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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第207話:恋人たちのオブジェと、離さない手

誰もいない静かな展望デッキ。俺の胸の中で泣いていた凛が、ゆっくりと顔を上げた。

泣き晴らしたせいで目元はまだ少し赤いけれど、その顔には、今まで見たどんな笑顔よりも幸せそうな、とびきりの笑みが浮かんでいた。

俺はコートの袖から手を伸ばし、彼女の頬を濡らしている涙の痕を、指の腹で優しく拭う。


そして、俺はコートのポケットから、あらかじめ用意しておいた『ホッカイロ』を取り出した。


「手、冷たくなってるな。はい、これ」

「あ……ホッカイロ。朝陽くん、用意してくれてたの?」

「凛は冷え性だからな。ポケットの中で温めておいたから、すぐ使えるよ」


俺が手渡すと、凛は両手でそれを受け取り、嬉しそうにふわりと微笑んだ。


「えへへ、ありがとう。……でも、朝陽くんの手で直接温めてもらう方が、もっと嬉しいな」

「っ……分かったよ。じゃあ、帰るまで絶対に手、離さないからな」

「ふふっ、約束だよ?」


俺が少し照れながら宣言すると、凛は満面の笑みで頷いた。

俺たちは再び手を取り合い、ゆっくりと階段を降りて、光の海の中へと戻っていった。


メインの広場に戻ると、相変わらず大勢の人で賑わっていた。

すれ違う人たちの肩がぶつかりそうになる中、俺は凛と繋いでいる右手に少しだけ力を込める。

すると凛は、繋いだ手を引き寄せるようにして、俺の右腕に自分の両腕をぎゅっと絡ませ、ぴったりと寄り添ってきた。


「……凛?」

「……恋人になったんだから、これからは遠慮しないって言ったでしょ?」


俺が驚いて見下ろすと、凛は上目遣いで悪戯っぽく微笑み、さらに強く俺の腕にしがみついた。

腕に当たる柔らかい感触と、今まで以上に近い距離。


「っ……ああ、そうだな。俺も、遠慮しないよ」


俺は彼女と繋いだ手を、そのまま俺のコートの右ポケットへと引き入れた。


「あっ……」

「これなら、もっと温かいだろ」


凛が小さく声を漏らし、ポケットの中で俺の指をきゅっと握り返してくる。

狭い空間でお互いの体温が直接混ざり合い、密着した肩から彼女の甘い香りが漂ってきて、俺の顔は一気に熱くなった。


少し歩くと、ひと際明るく光る『ハート型のイルミネーションオブジェ』が見えてきた。

いかにもカップル向けの撮影スポットで、何組かの男女が順番待ちをしている。


「あ、朝陽くん。……せっかくだし、あそこで一緒に写真撮りたいな」


凛が俺の腕を少し引いて、そのハートのベンチを指差した。


「……あー、なるほど。そうだな、せっかくだし撮って行くか」


普段の俺なら恥ずかしくて素通りするところだが、今日という特別な日の記念を残したいという彼女の気持ちはよく分かった。

俺たちは列の後ろに並び、自分たちの番を待つ。


「……あの、すみません。自分たちの写真、撮ってもらってもいいですか?」


俺が後ろに並んでいた人に声をかけると、「いいですよ!」と快く引き受けてくれた。

俺たちはハートのベンチに並んで腰を下ろす。


「凛、もっと寄って」

「うんっ……」


俺が言うと、凛はこれ以上ないくらい幸せそうに俺の肩にぴったりと寄り添い、二人でカメラに向かって微笑んだ。


カシャッ。


イルミネーションの光に包まれて、少し顔を赤くした俺と、最高に幸せそうに笑う凛。

第三者の客観的な視点で切り取られたその写真は、俺たちが「恋人」になったことを何よりも証明しているようで、なんだか猛烈に照れくさかった。



イルミネーションを心ゆくまで満喫し、俺たちは帰りのバスに揺られていた。

夜も遅くなり、車内は遊び疲れた人たちで静まり返っている。


俺たちも二人掛けの席に並んで座っていたが、隣の凛はなんだか少しウトウトしているようだった。

緊張が解けて泣いたことと、寒い中を歩き回ったことで、どっと疲れが出たのだろう。


「眠いのか?」

「……ううん、大丈夫」


そう言いながらも、凛の頭がコクン、コクンと揺れる。

俺が「無理するなよ」と声をかけようとした瞬間。


コツン、と。

俺の左肩に、軽い重みが乗った。


「……朝陽くんの肩、温かいね」


凛が目を閉じたまま、俺の肩に頭を預けて呟いた。

以前の俺なら「周りに見られたら」と気にして体をこわばらせていたかもしれない。だが今の俺は、彼女が寄りかかりやすいように、そっと自分の姿勢を直した。


「……今日のこと、私、絶対に一生忘れないよ。朝陽くんが言ってくれた言葉、全部、すごく嬉しかった」

「……俺もだよ。俺にとっても、一生忘れられない最高の一日になった」


俺が小さな声で返すと、凛は目を閉じたまま「えへへ」と幸せそうに笑った。

バスの心地よい揺れに合わせて、彼女の穏やかな寝息が聞こえ始める。

俺は彼女を起こさないように、繋いだままの左手を優しく握り直し、窓の外を流れる夜の街並みを静かに見つめていた。

第207話、ありがとうございました!

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