第25話:嵐の夜 暖かいココア
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落雷と共に訪れた突然の停電。暗闇の中で震える凛を前に、面倒見の良い朝陽は彼女を守るように寄り添います。
朝陽は彼なりの方法で――優しく手を握り、なだめることで支えようとします。
「……っ、う、うう……っ」
パチン、と照明が消えた室内。
タブレットの微かな光の先で、凛が膝を抱えてカタカタと震えていた。
僕は咄嗟にスマホのライトをつけ、彼女の顔を照らす。
「凛、大丈夫だ。僕がここにいる」
「……あさ、ひ……くん……。怖い……、真っ暗で……」
彼女の瞳は、これまでに見たことがないほど怯えていた。
「氷の令嬢」としての誇りも、気高さも、今の彼女にはない。ただ雷を恐れる一人の女の子がそこにいた。
僕は迷わず、床に座り込む彼女の隣に腰を下ろした。そして、氷のように冷たくなっていた彼女の手を、僕の手でそっと包み込む。
「……っ!?」
「こうしてれば、独りじゃないだろ。……すぐ明るくなるから。大丈夫だ」
ぎゅっと力を込めると、彼女の手からも力が返ってくる。
僕は空いた方の手で、彼女の乱れた髪をなだめるように優しく撫でた。
「……よしよし。大丈夫、大丈夫。……僕がいるからな」
「…………っ」
ゆっくりと、彼女の荒い呼吸が整っていく。
凛は僕の「なでなで」に身を委ねるように、こてんと僕の肩に頭を預けてきた。
彼女にとって僕は、この暗闇の中で唯一繋がっている安全な場所なのだろう。
人としての全幅の信頼が、その重みから伝わってきた。
数十分後。不意に部屋に明かりが戻った。
テレビの起動音やエアコンの動作音が響き、日常が帰還する。
「……あ」
明るくなったことで、僕の手が彼女の手を握り、彼女の頭を撫でている状況が鮮明になる。
僕は慌てて手を離し、少し距離を置いた。
「……電気が戻ったみたいだな。よかった。」
確認のため、僕は両手を凜の頬に当て、
「凛、まだ顔色が悪いね。……ちょっと待ってて」
僕はキッチンに向かい、小鍋を取り出した。
冷蔵庫から牛乳を出し、純ココアと少量の砂糖を練り合わせる。
少しずつ牛乳を加え、沸騰させないように丁寧に温める。仕上げにほんの少しのシナモンを。
甘く香ばしい香りが、嵐で荒んだ部屋の空気を塗り替えていく。
「はい、これ。温かいもの飲んで、落ち着いて」
マグカップを差し出すと、凛はそれを両手で包むように受け取った。
「……ありがとう。……ふー、ふー。……ん、甘くて、あったかい……」
一口飲み、凛はふーっと深く長い息を吐き出した。
強張っていた彼女の肩から、ようやく力が抜ける。
温かな湯気の向こうで、少しだけ頬に赤みが戻った彼女を見て、僕は心の底から安堵した。
「朝陽くんの作るものは、やっぱり……魔法みたいだね。……すごく、安心する」
凛は僕を見上げ、弱々しく、でも心からの笑みを浮かべた。
その熱を帯びた瞳に、僕は一瞬だけ心臓を跳ねさせた。
「……やっぱり、まだ一人になるの怖いから。……今夜、ここに泊まってもいい?」
「…………。それはダメだ」
僕は一瞬の迷いもなく首を振った。
「え、どうして……? 」
「危ないからだよ。凛がどんなに怖がってても、さすがに女子を部屋に泊めるわけにはいかない。それは、凛のためにもならないし……僕だって、一応男なんだぞ」
僕の毅然とした態度に、凛は「むぅ……」と不満げに頬を膨らませた。
でも、彼女の瞳には僕の拒絶に対するショックはなく、むしろ、私を大切に扱ってくれているという安心感が見えた。
「……わかった。じゃあ、」
凛は僕の手をもう一度掴む。
「……私の部屋で、私が寝付くまで、隣で手を握ってて。……それならいいでしょ?」
「…………。ああ、それくらいなら。」
隣の部屋――凛の家に足を踏み入れるのは、これが初めてではない。
廊下には、描きかけのキャンバスや画材が並び、ほのかに何か花のような匂いと絵の具の匂いが混ざっている。
「……忙しいときはよく来てもらってたけど、この状況だと少し恥ずかしいね…」
彼女は少し照れくさそうに笑いながら、寝室のベッドに潜り込んだ。
僕はその横にある椅子に腰を下ろし、彼女の白い手を再び握る。
「……朝陽くん。……ありがとう」
「おやすみ、凛。……寝るまで離さないから大丈夫だぞ。」
「……うん。……明日、朝起きて、また朝陽くんのご飯が食べられるの、楽しみにしてる」
彼女の声は、次第に小さく、穏やかなものになっていった。
暗闇と恐怖に疲れたのか、凛は僕の手を少しだけ強く握り返したあと、すぐに規則正しい寝息を立て始めた。
窓の外では、あんなに激しかった嵐が嘘のように静まり返っている。
僕は彼女が完全に眠りにつくのを確かめるまで、静かな部屋の中で、その穏やかな寝顔をずっと見守っていた。
4回ほど、手を離すと起きるを繰り返し、
(赤ちゃんか!!)
ようやく起きなくなったので、僕は部屋に戻った。
お読みいただきありがとうございました!
停電の恐怖を、朝陽くんの「なでなで」と、料理人としてのこだわりが詰まった「ココア」が救ってくれました。
温かい飲み物は、ショックを受けた心を落ち着かせる最高の薬。
そんな朝陽くんの気遣いに、凛ちゃんの信頼はますます深まったはずです。
そして、お泊まりを断りつつも最後まで寄り添う朝陽くん……。
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