幸運青年の違和感
(なずな視点)
カキン、チャリンと音が鳴る。
私たちはおばさんから課せられた課題に向き合っていた。
「もうなにこれっ、全然通用しないじゃない!
意味分かんないわよっ!」
風璃が珍しく弱音を吐く。
「ただ単に攻撃するだけじゃ効かねぇっ!
技出さねぇとだが……」
「でも、今はまず相手の体力削る方に焦点おいた方がいいんちゃうか?」
「………とりあえずやるっ!
ごちゃごちゃ言わずにやるっ!」
そう叫んで、技を繰り出す準備に入る。
「バッ……!?」
「なずな!ダメよ!」
みつると風璃の止める声は、私には届かない。
「赤色の情熱!」
ペネロを赤色に染め、私は一気に間合いを詰め、二人組になっていたゴーレムに切り掛かった。
「えいっ!」
ゴーレムは赤色の煙を周囲に撒き、消えていった。
「もういっちょ!」
「なずちゃん!」
涼空の声も、やっぱり聞こえない。
今度は一体のゴーレムに近寄る。
「やぁ!」
苦しそうに喚きながら消えていく。
「やりすぎだ、ばか」
スコーン……
みつるに思いっきり頭をはたかれる。
……今どき…
「今どき、劇中にメガホンで人の頭を叩く奴があるかぁぁ!!」
「たまたま手に持ってたんだよ!」
「物騒すぎる!!」
てかさ…とみつるが手で顔を隠した。
「なんっでこんなことやらされてんだよ!」
叫んだ。
それはもう、苦しそうに。
そう、私たちはおばさんの好みで演技をさせられていたのだ。
その証拠に、台本があちらこちらに散らばっている。
実はさっきのも演技。
ライたちがどこかに行っちゃったのは全然想定してなかったらしいんだけどね。
おばさんはそういう劇を作るのが好きらしい。
「雰囲気ぶち壊しね…
いいじゃない、あたしは結構楽しいから好きよ?
それに、契約魔者たちもウキウキでやってるわ。
嫌々やってるのはあなただけよ、みつる」
風璃、言いすぎ言いすぎ。
「いやいや、普通におかしいだろ。
なんでお前らもちゃっかり……」
「アモンも楽しいから好き!」
「キ、キューテも!」
「………もういいわ」
みつるが諦めた……
全く、アモンとキューテに弱いんだから……
「あ、カメラ止めてなかったねぇ」
おばさんがカメラを止めるために走る。
…え、走ってる!?
何個あんの!?
ひぃ、ふぅ、みぃ…
10個もあるとか聞いてないんですけど!?
…いろんな角度から撮ろうとしてたのね…
「いやいやカメラまであったのかよ」
みつるがワーワー言いながら、おばさんのあとに続く。
「あたしたちもついていきましょうか…」
風璃が呆れながらそう言う。
「そうだね、ちょっと休憩にしよっか。
涼空〜?置いてくよ〜?」
私は涼空に声をかける。
「………………」
全く反応がない。
紫色の瞳がゆらゆらと揺れていた。
「涼空〜?どうしたの、大丈夫?」
「お腹でも痛いの?」
私と風璃の心配の声でみつるが戻ってくる。
「……ん、あぁ、いや、なんでもないで。
ちょっと考え事しとって」
涼空はそう言ってケラケラと笑う。
………私を舐めないでほしい。
「涼空。貼り付けてる笑顔は良くないよ。
本心から笑ってほしいな。
無理やり話せとは言わないから。
でも話せるときには話してほしい。
辛いことあったら私たちがいつでもいるから」
「涼空、なずな意外と周り見てるから頼れると思うぞ。
まあ俺もいるし、こいつらに言いにくいことだったら俺も聞くからな」
そう言ってみつるはまた背を向けた。
けど私たちはそれを止めない。
涼空にはこれぐらいで伝わるって分かってるから。
……小さい頃は気付かなかったけど、今は知ってる。
おかあさんはずっと作り笑いだった。
だから、私はおかあさんの本当の笑顔を見たことがない。
「ん、ありがとうなぁ」
涼空は半ば困ったような笑顔を浮かべて、みつるのあとに続いて行った。
「……涼空、心配ね。大丈夫かしら」
「本人から話してくれる日は来ると思うけど、さすがに心配になってくるよね。
でも、今は待とう」
「えぇ」
それから数日後。私たちはおばさんの試練(ほとんど遊び)を乗り越え、宿でまったりしていた。
やっぱり、ライとラガイはいないけれど。
このタイミングを見計らってか、涼空の決断がこんな早くに来るとは思わなかった。




