第259話:お揃いのパジャマと、頑張り屋の彼氏
今回は凛ちゃん視点。
「ねえねえ凛、沙紀! 今週のお泊まり会さ、せっかくだからお揃いのパジャマ着たくない!?」
それは、月曜日のお昼休みのことだった。
いつものようにお弁当を広げていた陽菜ちゃんが、突然目を輝かせてそんな提案をしてきた。
「あっ、それ絶対かわいい! 賛成!」
「……お揃いのパジャマ。うん、すっごく楽しそう!」
沙紀ちゃんと私が即座に頷くと、「よし、決まり! じゃあ水曜の放課後、駅前のモールに買いに行こ!」と、トントン拍子でお買い物の予定が決まった。
そして、待ちに待った水曜日の放課後。
私たち3人は、駅前の大型ショッピングモールにある、ルームウェア専門店の前にいた。
「うわぁ〜! 見て見て、このモコモコのやつ! すっごく触り心地いい!」
「こっちのサテン生地のやつも大人っぽくてかわいいよ! どうする? デザイン揃えて色違いにする?」
色とりどりのパジャマが並ぶ店内で、陽菜ちゃんと沙紀ちゃんがウキウキと服を手に取っている。
私も外では一応『氷の令嬢』なんて呼ばれている手前、学校ではなるべくポーカーフェイスを保っているけれど……今日ばかりは無理だ。
大好きな友達と、こうして可愛いパジャマを選んでいるだけで、楽しくて自然と口元が緩んでしまう。
「凛はどの色がいい? やっぱりクールなブルーとか?」
「うーん……私は、この白と薄いグレーのボーダーのやつがいいかな」
「あ、それかわいい! じゃあ私ピンク! 沙紀はミントグリーンね!」
3人で色違いのモコモコパーカーとショートパンツのセットアップを胸に当て、鏡の前でふふっと笑い合う。
(これ、朝陽くんが見たら……『かわいい』って言ってくれるかな……)
そんな考えが頭をよぎり、一人でこっそり顔を熱くしながら、私たちはお揃いのパジャマを購入した。
買い物を終えた後は、モールの中にあるパスタ屋さんで晩御飯を食べて帰ることになった。
「いただきまーす! ん〜、この『明太子とイカの濃厚クリームパスタ』めっちゃ美味しい!」
「私の『サーモンとほうれん草の和風パスタ』も当たりだよ。凛のトマトソースはどう?」
「うん、すっごく美味しい。」
女子3人で美味しいパスタをつつきながら、話題は当然、金曜日のお泊まり会のことへ。
「パジャマも買えたし、あとは金曜日を待つだけだね!」
「うん。でも私、実はお揃いのパジャマと同じくらい……瀬戸くんの作ってくれるご飯が楽しみだったりするんだよね〜」
「あ、それ私も! 凛がいつも『世界一美味しい』って自慢してるから、ハードル上がりまくってるよ?」
ニヤニヤとからかうように笑う二人に、私は胸を張ってドヤ顔を作った。
「えへへ、うんと期待してていいよ。朝陽くんのご飯は、本当に美味しいんだから」
美味しいパスタを食べながらも、やっぱり頭に浮かぶのは、いつも私に一番美味しくて温かいご飯を作ってくれる、大好きな彼氏のことだった。
「ただいまー……」
夜の8時過ぎ。
マンションに帰ってきた私は、自分の部屋に荷物を置く前に、隣の朝陽くんの部屋のドアをそっと開けた。
お泊まり会の準備のことで少し話したかったのだけど、リビングは薄暗く、奥のデスクの小さなデスクライトだけが点いていた。
「朝陽くん……? って、あれ」
そっと近づいてみると、朝陽くんはデスクの椅子に座ったまま、机に突っ伏してスースーと静かな寝息を立てていた。
「……寝ちゃってる」
抜き足差し足で近づき、机の上を覗き込む。
開かれたノートには、『金曜夜:オムライス、サラダ、スープ』『動画用台本案:チーズを入れるタイミングで一言』といった文字が、びっしりと書き込まれていた。
「……朝陽くん」
私の友達を最高のおもてなしで迎えるために。
そして、新しく始める動画投稿のために。
私が友達と楽しくお買い物をしてご飯を食べている間、朝陽くんは一人でずっと、こんなに一生懸命準備をしてくれていたんだ。
キュンッ、と。
胸の奥が締め付けられるように熱くなって、愛おしさがドクドクと全身に巡っていく。
私は近くにあったブランケットを手に取ると、朝陽くんの広い背中から肩にかけて、そっと優しく掛けてあげた。
「んぅ……」
ブランケットの感触に少しだけ身じろぎした朝陽くんが、寝言のように小さく呟く。
「……りん……」
「…………〜〜っ」
夢の中でも私のことを考えてくれているその可愛すぎる寝言。
思わず両手で口元を覆い、限界までニヤけてしまう顔を必死に隠す。
「……お疲れ様。私の、かっこよくて大好きな彼氏さん」
サラサラの髪を優しく一度だけ撫でて、私は彼の寝顔にこっそりと微笑みかけた。
金曜日のお泊まり会が、ますます楽しみになった。
そして、このお泊まり会が無事に終わったら……私から朝陽くんに、とびっきりの「ご褒美」をあげよう。
静かに寝息を立てる彼の隣で、私は密かにそう決意したのだった。
第259話、ありがとうございました!
今回は凛ちゃん視点での、お泊まり会直前の日常エピソードでした。




