第23話:湯気の向こうの、夏休み
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ストリート系の変装に身を包み、スーパーで密着しまくった凛。
人が変わったような、その破壊力抜群の甘えっぷりに、戸惑う朝陽。
ちょっと暴走気味の凜と、何とか耐える朝陽をお楽しみください。
「……凛、ちょっといいか」
買い物袋をキッチンのテーブルに置き、僕は意を決して彼女に向き合った。
帽子を脱ぎ、少し乱れた艶やかな黒髪を手で整えている凛が、不思議そうに首を傾げる。
「なあに、朝陽くん?」
「さっきのスーパーだけど……正直、くっつきすぎだ。……勘違いするから、ああいうのはやめてくれ」
僕の精一杯の「警告」だった。
あんな風に腕を絡められ、柔らかい感触を押し当てられたら、男として平常心でいられるはずがない。
すると凛は、動きを止めて僕をじっと見つめた。
そして、少しだけ身体を折り曲げ、僕の顔を覗き込むように上目遣いで囁いた。
「……いや、だった……?」
「……っ! い、嫌じゃないけど。……でも、そういうのは普通、好きな人とするものだろ?」
顔が熱い。逃げ場をなくした僕の言葉に、凛はふっと口角を上げ、いたずらっぽく笑った。
「その価値観って、人それぞれじゃないかな? 私は、朝陽くんと一緒にいたいからしてるだけ。……それとも、朝陽くんは私とくっつくのが『特別』だって意識したの?」
「それは……っ」
「ふふ、反論なし。じゃあ、ご飯食べたい! お腹空いちゃった」
完全に彼女のペースだ。
「氷の令嬢」の仮面を脱いだ彼女は、僕が思っていたよりもずっと手強くて、そして……どうしようもなく可愛かった。
「せめて何か手伝わせて。……そうだ、私、朝陽くんちのお風呂掃除する!」
「お風呂!? いや、そこまでしなくていいって。凛は座っててよ」
「いいの! 友達なんだから、助け合いでしょ? 私はお料理できないし、せめてそれくらいさせて」
凛はそう言うと、制服の袖をテキパキと捲り上げ、浴室へと向かってしまった。
あんな綺麗な人にうちの風呂掃除をさせるなんて……と罪悪感を覚えたが、浴室から聞こえてくるシャワーの音と、楽しげな鼻歌を聞いているうちに、僕の口元も自然と緩んでいた。
僕はキッチンで、買ってきたばかりの鶏肉を切り分け、出汁を取る。
トントントン、という包丁の音と、ザァーッというシャワーの音。
一人暮らしの静かすぎる部屋が、今はとても賑やかで、温かい。
「朝陽くん、終わったよー! ぴかぴかにしておいたから!」
少しだけ顔を上気させ、誇らしげにVサインを作る凛。
その姿は、学校で「高嶺の花」と崇められている彼女とは正反対の、等身大な女の子そのものだった。
「「いただきます」」
テーブルの中央で、鶏肉と野菜がたっぷりと入った『水炊き』が湯気を上げている。
季節外れではあるけれど、エアコンの効いた部屋で食べる熱々の鍋は格別だ。
「……ふー、ふー。……んん、美味しい! やっぱり朝陽くんのご飯は美味しいね。お風呂掃除頑張ってよかった!」
「それは良かった。……そういえばさ、もうすぐ夏休みだよな」
僕の言葉に、凛が箸を止める。
僕たちの学校は二学期制だ。中間テストは彼女と仲良くなる前に終わってしまっていたけれど、次の大きな節目は、もう目の前まで迫っていた。
「……そうだね。夏休み……」
「学校が休みになると、お弁当必要なくなるけど……凛、仕事が忙しくなると、また食生活が疎かになるだろ? 買い出しとか、どうする?」
僕としては、「契約(食事サポート)」をどう継続させるかという、現実的な相談のつもりだった。
けれど凛は少し考えて、
「……そっか。夏休みになれば、私毎日毎食朝陽が作った出来立てご飯が食べられるのか。」
と、ぼそっと言うと、目を輝かせて
「毎日朝陽くんに会いたいな!」
曇りなき眼を向けてくる。
「そうゆうところだぞ…」
「……ダメかな? 私の生活には、もう朝陽くんのご飯とがいないと、ダメなんだよ?」
湯気の向こうで、彼女の真っ直ぐな瞳が僕を射抜く。
「友達」という言葉の裏側に、もっと強くて、熱い想いが透けて見えた気がして、僕は生返事しかできなかった。
アパートの外では、遠くで夏の到来を告げるような、小さな雷の音が響いていた。
お読みいただきありがとうございました!
「価値観の違い」を理由に朝陽くんを翻弄する凛ちゃん……。
かつての「氷の令嬢」はどこへやら、今ではお風呂掃除まで買って出るほど、朝陽くんの生活に深く入り込んでいます。
そして、夏休みを前にした凛ちゃんの「毎日会いたい」宣言。
もはや、ただの食事パートナーという枠は完全に崩れ去っていますね!
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