第27話:ラノベが頭に入らない夜
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嵐の夜を越え、お互いへの信頼をさらに深めた朝陽と凛。
朝陽は、プロの絵師として無理を重ねる凛の身体を案じ、自分にできる「食事以外の手助け」を申し出ます。
「ま、マッサージ……っ?」
顔を真っ赤にして、持っていたコップをガタつかせる彼女を見て、僕は心臓が跳ね上がるのを感じた。
違う、今の言い方は誤解を招く!
「あ、いや! 違うぞ!? いや、違わないけど……手のマッサージだよ! 指とか、手のひらとか!」
僕は慌てて、自分の両手を前で振って見せた。
すると凛は、一瞬だけ瞬きを繰り返した後、ふーっと長く息を吐き出した。
「……あぁ、なんだ。手、なんだね」
心底ほっとしたような、でも、どこか少しだけ拍子抜けしたような……。そんな、がっかりしているのかどうかも判別がつかない、なんとも複雑な表情を浮かべていた。
「凛、お風呂上がりにストレッチとかしてる? 身体、動かしたりとか」
「……してないかな。お風呂から出たら、すぐにまたペンを握っちゃうことが多いし」
やっぱりか。
僕は少しだけ真面目なトーンで、彼女に問いかけた。
「なんで……そんなこと聞くの?」
凛が不思議そうに僕を見つめる。僕は視線を少し逸らしながら、今日ずっと考えていたことを口にした。
「……今朝、箸を持つ手が少し震えてたから。それに、時々肩を回して辛そうにしてただろ?
だから、僕にできることがないか、ネットで調べたり……友達の大輝と紗季さんにも聞いてみたんだよ。女子が喜ぶ……というか、身体を癒やす方法をさ」
僕がそう言い終えると、リビングに静寂が訪れた。
凛は呆然とした顔で僕を見ていたが、やがてその瞳にじわじわと熱が宿っていくのがわかった。
「……私のこと、そんなに見ててくれたんだ」
「……変な意味じゃなくて、仕事に支障が出たら困るだろ?」
「ふふ、そういうことにしておいてあげる」
凛は嬉しそうに目を細めると、いたずらっぽく笑って僕に身を乗り出した。その距離の近さに、僕の心臓がまた警鐘を鳴らす。
「わかった。そのマッサージとストレッチ、お願いしてもいいかな。でも、お風呂上がりで身体が温まってる時の方がいいんでしょ?」
「あ、ああ。その方が効果的らしいぞ」
「じゃあ、決まり。今日のノルマを終わらせたら連絡するから。……私の部屋で、ストレッチの手伝いと、手のマッサージ……してくれる?」
「……え、凛の、部屋で?」
「そうだよ。リラックスした状態でやりたいもん。……待ってるからね、朝陽くん」
そう言い残して、彼女は「おやすみ」とも「また後で」とも取れる笑顔を見せて自分の部屋へ戻っていった。
凜が自分の部屋に戻った後、僕はとりあえずお風呂に入った。
頭の中は、さっきの凛の言葉が繰り返されている。
『私の部屋で』『お風呂上がりに』。
(そもそも言い方!)
「……落ち着け。手、だ。手のマッサージをするだけだ」
自分に言い聞かせながらお風呂から出て、ソファーに座り、サイドテーブルに置いてあったラノベを手に取る。
ページを捲る。文字を目で追う。
……けれど、内容は全く頭に入ってこない。
(……お風呂上がりってことは、パジャマだよな。あいつ、警戒心どこに置いてきた……)
時計の針が進む音だけが、やけに大きく聞こえる。
もう三十分。いや、まだ二十分か。
何度もスマホの画面を確認しては、通知がないことに溜息をつく。
手のひらをグーパーと動かし、大輝から教わったツボの場所を復習する。
もはや、ラノベを読んでいるフリをしている自分自身にさえ、動悸が伝わってくるようだった。
その時。
――ブブッ。
枕元でスマホが震えた。
弾かれるように画面を見ると、そこには凛からの短いメッセージ。
『お風呂、入ってきたよ。……待ってるね』
(言い方!!!)
僕は大きく深呼吸をしてから、立ち上がった。
鏡で自分の顔をチェックして、手汗を拭う。
隣の部屋への扉が、今はとてつもなく重い門のように感じられた。
お読みいただきありがとうございました!
「手」のマッサージだと聞いて、少しだけ複雑そうなホッとしたような表情を見せた凛ちゃん。朝陽くんの「友達(大輝カップル)にまで聞いてくれた」という献身的な優しさに、彼女の信頼と好意はさらに高まっていますね。
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