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色彩少女の過去

(なずな視点)

しばらくここには戻ってこない。準備がめんどくさくなったので、適当な理由をつけて自分を納得させ、部屋の掃除をすることにした。

すると、埃を被った絵本が出てきた。手に取ると、幼い過去がよみがえる。あの時はおかあさんに絵本を読んでもらってたっけ。たしか6歳のときだったな。

「それは遠い遠い昔の話。ある国に悪い様と良い王様がいました。

 良い王様は悪い王様に怒って、ある4人の人達で悪い王様を倒そうとしました。しかし悪い王様は良い王様の」

「おかあさん!なんで良い王様は悪い王様を倒そうとしたの?悪い王様でもいいとこあったかもしれないのに?可哀想だよ…」

小さい私はよくお母さんの話しを遮って自分の話をしていた。

「ふふふ、なずなちゃんは優しいからね。

 でもこれがこの世界のやり方だよ。

 悪と決めつけられたら最後。色んな人に怒られながらいなくなっちゃうんだよ」

 そう話すおかあさんの目には涙が溜まっていた。

「ふぅん…

 なずな、よく分かんないけど悲しいね」

静かに溢れる涙を見て、私は話を続けていた。

「でも、おかあさんはあく?でもないしやさしいしおもしろいしかわわいいしだから、違うの!みんなみんな、おかあさんはひどい人だって言うけど、なずなは違うって言ってるよ!

 ……だからおかあさん泣かないで、よしよし」

おかあさんは私の友達の親などにいじめられて色々ボロボロだった。何も悪くないのに。回覧板が回ってこないだとか、ネコの糞が臭いだとか。私の目の前でやられて、助けなきゃと思ったけど怖くて動けなかった。

家に帰った時おかあさんは泣きながら私に「ごめんね」とひたすら抱きついていた。

そんなおかあさんを見るのが辛かった。

「うん、ありがとう、なずなちゃん。

 おかあさん、元気出たよ!」

そう言っておかあさんは私を抱きしめて笑った。今思い出すと、これは作り笑いだった。当時は見分ける力も無くて…


「きゃぁぁぁっっっ!誰か倒れてる!」

「き、救急車、救急車ぁ!」

私が12歳の時。明日には卒業式を控えていた。

なかよしの友達と離れるのが悲しくて、おかあさんに話しを聞いてもらおうと考えながら歩いていた帰り道。

家の前で大騒ぎしている人がたくさん。

ネコでも轢かれたのかと思い、間をわって入っていったら。

「おかあ、さん、?」

おかあさんが倒れていた。赤い絵の具のようなものが私に向かってきている。

近所のおばあさんが私に

「この人はおまえのお母さんかい?今救急車を呼んでいるから大丈夫だよ。

 お父さんに連絡しなくてよいのかい?」

と言ってくれた。でもお父さんは絶対来ない。

おかあさんも私も捨てて他の女の人のところに

行ったあいつ。戻ってきても「願ったり叶ったりだ」とか絶対言う。

このときの私は、もうすでにおかあさんは助からないと本能で分かってたのだろう。

私は無意識に、倒れているお母さんの首元のネックレスを手に取った。


「おかあさんのペンダント、不思議だね!向きを変えたらキラキラに光るし、青色の時もあれば赤色の時もある!

 いろんな色がでるんでしょ?」

「うん、そうだよ。これはね、なずなちゃんのおばあちゃんも、そのまたおばあちゃんもずーっと守り続けてきた大事な物なんだ。

 いずれ、なずなちゃんもコレを使う日が来るよ」

「使うの?どうやって?」

「ふふふ、それはね、まだ秘密。

 ペンダントがなずなちゃんのことを認めた時、誰かに聞いたわけでもないのにこのペンダントのことをわかっちゃうんだから」

口に手を当て、ニシシと笑ってみせた、お母さんとの会話。

不思議すぎて意味が分からなかった。

でも、今ならなにか分かる気がする。

「お母さん、コレは私も守らなきゃだよね。

 お母さんみたいに守れるかは分からない。

 でも私ならできるって、お母さんは信じてくれるよね」

そう言って私はその場を後にした。救急車のサイレン。さっきの言葉はきっと、お母さんには届いていたと思う。だって、お母さんは私の手を軽く握ってくれたから。


家に入ると、はぐれもの……お父さんがいた。

しかも、知らない女の人と一緒に。

……ひとつ訂正する。知らないわけではない。

でもこの人はお父さんが既婚者だと知って近づいた人。

この人のことなんか知らない。

なんでいるの。

どうして帰ってきたのかを聞くと親権をもらいたいというのと、新しく3人で暮らそうという提案だった。

………そんなことがあってたまるか。

「今更来ても遅いよ!ていうか、二度と帰ってこないでってお母さんと約束してたじゃん!ふざけないで!お母さんと私を捨てたあんたなんかに親気取りしてほしくない!」

私は叫んだ。この人なんか血が繋がっただけの他人。むしろ、自分の体を渦巻いている血という血の半分はこの人と同じものと考えると、吐き気が催される。

本当に、お父さんは嫌いだった。お父さんに手をあげようとしかけた時に。

「待って待って、姉様」

小さな女の子が私の前に急に出てきた。

…これが私とシュージュの出会いだった。

シュージュが出てきたあと、お父さんと女の人は怖がって、「もう二度と来ません」と言っていた。

「あ、ありがとう…

 えっと、」

「初めましてだね!ボク、シュージュっていうの!

 姉様のことは知ってるよ〜!」

「なんで私のこと…」

「それは秘密〜」

おかあさんと同じように、イタズラっぽく笑うシュージュ。

「ねえ、ボク、姉様のこともっと知りたいな!

 だから一緒に暮らそーよ!」

「え、で、でも……」

「いーじゃんいーじゃん!

 ハイ、決定〜!!」

ほぼ一方的に話を決められ、シュージュは一緒に暮らすことになった。

不思議と嫌な気持ちはなくて、むしろ心地よかった。


「……………さま、姉様!

 どうしたの?大丈夫?」

「あぁ、うん、ごめんね。

 絵本ってすごいよね、これを持っただけで関連すること全部思い出せちゃうんだもん」

視界が滲んだ。

「……ボクね〜、姉様とずっと一緒にいて分かったことがあるよっ!

 姉様はすっごい泣き虫!」

「ちょ、シュージュ!

 大声で言わないでよ!」

「本当のことだも〜ん!

 …あっ、姉様見て見て!!

 みつくんたち、もうお外出てるよ!

 ボクたちも早く行こっ!」

絵本を大事そうに私の手から取り、机の上に置いた。

「…うんっ、行こう、シュージュ!」

ペネロを担ぎ、私は走っていくシュージュの後を追った。

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