第2話:お隣さんは、自室で食べてください。
さて、第2話です。
勢いで「氷の令嬢」を部屋に入れてしまった朝陽くん。
冷静になった彼は、平穏な日常を守るために「ある作戦」に出るのですが……。
今夜のメニューは、ガッツリ美味しい『豚の生姜焼き』です!
――昨日の自分は、どうかしていた。
「……はぁ」
夕暮れ時。僕はキッチンで一人、深いため息をついた。
昨夜、空腹で倒れそうだった隣のクラスの女子――通称「氷の令嬢」こと冬月凛さんを、あろうことか自分の部屋に招き入れ、親子丼を食べさせてしまった。
緊急事態だったとはいえ、一人暮らしの男子高校生の部屋に初対面の女子を入れるなんて。
もし変な噂でも立ったら、僕の平穏な生活が壊れてしまう。
(今日は、深入りしないようにしよう。……一応、昨日『今日も来る?』なんて聞いちゃった手前、門前払いはできないけど)
僕は自分の「お節介」な性格を少し呪いながら、フライパンを火にかけた。
何故彼女があれほど飢えていたのか、事情なんて聞かない。深入りすればするほど、境界線が曖昧になるから。
今日の献立は、『厚切り豚の生姜焼き』だ。
じゅうううぅっ!
熱した油に、醤油、みりん、酒、そしてたっぷりのすり下ろし生姜を合わせた特製タレを投入する。
香ばしい醤油の焦げる匂いと、生姜のキリッとした刺激が、一気にキッチンの空気を支配した。
豚肉の脂がタレと絡み、琥珀色のツヤを放ちながらフライパンの中で踊っている。
付け合わせのキャベツは、極限まで細く千切りにした。
炊きたての白いご飯から立ち上る湯気。
完璧な布陣。……だけど、今日はこれを二人で囲むつもりはない。
その時、予想通りにインターホンが鳴った。
「……はい」
「……こんばんは。瀬戸くん」
ドアを開けると、そこには昨日と同じ、少し疲れた顔をした冬月さんが立っていた。
学校で見せる冷徹な雰囲気はどこへやら。彼女の鼻先が、ピクピクと生姜焼きの匂いに反応している。
「あの、……今日も、すごくいい匂いがしたから」
「ああ、ちょうどできたところだよ。……待ってて」
僕は彼女を中に入れず、あらかじめ用意しておいた「お盆」を差し出した。
大盛りのご飯、山盛りの生姜焼き、そしてお味噌汁。
「え……?」
「これ、今日の分。冬月さんの部屋まで運ぶから、自分の部屋で食べて。……さすがに、毎日女子を部屋に入れるのは、お互い良くないと思うんだ」
冬月さんが一瞬、目を見開いた。
昨日、あれほど幸せそうに僕のテーブルで食べていた彼女にしてみれば、予想外の「拒絶」だったのかもしれない。
「……そう。……そうよね。ごめんなさい、図々しくて」
「いや、いいんだ。……ただ、自分のペースでゆっくり食べたほうがいいだろ? 僕は僕で、掃除とかしたいし」
あえて「興味がない」というスタンスを貫く。
彼女がどんな生活をしていて、何故あんなにボロボロなのか。それを聞かないのが、今の僕にできる精一杯の礼儀だ。
「……わかったわ。……ありがとう。お皿は、明日返すわ」
「うん、また明日」
彼女は両手でお盆を受け取ると、どこか寂しそうな、でも少し安心したような不思議な顔をして、隣の自室へと消えていった。
静かになったリビング。
僕は一人、自分の分の生姜焼きを口に運ぶ。
「…………美味い。……やっぱり、これが一番落ち着く」
自分の料理と、静かな空間。
これでいい。
彼女はただの隣人で、僕はただ、余ったご飯を分けてあげているだけ。
……そう自分に言い聞かせながら、僕は少しだけ、彼女が最後に見せた「取り残された子猫」のような表情が頭から離れなかった。
お読みいただきありがとうございました!
まさかの「テイクアウト方式」への移行。
せっかくの生姜焼き、二人で食べたほうが美味しい気もしますが……朝陽くんの慎重な性格が出てしまいましたね。
でも、お盆を持って帰る冬月さんの姿を想像すると、少しだけシュールで可愛い気もします。
この「お盆」が、二人の関係をどう変えていくのか……。
「冬月さん、ちょっと寂しそう……」と思ってくださった方は、ぜひブックマークで応援いただけると、執筆の励みになります!




