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第18話:沈黙の帰り道と、解かれた封印

いつも応援ありがとうございます!

絶体絶命のピンチに現れたのは、怒りを瞳に宿した朝陽でした。

間一髪で救い出された冬月さんと陽菜。しかし、事件が解決した後も、朝陽を包む冷たい空気は晴れないままで……。

「そこまでだ! 何をしてる!」


男が瀬戸くんに殴りかかろうとした瞬間、鋭い笛の音と共に数人の警備員が割って入った。

どうやら、近くのショップの店員が異変に気づいて通報していたらしい。


「チッ、行こうぜ!」

「逃がすか! 君たち、怪我はないか?」


男たちは常習犯だったらしく、抵抗も虚しくその場で取り押さえられ、警備室へと連行されていった。

嵐が去った後のような静寂が、駅前の広場に広がる。


「……瀬戸、くん……」


震える声で名前を呼ぶ。

瀬戸くんの瞳から、先ほどのような冷たい光が消えていた。彼は大きく一度ため息をつくと、地面に置いていたスーパーの袋を再び提げた。


「……怪我はないな。佐藤さんも、ありがとう。……もう大丈夫だから」


「あ、ああ。……瀬戸、あんた、あんな顔できるんだね」



陽菜は驚きと、それ以上の「納得」を込めて瀬戸を見つめた。

そして、隣で未だに瀬戸の背中を、熱く切実な瞳で見つめ続けている凛の横顔を見て、全てを察した。


(……あー、これ。凛の悩みの種って、完全に瀬戸じゃん。接点なんてあったんだ…)

悩んでいた時と全く違う顔つきになった凛を見て、陽菜は瀬戸に任せることにした。


「あー、なんか私、お腹空きすぎて一人でラーメン食べて帰りたくなっちゃった! 凛、ごめんね、あとは二人で仲良くやってよ。じゃあね!」




「えっ、陽菜!? ちょっと――」


陽菜は手を振りながら、足早に人混みの中へ消えていった。


陽菜がいなくなり、駅からの帰り道。

二人一緒に帰るのは今回が初めてだった。


けれど、二人の間には重苦しい沈黙だけが流れていた。

瀬戸くんは一度も振り返らず、私の三歩先を黙々と歩く。

その背中は、「これ以上近づくな」と無言で拒絶しているようだった。


私は、自分のために怒ってくれた彼の背中を見つめながら、胸を締め付けられるような思いでいた。

助けてもらった感謝を伝えたい。でも、今の彼に声をかけるのが、どうしようもなく怖かった。


そのまま、一言も交わすことなくアパートに到着し、二人はそれぞれの部屋の前に立つ。


「……今日のおかず、タッパーに詰めて渡すから。悪いけど、今日は自分の部屋で食べてくれ。……お互い、疲れただろ」


瀬戸くんは目を合わせないままそう言い、自分の部屋へ入ろうとした。

これ以上、彼女の「熱」に触れたら、自分が自分でなくなってしまう。そんな恐怖が彼を支配していた。




「……やだ」


不意に、袖を強く引かれた。


「やだって言ってるでしょ。……絶対、瀬戸くんの部屋で食べる」


彼女は僕の腕をすり抜けるようにして、開いたドアの隙間から部屋へと滑り込んだ。

「氷の令嬢」の面影なんて微塵もない、強引で、けれど必死な一人の女の子の顔で、彼女は食卓に居座った。


「…………好きにしろよ」


僕は諦めたように、小さなため息をついた。


沈黙の中での食事。

いつもなら絶品のはずの料理も、今は味がよく分からない。

食事を終え、食器を片付けようとした時、彼女が静かに口を開いた。


「……あのさ。朝陽くん。昨日のこと、ごめんって言ったよね」


「…………」


「嫌だったろ、気持ち悪かったろって……そんなこと、一ミリも思ってないよ」


彼女はまっすぐに僕の瞳を見つめた。

年相応の、少し高めの、澄んだ声。


「頭撫でられたの、私……すごく嬉しかった。あんなことされたの、初めてだったから。……だから、あんな風に自分を悪く言わないで」


「……っ、やめろよ」


絞り出すような声で言った。


「僕は……君が思うような、まともな人間じゃないんだ。困っている人がいたら助ける。それはただの反射だ。でも……それ以上は無理なんだ。誰かと深く関わって、信じて、またあんな風に壊れるのは……もう、耐えられないんだよ」


僕の左腕の袖を握る手が、微かに震えていた。




「人を信じるのが……怖いんだ。深入りしたくないんだよ。……僕は、壊れてるんだ」


彼の告白は、悲鳴のようだった。

凛は、朝陽の瞳の奥に広がる、底なしの孤独と恐怖を初めて目の当たりにした。

そこには、彼女が今まで見てきた「優しい隣人」ではなく、傷だらけでうずくまっている一人の少年がいた。


「……教えて、瀬戸くん」


彼女は椅子から立ち上がり、震える彼の手に、自分の手をそっと重ねた。


「何があなたをそんなに苦しめてるの? 何があったの? ……私、知りたい。朝陽くんの過去のこと、全部」


「…………」


「パートナーなんだから!あなたが自分のことを『壊れてる』って言うなら……私が、その破片を全部拾い集めるから」


夕暮れの部屋に、彼女の決意に満ちた声が響く。

ついに、朝陽の心にかけられた分厚い封印が、一人の少女の真っ直ぐな想いによって、ゆっくりと剥がれようとしていた。

お読みいただきありがとうございました!


助けてはくれるけれど、深く関わることを頑なに拒む朝陽くん。

それに対し、心までも共有する「パートナー」になろうとする凛ちゃんの強さが光る回でした。


「朝陽くんの心の叫びが切なすぎる……」と思ってくださった方は、ぜひ評価やブクマで応援お願いします!

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