第12話:氷の令嬢の告白と、特別な契約
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看病の夜が明け、一度は自分の部屋に戻った朝陽くん。
けれど、一人で無理をしてしまう彼女のことがどうしても放っておけず、夕食を作る前に、まずは隣の扉を叩きます。
そこでお互いに向き合う、「隠し事」と「これからのこと」。
最高効率を求める冬月さんが、ご飯の前に提示した驚きの「契約」とは?
二人の関係が、ただのお隣さんから「唯一無二のパートナー」へと進化する回です!
学校から帰宅し、カバンを置いた僕は、そのまま隣の部屋へと向かった。
まずは、彼女がちゃんと休んでいるか確かめたかったんだ。
――ピンポーン。
「……冬月さん。瀬戸だけど、体調はどう?」
少しの沈黙の後、カチャリと鍵が開く音がした。
現れた彼女は、昨日のような青白さはなかったけれど、少しだけ気まずそうに視線を泳がせていた。
「……瀬戸くん。ええ、もう平気よ。……あの、中に入って。あなたに、話したいことがあったの」
彼女に促されるまま、僕は初めて、自分の意志で彼女の部屋の「奥」へと足を踏み入れた。
部屋の隅では、液晶タブレットが淡い光を放っている。
机の上には資料やペンタブが散らかり、彼女がどれほどストイックに「絵」と向き合っているかが一目でわかった。
僕は、入り口近くで立ち止まり、彼女に向き合った。
「まず、昨夜はありがとう。本当に感謝してる。」
「気にしないでいいよ、こっちこそ、勝手に部屋に入ってごめん。」
「いいのよ。それで……瀬戸くん。単刀直入に言うわ」
彼女はまっすぐに僕の瞳を見つめた。
「昨夜、そして今朝……あなたは私のデスクを見たわね? 」
隠し通すことはできない。僕は彼女の瞳から目を逸らさず、正直に頷いた。
「……ああ。……ごめん。目に入ったんだ。君が、あの『Fuyu』さんなんだな」
「…………そうよ。学校の誰も知らない、私の本当の姿」
彼女は小さく息を吐いた。そこには、正体がバレた絶望ではなく、重荷を下ろしたような安堵の色があった。
「あの絵は、私の誇り。けれど、今回痛感したわ。今の私一人では、健康管理すらままならず、結果として『最高の絵』を描き続けることはできない。……あなたの作るご飯がなければ、私は、あの絵を納期までに完成させることができなかったでしょう」
「……だから、提案があるの」
彼女は少しだけ頬を赤らめ、けれどプロとしての取引をするような真剣なトーンで続けた。
「私には、生活力が絶望的に欠けているわ。集中し始めると食事も睡眠も忘れてしまうし、この部屋の惨状を見ての通り、身の回りのことも疎かになる。……正直に言うわ。私は、一人じゃダメなのよ」
学校で『氷の令嬢』と呼ばれる彼女が、僕の前でだけ、その脆い「中身」をさらけ出している。
「だから……私を、支えてくれないかしら?」
「え?」
「これからの食費は、私が全て出すわ。 その代わり、私の分の食事も毎日作ってほしい。……それだけじゃない。私が無茶をしすぎないように、私の生活を……あなたが管理してほしいの」
「管理……って、それって……」
「専属のサポーター、あるいは……そうね、共犯者になってほしいということよ。……もちろん、あなたが嫌でなければ、の話だけれど」
「効率」という言葉で包み隠しているけれど、それは紛れもない、彼女からの切実なSOSだった。
「……いいよ。元々、君に食べてもらうのは僕の楽しみだったし。」
僕は、彼女の差し出した小さな手を、そっと包み込むように握った。
「食費は半分でいい。その代わり、これからも僕の料理、ちゃんと残さず食べてくれよ。……じゃあ、契約成立の印に、今夜は温かいうどんを作るから。少し待ってて」
「……! ええ、お願いするわ」
三十分後。僕は自分の部屋で作った『ふわふわ卵のあんかけうどん』を、彼女の部屋に運び込んだ。
「……美味しい。生姜が効いていて、身体が喜んでいるのがわかるわ」
「そうか。……あ、でも、あんまり早く食べると火傷するぞ」
「……わかっているわよ、それくらい」
昨日までのような「施し」ではない。
これからは、対等な「パートナー」としての食事。
僕たちの新しい、誰にも言えない関係が始まったんだ。
お読みいただきありがとうございました!
ご飯を食べる前に交わされた、二人だけの「特別な契約」。
食費折半、生活管理……。
朝陽くんはついに、冬月さんの日常の「守り手」になりました。




