【短編】『白い結婚』だけど、幸せになってみせる!
私クロエと、ホーク様は契約結婚だった。
白い結婚のまま3年が過ぎ、当然子もいない。今日は契約が終わる……離縁の日だ。だというのに。
「クロエ、考え直してくれないか?」
「どういうことですか?」
力なく項垂れた旦那様……ホーク様は、一体どういうおつもりなんでしょう?
「自分がおかしな事を言っているのは分かっている。だが、私が屋敷を留守にしている間、しっかりとこの家を支えてくれていたことを、皆から聞いている」
「ホーク様からの契約は『3年間結婚していた事実だけでよい』、というものでしたが、自分の住まいを快適にするのは当然のことです」
「それに、領土の経営もクロエの力添えで順調だと」
「ホーク様は王都にずっといらしたのですし、差し出がましいとは思いましたが、少々お手伝いをさせていただきました」
ホーク様は潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。
「君がこんなに素晴らしい女性だと気付かなかったんだ」
すっと差し出された大きな手は、私の頬に優しく触れた。
「3年会わないうちに……綺麗になったな。クロエ、愛している」
私に触れている手は、よく見ると小さく震えていて……
「すみません、お断りです」
「え」
「お断りだといったんです。私が離縁のためにがんばった3年間が無駄になってしまうではないですか」
「そんな! 俺は認めないからな」
「認めるも何も、元々そっちから言い出したことでしょう。それを、何を今さらひっくり返そうとしてるんですか。契約違反も甚だしい」
「なん……という……! 他に……好きな男ができたのか?」
「貴方と一緒にしないでください。王都に滞在している間、他の女性と遊びまくってたのはどこのどなたですか!?」
「なん、で……知って……——はっ」
それ以上何も言わなくなった旦那様……(もう、『元』ね)にしっかり礼をとると、私は部屋を出た。旦那様は後ろでまだ何か言っていたけど、私はもう他人なので、構う必要ないわね。
実家の両親には事前に伝えており、憤ってくれ、いつでも戻っていいと言われている。この日のために学んできた知識、広げた人脈、販路もある。3年間で深い絆ができた、屋敷の半数の使用人も私に付いてきたいと言っている。
元がこんな性格なのだ、貴族界でやっていくでも、商人になって働いて生きるのでも、どうとでもなるだろう。
自由と、それに向けての準備期間を用意してくれた元旦那様には、感謝しなくちゃね。
さあ、私の人生はここからスタートよ!