第29話:氷の真相
【前書き】
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朝陽のマッサージのおかげで、これまでにないほど快眠できた凛。
「日課にしたい」と期待の眼差しを向ける彼女に、朝陽は戸惑いつつも承諾します。
けれど、学校で見かけた彼女は、相変わらず冷徹な「氷の令嬢」。
告白を無慈悲に断る姿を見た朝陽は、ある疑問を抱きます。
「……おはよう、朝陽くん」
翌朝、キッチンに現れた凛を見て、僕は思わず手を止めた。
昨日の今日で、彼女の肌ツヤが劇的に良くなっていて、内側から発光しているような透明感を放っていた。
「……マッサージ、そんなに効いたのか?」
「うん。あんなに深く眠れたの、いつぶりだろうってくらい。……だからね、朝陽くん」
凛がトーストを頬張りながら、上目遣いに僕を見つめてくる。その瞳には、隠しきれない期待の色が滲んでいた。
「……今夜も、やってくれるよね? その、……日課、にしてほしいな」
「……まあ、凛の仕事の助けになるなら、いいけどさ」
そんな風に頼まれて、断れるはずもない。
結局、僕たちは「毎晩のストレッチとマッサージ」を正式な日課として契約(?)することになったのだった。
けれど、学校での凛は、やはり僕の知る彼女とは別人だった。
放課後、校舎の裏で偶然見かけた光景。男子生徒から必死に想いを伝えられている凛の顔は、一ミリの感情も動いていない、まさに「氷」そのものだった。
「ごめんなさい。貴方のことをよく知りませんし、興味もありません」
あまりに冷徹な一蹴。
家であんなに柔らかく笑い、うどんを美味しそうに啜る彼女と、目の前の「令嬢」がどうしても結びつかない。
僕は気になって、休み時間に佐藤さんを捕まえて聞いてみることにした。
「……佐藤さん。凛って、なんで学校だとあんなにクールなんだ?」
「おっ、瀬戸、凛のことが気になりだした? ……まあ、あの子がああなったのは、一種の『生存戦略』かな」
佐藤さんは、少しだけ寂しそうに目を細めて語りだした。
「凛って、昔から何でもできちゃうし、あの通り美人でしょ? 普通に笑ってるだけで男子が勘違いしてストーカー化したり、女子からは『男をたぶらかしてる』って嫉妬されたり……中学の時は結構大変だったの。だからいつの間にか、誰にも踏み込ませない氷の壁を自分に課しちゃったんだと思うよ。私だって、その壁の内側に入れてもらうまで、結構時間かかったんだから」
親友である佐藤さんですら、苦労して越えたというその壁。
僕は、そんな彼女が「毎日ご飯作って」と言ってくる現在の状況に、改めて強い戸惑いと、説明できない熱を感じていた。
その日の深夜。凛の部屋でのマッサージタイム。
ストレッチで身体を解した後、僕は彼女の指先をマッサージしながら、昼間の疑問を口にした。
「……今日さ。凛が学校で告白を断ってるところ、偶然見ちゃったんだ」
「……えっ。あ、あれは……その、いつものことだから」
凛が少し気まずそうに視線を逸らす。
「佐藤さんから聞いたよ。色々大変だったのかもしれない。……でも、正直に言わせてほしい。」
「……何?」
「……僕は、家でこうして笑ってる凛の方が、ずっと可愛いと思うよ。学校でも普通にしてればいいのにな、って。……あんなに怖い顔してるの、もったいないよ」
「……っ!?」
僕としては、ただの素朴な感想だった。
けれど凛は、マッサージの途中にもかかわらずガタッと肩を震わせ、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「あ、朝陽くん……今、何て……」
「え? ……だから、家の方がずっと可愛いなって」
「………………」
沈黙が流れる。彼女の顔は、もう沸騰するんじゃないかというくらいに真っ赤だった。
「……別に、秘密にしてたわけじゃないんだけど」
凛がメガネを指で押し上げ、消え入りそうな声で話し出した。
「嫌なことがあったとか、陽菜が言うようなカッコいい理由も……確かにあるけど。一番の理由は、もっと……情けない理由なの」
「情けない理由?」
「……私、極度の……本当に、自分でもどうしようもないくらいの、人見知り……なの」
「……えっ。……人見知り?」
意外すぎる告白に、今度は僕が固まる番だった。
「……緊張すると、何を話せばいいか分からなくなって、顔が強張っちゃうの。……それを周りが勝手に『氷の令嬢』って解釈して……。いつの間にかこんなことに……」
なるほど。
それじゃあ、あの氷の仮面は、ただの「緊張の裏返し」だったのか。
「……だから。こんな風に普通に笑えるのは、……朝陽くんの前だけだよ」
潤んだ瞳で僕を見つめ、彼女は小さく、けれどはっきりとそう告げた。
その言葉の破壊力に、今度は僕の理性が悲鳴を上げる番だった。
お読みいただき、ありがとうございました!
ついに明かされた「氷の令嬢」の意外すぎる真実……いかがでしたか?
特段悪い事件が無くてよかったですね。
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