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9、固有魔法を知るには

 オクルスは部屋に散らばった本を片付けている。もちろん、自分の手を使うことはない。オクルスは座っているだけで、魔法で手早く片付けていく。本の方に、棚へと戻って貰うのだ。


 同じ部屋にいたヴァランが興味深そうにそれを見つめている。


「固有魔法ってどうやって分かるんですか?」

「あー、固有魔法?」


 固有魔法。それは人が固有に持つもの。そして大魔法使いと認められるには、固有魔法を「使いこなさなくては」いけない。


 「使いこなす」の前。まずは自分の固有魔法を何かしらなければならない。


「固有魔法は、城にある水晶で分かるようになっているんだ。一応、10歳になる前に城へ検査をしにくるという義務があるよ」

「そうなんですね」


 それでも、実際はもっと前に保護者から連れてこられることが多い。


 例えば、貴族の血筋だと、生まれてすぐにその水晶の元へと親が連れていく。平民の子どもでも5歳か6歳の頃に連れていくことが多い。


 孤児院育ちだったから、8歳になっても連れてこられることはなかったのだろう。


 オクルスは重苦しい気持ちが心を覆う。しかし、とるべき選択肢は分かっているのだ。


「……今度、行こうか。うん」


 オクルスは、ヴァランを連れていくしかない。オクルスの顔を青の瞳でじーっと見ていたヴァランが首を傾げた。

 

「なにか、嫌ですか?」


 ヴァランが明らかに心配そうにしている。オクルスは緩やかに首を振った。思わず乾いた笑みがこぼれる。

 

「あはは。城は半分出禁みたいなものだから」

「あ、エストレージャ殿下とそんなお話をしていましたね」


 この前、エストレージャと話していたときにもそんな話をした。


 『呼ばれたとき以外は来るな、仮に来るときは連絡をしてからにしろ』と、はっきり言われたことはないが、国の上層部から遠回しには何度も言われた。国王からも、国王の側近からも、上位貴族からも。


 どの件でここまで恐れられているのかよく分かっていない。心当たりは残念ながらいくつもある。


「まあ、今回は正当な用事があるから。先触れを出せば大丈夫。多分」

「……ごめんなさい、大魔法使い様」

「なんで謝るの?」


 目を伏せて謝罪をしていたヴァランに、オクルスはぱちりと薄桃色の瞳を動かした。


「だって……。大魔法使い様の嫌なことをやらせてしまうから」


 オクルスは頬を緩めた。この子は、優しい子だ。根本的にオクルスとは違う。やっぱりこの子は守らないとな、と思う。だからこそ、強い力を持っていそうなこの子を利用しようとする悪意や、この子を悪い方向へ導こうとする悪人から守らないと。


 悪い方向……。何か、引っかかる気がした。しばらく考えたが、何か霧がかかったようにはっきりしなかった。


「大魔法使い様?」

「あ、ごめん。何でもない。別に嫌じゃないよ」


 そもそも、オクルスは別に人嫌いではない。勝手に怖がられているだけで。


「久しぶりに城を見るのも楽しそうだし」


 なにせ荘厳で煌びやかな城だ。見ているだけでも楽しい。それを聞いたヴァランが顔を輝かせた。


「そんなに綺麗なんですか?」

「うん」

「へえ!」


 宝石のようにキラキラとした瞳。城の中にある宝石よりも綺麗かもしれない。そんなことを考えながら、オクルスは笑みを浮かべた。


「じゃあ、後で王子様にでも手紙を出すとして。城に行く準備をしようか」


 エストレージャを介した方がスムーズに話が進む。多分。城の中でのエストレージャの立場を知るわけではないが。


 ヴァランがきょとんとした顔をしている。

 

「城への準備ですか?」

「うん。マナーとかはどうでもいいけど。公式の場にもいける服を買っておこうか」


 マナーなどを必要とする場はないはず。王と対面するわけではなく、水晶の部屋に行くだけだから。


「服ですか?」

「うん。街に出ようか」


 それも憂鬱ではある。どれだけの人に遠巻きにされるか。


 ◆


 深くフードをかぶったオクルスは、箒の前にヴァランを乗せて街の近くに降り立った。再度フードをかぶり直す。


「フードかぶるんですか?」

「いるのが気がつかれたら、驚かせるからね」


 そういうことにしておこう。ヴァランがじっと顔を見てくる。心の中まで見透かされているような気持ちになって、誤魔化すために笑みを浮かべた。


「さっさと行こうか」

「はい」


 何かを言いたげにしていたが、ヴァランはそれ以上何も聞かなかった。オクルスの後ろをついてくる。


 気がつけばヴァランが少し後ろにいることに気がついた。そうだ。足の幅が大分違う。


 オクルスはヴァランに手を伸ばした。


「はい」

「えっと……」


 困った顔をしているヴァランの手を、オクルスの方から掴んだ。


「迷子になったら困るから」

「……ありがとうございます」


 青の瞳を何度か動かし、ヴァランが少し目を伏せた。嫌だっただろうか。それでも、迷子にならないためには手をつなぐの以外思いつかない。


 黙ってオクルスはヴァラン手を引いた。ふと、思う。今まで、人の手をつないだことがあっただろうか。あまり覚えていない。初めて、かもしれない。


 目的の店に着くまで、人を避けながらずっと。オクルスはヴァランの手を引き続けた。

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