第26話:いたわりの献立
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昨夜、凛が眠りにつくまで手を握り続け、その後そっと自室に戻った朝陽。
激しい雷雨が去り、二人にいつもの静かな朝が戻ってきます。
朝ご飯を食べていると、朝陽はあることに気が付きます。
窓から差し込む眩しい太陽の光で、僕は目を覚ました。
昨夜、凛が寝付くのを待ってから、僕は重い身体を引きずって自分の部屋へ戻った。
朝、自分のベッドで一人で目覚めると、昨夜の出来事がすべて夢だったのではないかという錯覚に陥る。
「……さて。作るか」
僕はシャワーで眠気を飛ばすと、すぐにキッチンへ立った。
炊きたての白米。脂の乗った焼き鮭。出汁をたっぷり含んだだし巻き卵に、わかめの味噌汁。
昨夜の非日常を塗り替えるような、至極「普通」の和朝食。
盛り付けを終えた頃、鍵を開けといたドアが開く音がした。
「……おはよう、朝陽くん」
やってきた凛は、いつもの「氷の令嬢」の姿に戻っていた。
けれど、僕と目が合った瞬間、彼女は頬を朱に染めて視線を泳がせた。
「……昨夜は、その、ありがとう。……おかげで、よく眠れた…。」
少しだけ「友達」としての等身大の甘えが混じる。
「いいよ。……夜はうどんにするよ。昨日の鍋の出汁をベースに、さっぱりしたやつを作るから」
「楽しみにしてるね」
凛は穏やかに微笑み、箸を手に取った。
「……美味しい。やっぱり、朝陽くんのご飯を食べると安心するよ」
凛はそう言って食事を楽しんでいたが、僕は見逃さなかった。
レンゲを持つ彼女の指先が、時折ぴくりと痙攣するように震え、彼女がこっそり肩を重そうに回すのを。
昨夜の緊張と、連日の作業。彼女の身体は、僕が思っている以上に悲鳴を上げている。
(……料理で栄養を摂るだけじゃ、足りないかもしれないな)
やるからには、単なる食事の提供だけでなく、彼女という「才能」を支えたい。
料理以外に、手や肩のマッサージなど、自分にできるサポートはないか。
僕は彼女に気づかれないよう、心の中で「いたわりのメニュー」を模索し始めた。
昼休み。教科書をしまっていると、いつも通り大輝とその彼女である寺田さんがお昼ご飯に誘ってくれた。
(カップルなら何かわかるかも…)
「……あの、大輝。寺田さん。ちょっと聞きたいんだけど」
「おっ、どうした?」
大輝がニカッと笑い、隣の寺田さんも興味津々といった様子で身を乗り出す。
「……その。……女性が喜ぶマッサージとかって……何か心当たりあるか?」
一瞬の静寂の後、二人の顔がニヤリと歪んだ。
「へぇー……! 朝陽くん、もしかして、ついに気になる子でもできた?」
寺田さんが楽しそうに聞いてくる。
「ち、違うんだ! 夏休みに帰省したとき、叔母さん達が仕事で疲れてたら、恩返しに何かしてあげたくて……」
「叔母さん、ねぇ?」
大輝が疑わしそうな目で見てくるが、僕は必死に無表情を貫いた。
結局、寺田さんが「まあ、朝陽くんの叔母さん想いなところ、素敵だしね」と、肩もみ術や、お風呂上がりのストレッチ、ホットアイマスクの重要性を丁寧に伝授してくれた。
「しっかり癒やしてあげなよ、朝陽くん。……その『叔母さん』のこと」
去り際の寺田さんの意味深な微笑みに、僕は背中に嫌な汗をかいた。
放課後、僕はスーパーで疲労回復に効果的な食材を買い込み、キッチンに立った。
ビタミンB1が豊富な豚肉。血行を促進する生姜。そして消化を助ける大根おろし。
「はい、お疲れ様。今夜は『豚しゃぶとみぞれ生姜のあったかうどん』だよ」
テーブルに出された一杯のうどんは、優しく柔らかな湯気を上げていた。
「……わあ、いい香り。いただきます」
凛がうどんを一口啜ると、その表情がふわりと解けた。
「……美味しい。身体がポカポカして、強張ってたのが解けていくみたい。あっさりしてるから、いくらでも食べれそう!」
「それは良かった。……それと、凛」
僕は少しだけ声を震わせながら、彼女を見つめた。
「……マッサージも少し勉強したんだ。もし、嫌じゃなければ……後で、試してみるか?」
驚いた顔をする凛。その頬が、うどんの湯気のせいか、それとも別の理由か、ほんのりと赤くなった。
「マッサージ!?」
(……そんなにびっくりしなくても…)
嵐のあとの静かな夜。二人の「生活」は、また一歩、深い場所へと重なり合おうとしていた。
お読みいただきありがとうございました!
嵐の夜を越えたからこその、穏やかで優しい日常回。
朝陽くんが「料理」という枠を超えて、凛ちゃんを支えようと奮闘する姿を描きました。
親友の大輝と紗季さんカップルに茶化されながらも、必死に「叔母さんのため」と嘘をつく朝陽くんの健気さが、二人の絆をより愛おしくさせますね。
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