第231話:登校と、過保護なボディガード
「おはよう、朝陽くん」
「おはよう。よく眠れた?」
「うん!」
月曜日の朝。
昨日の激しい雷雨が嘘のように、窓の外にはスッキリとした青空が広がっていた。
いつものように二人で朝食を食べ、身支度を整えてアパートを出る。
二人で手を繋いで歩道を歩き始めると、ふいに通り抜けた秋風が少しだけ冷たく感じられた。
「……んっ、ちょっと冷えるね」
「そうだな。もう十一月半ばだし、そろそろこの格好も限界かもしれないな」
俺がそう言うと、凛は繋いだ手を少しだけギュッと握り直してきた。
「明日から、ちゃんと冬服のブレザー着てこようか」
「うん、そうしよう。昨日、ちょうど虫干ししたばっかりだしね」
「着る前に一回試着してみよう」と言っていたのは雷のせいで流れてしまったが、明日からはお互いの冬服姿が見られると思うと、少しだけ学校に行くのが楽しみになった。
学校に到着し、凛と別れて自分の教室へ向かう。
「おはよう」と挨拶をしながら自分の席に向かい、肩にかけていたスクールバッグを机の横にかけた、その瞬間だった。
「おはよっ! 朝陽、週末はどうだった?」
「おはよう瀬戸くん! ねぇねぇ、昨日の夜の雷、すごかったよねー!」
まるで俺が来るのを待ち構えていたかのように、大輝と寺田さんの二人が俺の席の両サイドにピタリと張り付いてきた。
「お、おはよう……。雷、すごかったな」
朝からやけにテンションが高い二人だなと思いつつ、適当に相槌を打って一時間目の準備を始める。
しかし、二人の不自然な行動は朝だけではなかった。
一時間目が終わった後の十分間の休み時間。
チャイムが鳴り終わるか終わらないかのタイミングで、自分の席にいた大輝がスススッと俺の席の前に移動してきて、「次の数学、宿題あったっけ?」と話しかけてきた。
二時間目の休み時間には、寺田さんが「瀬戸くん、ちょっとこのプリント見せて!」とやってきた。
三時間目の休み時間には、大輝と寺田さんが二人揃ってやってきて、今日のお昼ご飯のメニューについて熱く語り始めた。
(……なんか、やけに圧がすごいな)
いつもなら、休み時間はそれぞれ別の友達と話していたり、スマホを見ていたりすることも多いはずだ。
それが今日に限って、チャイムが鳴るたびに必ず俺の席にやってきて、俺を一人にしないように話しかけてくる。
そこで、俺はハッと気がついた。
(……そうか。先週あんなことがあったからか…)
俺がまた変に絡まれたり、嫌な思いをしたりしないように。
大輝と寺田さんは、こうして休み時間のたびに俺のそばにいて、『ボディガード』のような真似をしてくれているのだ。
四時間目が終わり、待ちに待ったお昼休みのチャイムが鳴る。
3人で中庭のいつもの場所に移動し、お弁当箱を広げながら、目の前で自分の弁当を開けている大輝と寺田さんに、それとなく声をかけてみた。
「……なぁ。もしかして、今日一日、俺のこと気遣ってくれてる?」
俺がストレートに聞くと、二人はピタッと動きを止め、それから顔を見合わせて吹き出した。
「やっぱバレるかー。ちょっとあからさまだったかな?」
「大輝がすぐ行くからだよ。私なんて、二時間目、無理やりプリント見せてもらう口実作ったんだからね」
寺田さんが苦笑いしながら大輝を小突く。
「いや、だってよ。先週あんなことがあったばっかりだし、また瀬戸が変な奴に絡まれたら嫌だろ? だから、俺たちが周りにいれば話しかけづらいかなって思ってさ」
「……お前ら」
大輝の裏表のない真っ直ぐな言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
凜と付き合ってからも、こうして普通に接してくれて、さらに心配までしてくれる。
本当に良い友達を持ったなと心底思った。
「ありがとうな。でも、もう大丈夫だよ」
「お待たせー!」
そこへ、凛と佐藤さんがお弁当を持って合流してきた。
いつものように五人での、賑やかなお昼ご飯が始まる。
大輝が冗談を言って、佐藤さんが呆れたようにツッコミを入れ、寺田さんが笑い、凛が俺の顔を見て嬉しそうに微笑む。
以前の俺なら、こんなふうに誰かと笑い合う日が来るなんて、想像もしていなかった。
この五人で過ごす時間が、俺の中でかけがえのない、とても大切で温かいものに変わってきているのを、俺は静かに実感していた。
六時間目の授業が終わり、ホームルームを終えた俺は、鞄を持って一階の下駄箱へと向かった。
凛は日直の仕事があると言っていたので、ここで待ち合わせをしている。
大輝たちは、用事があるそうで先に帰った。
スマホで今日の夕飯のレシピを検索しながら待っていると、ふと、複数の足音が俺の方へ近づいてくるのが分かった。
顔を上げると、そこには見覚えのある男子生徒が四人、立っていた。
先週。
俺と凛が付き合っているという噂を聞きつけて、嫉妬から暴言を吐き、凛の腕を無理やり掴んだクラスの四人組だ。
(……来たか)
俺はスマホをポケットにしまい、無表情のまま彼らと向き合った。
四人のうち、凛の腕を掴んだリーダー格らしき男子が、少しだけ気まずそうな顔で俺に声をかけてきた。
「瀬戸。……ちょっと、いいかな。話があるんだけど」
周囲にはまだ下校する生徒たちがちらほらといる。
「ここじゃなんだから」と促され、俺は彼らに囲まれるような形で、校舎裏の人気のない場所へと連れて行かれた。
不穏な空気が漂う中、俺は静かに彼らの背中を追った。
第231話、ありがとうございました!
大輝くんと寺田さん、本当に良い友達ですね!不器用ながらも朝陽くんを守ろうとしてくれる二人の優しさに、朝陽くんも学校生活の温かさを実感しています。




