第1話「蟻のカードと、目覚めた朝」
――朝、6時13分。
いつもより少し早く、目が覚めた。
「……ん、なんだこれ」
中学生の少年・**良**は、枕元に置かれていた黒いカードケースを見つけて眉をひそめた。見覚えはない。けれど、どこか懐かしいような気もした。
ケースを開けると、厚みのある数枚のカードが並んでいた。
そのうちの一枚を、つい手に取ってしまう。
そこには――蟻のような生き物と、五芒星(星印)の刻印が描かれていた。
「……兄貴の、か?」
そう呟いた瞬間。
カードの表面が淡く光を放ち、良の身体から力が抜けるような感覚に襲われた。
「え、なに、これ……?」
視界が滲む。
時が、止まった。
テレビの音。鳥の声。風の音――すべてが止まり、音が消えた。
そして次の瞬間。
《SYSTEM起動:ANT-ZERO》
冷たい無機質な声と共に、良の身体に“何か”が覆いかぶさるように形成されていく。
黒いスーツ。甲殻のような装甲。伸びる手足には蟻を思わせる鋭い爪。
背には小さく折りたたまれた透明な羽。
ヘルメットには、赤い複眼と突き出た顎の意匠――
「な、なにこれ……!」
鏡に映った自分の姿に、良は絶句した。
まるで仮面ライダーやヒーローアニメに出てくるような、バトルスーツ姿の自分。
だが、それは完全に現実だった。
《融合率:安定》
《使用者の願いを感知中――》
「……願い?」
その言葉に、良の中に小さな記憶が甦る。
昔、兄に言ったことがあった。
「強くなりたい。みんなを守れるくらい、強く」
その願いが、蟻のカードと共鳴したのか。
気づけば、自分の左腕にはカードホルダーが装着されていた。5枚分のスロット。今は1枚――“蟻”のカードだけが差し込まれている。
戸惑いの中で、部屋のドアがバン!と開かれた。
「……おい、良! 起きて――っ、なにその格好!?」
立ち尽くすのは、兄――**悠人**だった。
だがその目は、驚きではなく……なぜか、恐怖を宿していた。
「お前……“選ばれた”のか……!? あのカード……処分したはずなのに……!」
「兄貴……知ってたの? このスーツ、カードのこと……!」
「……時間がない。着替えてここを出ろ。すぐに、“やつら”が来る」
「やつら……って、何が……」
その瞬間、家の外に重い着地音が響いた。
地響きのようなそれは、確実に“何か”が現れた音。
兄・悠人は、背負っていたバッグから1枚のカードを抜き取った。
《WISHアーマー:BEAST-04 発動》
彼の身体もまた、獣を模した鋼の鎧に包まれていく。
「……話は後だ、良。ここからは、生き残る覚悟を持て」
良の胸に、再びあの機械音声が響く。
《戦闘モード、解放。WISH《蟻》、起動確認》
こうして、少年・良の戦いが始まった。
“願い”を宿すバトラーたちの世界へ――
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次回予告:第2話「侵入者、BEASTの咆哮」
兄・悠人の正体、そして外から迫る獣のバトラー。
良は初めての戦いに挑む。
だがその背中に、確かに芽生えていた。
「僕は、僕の願いで、戦うんだ――!」