第22話:変装?と、密着だらけの買い出し
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「友達」という新しい関係になった朝陽と凛。
今夜の献立を決めるための何気ないやり取りから、二人は初めて一緒にスーパーへの買い出しへと繰り出すことになります。
放課後の教室。
先々週中間テストも終わり、校内は夏休み前の浮ついた空気が漂っている。
僕と凛が言葉を交わすようになったのは、このテストが終わった後のことだ。あの頃はまだ、廊下ですれ違うだけの「赤の他人」だったんだよな……なんて、僕は窓の外を眺めながら、ここ数日のことを思い返していた。
(……さて。今夜のご飯、何にしようかな)
すっかり日課になった献立作り。僕はスマホを取り出し、隣のクラスの彼女にメッセージを送った。
『今夜のご飯、何がいい?』
一分もしないうちに、画面に既読がつく。
『一緒に決めたい! スーパーに一緒に行かない?』
予想外の提案に、僕は思わず指が止まった。
『外で並んで歩くのは、やっぱりバレるのが怖いし……』
『一度帰宅して、着替えてから行こう! 変装すれば大丈夫だよ!』
「氷の令嬢」モードとは違う文面を見て、口角が少し上がる。
凛の勢いに押される形で、僕たちはアパートの近くで待ち合わせることにした。
一度アパートに戻り、僕は無難な黒の半袖パーカーとジーンズに着替えた。
約束の場所――少し離れた公園の入り口に向かうと、そこには見慣れない少女が立っていた。
「……朝陽くん! こっちこっち!」
大きく手を振る彼女を見て、僕は絶句した。
夜の帳を切り取ったようなあの美しい黒髪は、大きめのキャップの中にすっぽりと隠されている。オーバーサイズのグレーの半袖パーカーに、ダボッとしたカーゴパンツ。
「氷の令嬢」の気高さはどこへやら、そこにいたのは、どこか幼さの残る、ストリート系の女の子だった。
(……これ、変装にはなってるけど……めちゃくちゃ可愛いな、大丈夫かな?)
「どうかな? 陽菜に教えてもらったんだけど、これなら絶対にバレないでしょ!」
「ああ……。というか、別人すぎて僕でも一瞬分からなかったよ」
凛は「えへへ」と得意げに笑う。その無防備な笑顔に、僕の心臓は早くも警告音を鳴らし始めていた。
どうも先日ハグしてもらって以降、心がざわつく。なんだこれ。
駅前のスーパーに入った途端、凛の「攻撃」が始まった。
「ねぇ、朝陽くん。はぐれたら大変だから、こうしててもいいよね?」
そう言うが早いか、彼女は僕の左腕に自分の腕をぎゅっと絡めてきた。
細いけれど、意外なほどしっかりとした、そして驚くほど柔らかい感触。
「……っ、凛!? ちょっと、近すぎないか?」
「え? 変装してるんだから、これくらい密着してないと、寧ろ怪しくない?」
どんな理論だ。
けれど凛は僕の戸惑いなんてお構いなしに、さらに身体を寄せてくる。彼女の肩が、僕の胸元にぴたりと当たる。動くたびに、キャップの隙間から甘い香りがふわっと漂い、僕の理性をかき乱す。
「見て朝陽くん! 鶏肉が安いよ。今夜は鶏鍋にしない? 季節外れだけど、私、朝陽くんの作るお鍋、食べてみたいな」
「お、おい、鍋のコーナーはあっちだって……」
カートを押す僕の右手に、彼女の左手がそっと重ねられる。
「こっちだよ」と僕を誘導する彼女の距離は、もはやゼロだ。野菜売り場でも、精肉コーナーでも、彼女は僕の腕を抱え込んだまま、幸せそうに目を細めている。
すれ違う客が、僕たちを「仲の良いカップル」として見ているのが痛いほど分かる。
視線が痛い。
凛はそれを気にするどころか、むしろ楽しんでいるようだった。
「これ、美味しそうだね」「こっちのキノコも入れようよ」
隣で囁かれるたび、いろいろめっちゃ当たる。僕はもう、鶏肉の値段どころではなかった。
レジを済ませ、重い買い物袋を両手に提げた僕の隣を、凛は依然として離れようとしない。
今度は僕のパーカーの裾をギュッと掴み、まるで迷子にならないように必死な子供のように、トボトボとついてくる。
「……重くない? 私も持つよ?」
「いいよ、これくらい。……それより、さっきからずっとくっついてるけど、暑くないのか?」
「……ううん。全然。……むしろ、すごく安心するの」
夕暮れの街灯の下。帽子を目深に被った彼女が、僕をそっと見上げる。
その瞳には、かつての冷たさなんて欠片もなかった。
「……ねぇ。友達って、いいものだね。」
「いや友達って距離感こんなに近かったっけ!?」
彼女の言葉に、僕はこう返すしかなかった。
「とりあえず帰ったら文句言わせてくれ。」
アパートに着くまでの数十分。
僕の腕に残った彼女の熱量と、甘い香りは、ずっと僕の身体を熱くさせていた。
お読みいただきありがとうございました!
初めての「秘密の買い出し」!
「変装してるから」という最強の言い訳を手に入れた凛ちゃんの猛攻、いかがでしたでしょうか。
腕を組み、身体を寄せ、確信犯的に朝陽くんを翻弄する姿は、まさに友達(笑)になったからここその特権ですね。
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