというか、なんというか。……ほら、鍋できたぞ」


気恥ずかしさを誤魔化すように、僕はテーブルに鍋を運んだ。


「いただきます!」


出来立てのミルフィーユ鍋をハフハフと頬張る。


「おいしい……! 朝陽くんの作るご飯、やっぱり世界一だよ」


「大袈裟だって。」


「クーラー効いた部屋で鍋ってなんか贅沢だね!」


「そうだね……食べ終わったら、一回自分の部屋に戻って風呂入ってきなよ。クーラーで冷えるといけないし」


「うん、そうする!」


食後、僕もシャワーを浴び、凛は一度自分の部屋へ戻って入浴を済ませた。

一時間後、再びリビングのドアが開く。


「……朝陽くん」


「おかえり。……って、あれ?」


戻ってきた凛を見て、僕は目を疑った。

彼女は自分の部屋でお風呂に入ってきたはずなのに、なぜかまだ、さっき僕が貸した僕のTシャツを着ていたのだ。


「凛? 着替えなかったのか?」


「……えっと、その。……なんかね」


凛は顔を真っ赤にしながら、指先でシャツの裾をいじいじと動かしている。


「……落ち着くの。朝陽くんの匂いがして……。だから、もうちょっとだけ、これ着てたいなって」


「………………」


「……ダメ、かな?」


潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ、僕は言葉を失った。

「落ち着く」なんて言われて、脱げと言えるはずがない。僕は熱くなる顔を隠すように、溜まっていた麦茶を一気に飲み干した。


「……好きにすればいいよ。……風邪、引くなよ」


「……えへへ。ありがとう、朝陽くん」


クーラーの効いた部屋で、僕の服を着た凛が隣に座る。

落ち着くのは彼女だけだ。僕の理性は、今夜二度目のピンチを迎えていた。

第34話をお読みいただき、ありがとうございました。

お風呂場でのアクシデントから始まった「彼シャツ」展開。凛ちゃんの「落ち着くから着てたい」というセリフは、朝陽くんへの信頼が高まっている証拠ですね。

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