第3話「カードの秘密、そして“願い”の正体」
「……ここまでくれば、大丈夫だ」
兄・悠人が息を整えながら、小さな廃ビルの一室に腰を下ろした。
床には塵と瓦礫。だが、今の2人に選択肢はなかった。
良もまた、スーツを解除しながら壁にもたれる。
「はぁ……まだ、手が震えてる……」
「当たり前だろ。初陣であれは上出来だよ」
だが、そのとき――
「“蟻”のカード、使ったのね」
静かな声が聞こえた。
2人が振り返ると、そこに――ひとりの少女が立っていた。
白いフード、鋭い視線。右手には、“鳥”の絵柄のカード。
「君は……誰?」
少女は名乗った。
「私はスズハ。“鳥”のWISHを継ぐ者」
そして、静かに言葉を続ける。
「ねえ……そのカード、どこで手に入れたの?」
良は、枕元にあったことを話す。
スズハは目を伏せ、小さくため息をついた。
「……やっぱり。『自発覚醒』だわ。あなたは、望んでいなくてもカードに選ばれた」
「それって……どういう意味?」
スズハは、カードケースから数枚のWISHカードを取り出した。
「これらは、単なる道具じゃない。“願い”を記録し、形に変える思念結晶なの」
「それぞれに、かつて“強く願った誰か”の魂が刻まれてる。だからこそ力になる――けど、同時に」
彼女はカードを光に透かす。
「持ち主の精神を蝕む。たとえば“戦いたくない”と思ってても、敵を前にすれば“殺意”が湧くようになる。…そのカードに染まるってこと」
良は顔を強ばらせた。
「それじゃ……俺も、いつか……」
「そう。気づかないうちに、“自分”じゃなくなるかも」
悠人が口を開く。
「でも、それでもやる価値はあるんだろ? 世界はもう……願いが暴走した“敵”で溢れてる」
スズハは、かすかに頷いた。
「願いが強すぎる人間は、カードがなくても暴走する」
「たとえば――“この世界を全部消してしまいたい”と、願った少年がいたわ」
良はドキリとする。
「それって……カイのこと?」
「知ってるのね。彼は、私の“かつての仲間”だった」
「でももう、私たちの声は届かない。彼の願いは、もう“呪い”になってるから」
その時、通信端末が鳴る。
《敵性WISH反応、南区エリアに出現。種別:BIRD/獣型融合体》
スズハが表情を引き締めた。
「来るわ。今度は“空”から」
良も立ち上がる。
「……行こう。怖いけど、でも俺――戦いたい」
「“願い”が呪いになる前に、誰かを救えるなら……!」
スズハは目を細め、微笑んだ。
「じゃあ……“連携”する? 私の“鳥”と、あなたの“蟻”。相性、悪くないわよ?」
良は大きく頷いた。
「よろしくな、スズハ!」
そして――
新たな戦いが、空から始まる。
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次回予告:第4話「羽撃く願い、空より来たる者」
空を裂き舞い降りる、巨大な鳥型融合体。
スズハと良の連携は果たして通じるのか?
そして、カードに潜む“声”が、良の耳に届き始める――。