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8、封動の大魔法使い

「レーデンボーク殿下、でしたか? その方はどのような方なんですか?」

「……興味ある?」

「少し」


 それはそうだろう。この国の頂点、王族でありながら、大魔法使いという名誉まで手にしているのだ。下手をすればこの国一の影響力。


 そんなレーデンボークに興味をもつのは当然のこと。


 オクルスは苦い思いをのみ込んだ。レーデンボークが苦手だ。自信に満ちていて。自分よりも年下なのに才に満ちていて。みんなから、愛されているようなあの男が嫌い。

 しかし、そのオクルスの思想を押しつけてはいけない。できるだけ客観的事実だけを探した。


「レーデンボーク・スペランザ。『封動(ふうどう)』の大魔法使い。その名のとおり、動きをしばらくの間封じることができる」


 人の動きを封じることができる。強力な魔法だ。それなのに、レーデンボークは怖がられることなく、人と共に生活している。


 オクルスとレーデンボークは何が違うんだろうか。それが分からないから、オクルスに人が近づかないのかもしれないが。


 自嘲気味にオクルスが俯くと、ヴァランの驚いたような声がした。


「動きを封じる……。『物従』と反対ですね」

「そうだね」


 厳密にはオクルスは「物」しか動かせず、レーデンボークは「動く生物」の動きを止めることができるのだから、範囲としては違う。そこも含めて正反対。


「あの子は正義の味方として国民に有名だからね」

「英雄、ですか?」

「うん」


 現在、オクルスよりも4つ下のレーデンボーク。それでもすでに国民からの人気は高い。


「盗人を捕らえたとか。悪人を捕まえたとか。正義の味方として人気なんだよ」

「そうなんですね」


 強い力を持っていながらも、国民に寄り添うという男。そんな評判だ。


 あまり孤児院までその評判は届いていなかったのか。ヴァランは興味深そうに話を聞いている。レーデンボークへの、興味を。


 それに少し心が欠けたような感覚になりながら、汚らしい感情を押し殺して尋ねた。


「封動の魔法使いについて、もっと知りたい?」

「うーん。いらないです。それより、大魔法使いについて知りたいです」

「……そう?」


 その欠けた部分に温かいぬくもりを流し込まれたような心地がして、オクルスは笑みを浮かべた。

 自分に興味をもってもらえることに喜びを感じている。その自分の浅ましさに嫌気がさして、目を逸らした。


「ありがとう。また追々話していくね」

「……? 分かりました」


 今ではないのか、と言いたげな声だが、聞かなかったことにした。今話せば、余計なことまでペラペラと話してしまいそうだから、少し期間をおきたい。


「じゃあ、とりあえず何の魔法が使えるかをやってみようか」


 ◆


 その日の夜。オクルスが紙に文字を書いていると、テリーがぴょんと机の上に飛び乗ってきた。


「ご主人様。何しているんですか?」

「んー、日記だよ」


 ヴァランが来てからのこと、そして彼と共にしたことをメモしている。オクルスは紙に文字を書いた方が、頭の中を整理しやすい。

 オクルスの書いている日記を見たテリーがコテンと首を傾げた。


「これ、この国の言葉じゃないですよね? 書庫では見たことないですよ」

「君、そんなに勝手に書庫入っているの? まあ、いいけど。この国の言葉ではないよ」


 テリーには適当にごまかしたが。この文字が書庫にあるはずはない。日本語で書いているのだから。人に読まれないため、あえて日本語で書いている。


 日記は死後に読まれる可能性がありそうだが、オクルスは絶対に嫌だ。前世の日記を誰かに読まれたと思うと、吐き気がする。


 だから、今回は。内容を分からないように、人に見られたくないものは日本語で書くことにしている。


 そこまでテリーに説明していないが。それ以上突っ込んで聞かれることはなかった。


「へー。そうなんですね。何を書いているんですか?」

「ヴァランが見込みあるなって」

「ご主人様、楽しそうでしたものね」

「……」


 楽しそうに見えていたのか。気がつかれていたことを少し恥ずかしく思いながら、文字を書き進めた。


 ヴァランは優秀だった。6属性の魔法を使うのは初めてだと言っていたが、すでに水、火、風、土の4つは今日のうちにできるようになった。


「魔力量は申し分ないだろうし。これは追い抜かれるのも時間の問題かな」

「ご主人様、嬉しそうですね」

「そう?」


 嬉しい、のだろうか。自分の感情がよく分からなくてテリーの頭をぐしゃりと撫でた。この日記は誰にも読まれることがない。オクルスはだらだらとしばらく文字を書いていた。

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