97、国王の誕生祭
オクルスが、休暇中のヴァラン、そしていまだに塔にいるエストレージャと共に食事をしているとき、ふと今後の日程について思い至った。
「ヴァラン、もうすぐ休暇も終わるよね?」
「はい。もうすぐです」
頷いたヴァランが不思議そうな顔でこちらを見てきたため、オクルスは本題を切り出した。
「今年の国王陛下の誕生祭は行く?」
「……オクルス様、行くんですか!?」
目を見開いたヴァランにそう言われ、オクルスは苦笑した。彼は相当驚いているようだが、オクルスだって一応必要があれば参加するのだ。
「そろそろ変な噂になりそうだから、表に出ておかなくちゃいけないかなって」
オクルスが言うと、ヴァランが不思議そうに首を傾げた。
「普段から引きこもって……いえ、塔の中にいますよね? 変な噂になりますか?」
「はは。確かにな」
「……確かに引きこもってるね」
ヴァランは途中で言うのを止めようとしたようだが、しっかり伝わってしまっている。堪えきれずに笑い始めたエストレージャを睨みながら、オクルスも渋々頷いた。
不思議そうな目をしているヴァランに説明するために、オクルスは口を開く。
「普段ならそうだけれど、国王陛下の誕生祭は基本的に参加しないといけないからね。休むのにはそれなりの理由が必要になるんだよね」
国王の誕生祭。ベルダー王国の祝い事だ。貴族を中心にパーティーも開催され、大魔法使いであるオクルスもそれに呼ばれる。
今年も招待状が来ていた。しかし、オクルスが現在、魔法を使えないということはトップシークレットの事項だ。人が集まるパーティーに行って、気づかれるわけにはいかない。
それでも、断る理由は思いつかない。
オクルスが考えていると、ヴァランが心配そうな目で尋ねてきた。
「体調悪いということにはできないんですか?」
「あ、仮病はすでに何回か使っているから」
「……」
今までも参加が面倒なときに仮病を使っていた。オクルスがそう言うと、エストレージャが呆れた顔で言う。
「お前、一部では病弱説出てるもんな……」
「だってパーティーって面倒じゃない? うるさい場所で虚空を見つめるだけの時間になるから。お酒はおいしいけれど」
エストレージャ以外に友達はいないので、行ったところでつまらないのだ。自由に帰れそうだったら勝手に帰るし、王族の挨拶が後ろの方にあるときなど、帰りにくそうだったら本当に暇。隅っこでぼーっとしている。
オクルスがそう言うと、ヴァランが哀れみの目を向けてくる。ヴァランにそんな目で見られるのは少し悲しい。
エストレージャへ目を向けたヴァランが、不思議そうに尋ねる。
「エストレージャ様。僕も行って良いんですか?」
「ああ。オクルスの連れとして断られることはないだろう」
少なくとも今はまだ、オクルスは大魔法使いだ。そしてヴァランは王城に連れていったことがあるわけだし、オクルスが後見だということは知られている。エストレージャ、ルーナディア、レーデンボークとも交流はあるため、不審人物とは思われていない。今さら拒絶されることはないだろう。
しばらくは考え込んでいたヴァランであったが、やがて頷いた。
「……それなら僕も行きます」
「うん。ありがとう」
ヴァランも来てくれるのなら、暇な時間がなさそうだ。安心したオクルスは、念のためエストレージャに確認をした。
「王子様は行くんでしょう?」
「それはもちろん。だが、流石に父上の誕生祭だから席は外せないな」
「了解」
エストレージャは王族の席から外れないということなので、オクルスは隅っこでヴァランと共にいればいいだけか。急に何とかなる気がしてきた。むしろ、少し楽しみになってきた。
ヴァランも行くのなら、いろいろ準備することがあるだろう。
「ヴァラン、服を買いに行こうか」
そう言うと、ヴァランは怪訝そうな表情をしている。
「オクルス様、服買うのが好きでしたか? いつも適当に買っていると思っていました」
「いや、別に服を買うこと自体は好きではないけれど。でも、君の物を買うのは好きだよ」
「……」
ヴァランは俯いてしまったので、怒らせてしまったかもしれない。申し訳なく思いながらも、街に誘うとヴァランはついてきてくれた。
オクルスはヴァランを街で店へと連れ回し、パーティーに行く準備をした。




