幸運青年の過去
(涼空視点)
糸が切れた操り人形のように、無表情でふらふらと走り回る子どもたち。
また、肌に刺さるような低温。
それらで、2年前を思い出す。
みんなと初めて会った時もこんぐらい肌寒かったっけ。
「に〜に〜?
そろそろ鍛錬そこまでにして、ご飯食べよ〜!」
素振りを何度か繰り返していると、縁側から幼く独特な声が聞こえる。
その声の持ち主は妹の晴良。優しくて、兄ながら頼り甲斐がある。
「ちょっとに〜に、聞いてるん?
ごーはーんっ!」
「ハイハイ、ごめんな、晴良。
今日のご飯は何なん?」
「今日はな〜、酢豚に挑戦してみてん!」
ドヤ顔をキメる晴良。
「うん、酢豚?渋いなぁ」
「ええやんか!」
そう言って風実は頬を膨らます。
うちの家はわけあって父さんも母さんもおらん。
それに、晴良からはこれまたわけあって両親の記憶がない。
そこでふと、晴良が持っていたぬいぐるみが目についた。
「晴良、ぬいぐるみってどんくらい持ってるんやったっけ?」
「ん〜と……
ざっと30くらいちゃう?」
「そんなあったっけ…」
何を思ったのか、晴良はありったけのぬいぐるみを僕の前に置いていく。
「ちょ、晴良…!
ご飯食べるんちゃうんかい!
動かれへんやないか!」
「え?
でもに〜にが晴良のぬいぐるみさんの人数聞いたんやん」
「ごめんって!
分かったからお家戻してきて!!」
少し不服そうに、ぬいぐるみを回収していく晴良。
っし、助かった…
そんな僕たちの幸せが壊れたのはびっくりするくらい寒い日やった。
みんなと会ったのもその日。
僕は近くの店のバイトで、昼から家を空けていた。
家には晴良1人。
「じゃあ、晴良。行ってくるな」
「うん、に〜に、行ってらっしゃい、気い付けてね」
晴良に見送られて、僕は店へと足を運ぶ。
晴良は家に1人だが、何があってもすぐ帰れる。
店長は優しい人なので、晴良が危険にさらされたらすぐに家へ帰ってよしとされている。
……でも今日は珍しく運悪いんよな。
いつもなら、相手がじゃんけんの時に何を出すか手に取るように分かるのに。
四葉のクローバーやって、簡単に見つけることができるのに。
そんな生まれながらの幸運体質。
勘が悪い日に限って。
「っ!晴良!」
「にーにっ!逃げて!」
不幸は起きる。
今日は金曜日。晴良にはいつも寂しい思いをさせているから、好物のシュークリームを買って帰り、2人で食べようと思っていた。
しかし家に帰ると晴良は魔法陣のような何かのまんなかにおった。
頭が高速で情報を処理する。危険信号を出す。
たった1人の大切な家族を失いかけていると。
「やだやだ、怖い!」
「晴良!掴め!」
魔法陣は広く、僕と晴良の腕の長さではお互いの手が届かなかった。
とっさに近くにあったぬいぐるみを差し出した。
晴良と街中を歩いていてぬいぐるみ専門店のような場所を通りかかると、ショーウィンドウにそれが飾られていた。
キラキラした目で見つめていた時、店主のおじさんが譲ってくれたのだ。しかもタダ。
後々知ったことやが、戦闘用のぬいぐるみらしい。
だからそれなりに強い魔法が施されているわけで。
「晴良、頑張れ……!」
「っ…………!」
ぬいぐるみを強く掴みそれ伝いに僕の手を握ろうとしたが、タイミングが遅れ、魔法陣がカパッと開きぬいぐるみと一緒に落ちて行った。
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
「晴良!!」
急いで下を覗くが、僕の妹はそこにおらんかった。
「………守れんかった……」
僕は守れんかった。両親が亡くなった時に感じたあの気持ちは、結局なんやったん?
親の代わりに僕が晴良を守ると決めたやん。
「はあぁぁ。アホやなぁ………」
晴良のいない世界は黒く濁った川のように思えた。
…大袈裟すぎるか。
「もう……ええんかな」
僕は台所にあったナイフを手に持つ。
せめて…………
「待ちなさいよ!そんなことして、あんたの妹さんが喜ぶとでも思うの!?」
晴良は喜ばんやろう。
これは僕にけじめをつけるためや。
「お前は本当にそれでいいのか?」
あぁ、もうええんや。
「ううん、よくない。あなたの妹さんは絶対生きてる!
私たちが保証するし、生きてなかったとしても、生き返らせる方法を一緒に見つけようよ!」
その根拠はどこにあるんや…!
…助けれんかった僕を晴良は怒るやろうし……
「いいや、大丈夫さ。君は強くて優しい人なんだから、自信持って。
それに、妹さんはそんな短気な子なのかい?違うだろう?妹さんは怒らないよ」
やめてや………信じたくなる。まだ晴良は生きてるって。
僕のあの一瞬の行動は間違ったじゃないって。
「僕は………晴良を救いたい」
「そう言ってくれるって、信じてたわ。大丈夫よ。
あたしたちも手伝う」
後ろから声が聞こえたかと思うと背中にフッと心地よい体温が伝わった。
「うわぁ!?誰や!?」
そういえばさっきから話してた奴、誰やねん!?
「あぁ、ごめんなさい」
背中にくっついていた女の子が離れた。
「あたしは風璃。よろしくね」
「俺はみつる。仲間入りおめでとう、涼空」
「私はなずな。よろしく〜」
「え、え、あんたら誰や!?」
だってだって、このなずなとかいうやつフデみたいなん腰に下げてるし、みつるとかいうやつも変な形の剣持っとるし………
「あはは、さすがに警戒するよね…」
名前すら言ってないこの人に限っては王子みたいな格好しとるし。
「僕はわけ。チルテ王国の王だよ」
………チルテ王国ってどこやねん!
てかほんまに王様やんけ!
僕が頭をパンクさせていると。
「わけ、自分が今さらっとすごいこと言ったの自覚してる?
チルテはそもそも地図にすら載ってないし、王様っていう地位がわけに替わったのも……ごめん知らないや。いつだっけ?」
「君たちの先代カルテットナイトが活動し始めたタイミングだよ」
「まあまあ、今はそんなこと関係ないでしょ?
とりあえず、涼空を連れて行きましょう!」
よいしょよいしょと風璃が僕の背中を押す。
いやいや、僕なんもそんなこと聞いてへんねんけど!?
このままやと誘拐…!
「言っとくが涼空、誘拐でもなんでもねぇよ?」
いやこっわ…
なんでわかったんや…
「お前ら、掴まってねぇと死ぬぞ?」
「もー!みつる、怖がらせないでよ!
実際はそんなことないくせに!」
「あはは、相変わらずだね」
キュイン!
鋭い音と共に、僕の足は地面から離れた。
え、え、なんかワープさせられてる?
うわ、あそこめっちゃ光ってるやん!
眩し……っ!
「……おーい、涼空?
さすがに初見ではキツかったかな…ついたよー?」
段々光に慣れてきた目をうっすらあけると、なずなが僕の目を覗き込んでいた。
「うわっ!」
「ひゃっ!
…な、なんかごめん……」
……謝られた…
「よし、簡単に説明しちゃいましょう!」
風璃が大声で言った。
「まずカルテットナイトの存在について。
これは涼空が知らなくても仕方がないことね。
カルテットナイトは、昔活躍した英雄なの。
けれど詳細はよく残っていないから、あたしたちが言うのもあれだけど謎が多いわね」
「次に、私たちのことについて。
さっき風璃がカルテットナイトの話をしたよね。
実は私たち、カルテットナイトの後継者?みたいなのに選ばれて、その称号がついてるの!
それぞれ司るものが違うんだ。
私はカラーナイト。色を司る。
みつるはサウンドナイト。音を司る。
風璃はウインドナイト。風を司る。
それでね、涼空。あなたはラックナイト。
運を司るんだ。
昔から運が良かったんじゃない?
それは血が通っているからだよ」
「最後。俺たちはなぜ今こうして集められたか。
お前のとこに行く前にぶらっと国を一周してみたが、思った通りに噂は流れてた。
魔王クシム・スピリト。アイツは過去にカルテットナイトによって封印されたが、最近その呪縛が解かれ始めている。
それをもう一度封印するために集められた、以上」
僕の頭にはもうはてなしか浮かばんかった。
司るってなんやねん…
神様かなんかにでもなるんか?
ただ不思議なことに、魔王クシムのことは知っていた。
知らなくても仕方ないというカルテットナイトのことも。
「……カルテットナイトになったからって性格変わったりせんよな?」
「そんなことあるわけないでしょう?
というか面倒くさいわ、いちいちカルテットナイトになる度に性格がコロコロ変わってたら」
「二重人格になりたいんだったら、そこは涼空の勝手だし、私たちは止めないけど…」
やっべ…
ノリで迂闊に変なこと言うてもうた、絶対こいつらにはやめといた方がいいわ…
結構ガチで捉えとるし…
「お前ら、涼空は冗談でそんなこと言ったんだと思うぞ?」
「そうだね、本気とは思えない口振りだったからね」
…!
「みーつーるー!!!
よう分かってくれてんなぁ!!」
「あっつい離れろ馬鹿涼空!!」
頭をグイグイと押し返される。
「あ、そういえば称号ってもうついとんの?」
「あぁそっか、まだ言ってなかったね。
…その指輪だよ」
「……え、これ!?」
わけに指さされたのは、右手の中指につけていた小さな指輪。
僕の家系は色々と特別で、代々受け継いできたものなんかもいくらかあったりする。
そのうちの一つを、昔母さんからもらった。
「それ、ちょっと貸してくれるかい?
壊したりなんかしないから」
わけの言葉は妙に説得力があり、すんなりと渡した。
「……………」
わけは自身の手のひらに、壊れ物を扱うかのように指輪を置いて目を瞑った。
「なぁわけ、何して…」
「涼空、しーっ。
見てて」
にしっと笑ったなずなは、もう一度わけに視線を戻した。
すると、指輪は淡く緑色に光り始めた。
「………はいおまたせ、涼空。
これで君もカルテットナイトのメンバーだ」
わけから受け取った指輪を見ると、今までついていなかったはずの緑の宝石のようなものが垂れ下がっていた。
「え、これ落ちひんの…?」
「うん、落ちない。
落ちないように補強もしてあるからね」
ぱちっとウインクを決める。
……何してもここまで様になる奴、なかなかおらんやろな。
「カルテットナイトになるために、なんか特別な試練とか色んな意味で痛い儀式とかするんかと勝手に思ってたわ…」
話しながら中指にはめると、以前よりしっくりはまるような気がした。
「それ分かる!
私も最初びっくりしたもん〜」
ケラケラと笑う。
「お前はへっぴり腰になってたろ」
「なってませんが!?!?」
「夫婦漫才?」
「ふふ…っ!!
2人の喧嘩にそんな言葉つけたの、涼空が初めてじゃないかしら?」
風璃に笑われる。
『夫婦じゃない!!』
バリ息ぴったりやん…
「なずなとみつるは幼馴染なの。
なずなのお母さんが亡くなって、みつるの家に引き取られたんですって。
あたしは孤児院育ちだから、そういうの憧れちゃうのよね」
「え、孤児院!?」
「そ。
…ねぇ、涼空のことももっと知りたいわ。
歩きながら自己紹介、なんてどうかしら?」
「いいね!賛成〜!」
パッと手を上げるなずな。
「なずなって元気やな…」
「あの元気さ、いつまで持つだろうな」
みつるがそうポロッと言い、しまったというふうに口を塞いだ。
「……?
どしたん?」
「いや、なんでもない。
忘れろ」
……みつるは口数が少ない。
「ごめんね、涼空。
みつるの心が開くの、もうちょっと待ってね…」
「どうしたら開くん?」
「……強いて言うなら、嫌われない努力をする、かな!」
「前科あんねんけどどうしよ…」
「あははっ、あんなので嫌うほどみつるは心狭くないよ?」
こっそりとそう話しかけに来てくれる。
「ちょっと、置いていくよ」
「はーやーくー!」
わけと風璃に急かされる。
「はいはーい!」
そのあとは『カルテットナイト全員集合会』と題したパーティーをした。
…こんなにはしゃいだのはいつぶりやろうか。
「あ、なずちゃん、それ取って………
……あ」
「なずちゃ……
私のこと!?
あはは、初めて呼ばれた〜」
急に、しかも勝手に呼び方を変えてしまった…
大丈夫やろうか…
「あいつは自分の呼び方なんか気にしねぇよ。
好きに呼べば」
「悪口の域まで行ったらさすがにあの子も怒ると思うわよ。
でも本人満更でもなさそうだし、その呼び方でいいんじゃないかしら」
「おいどうした、涼空。
前よりも余計に頭おかしくなったか」
過去に入り浸っているとアザゼルが煽ってきたので言い返してやった。
「人の心配してる間に自分のことなんかしたらどうやねん」
アザゼルは黙り込んだ。なんやねんこいつ。
僕は今戦闘準備に取り掛かっている。
カルテットナイトとしていつ、どこで戦場になっても困らないように。
「ほら、早よ準備し。
みんなもうあそこにおるんちゃう?」
「オレはオマエより早く終わってるんだがな。
オマエの目は節穴か?」
「かっちーん!黙っとき!」
僕たちはいつも煽りあっている。それほど仲がいいと思う人も居るやろうけど、全然そんなことはない。
「ほら、早く行くぞ」
「はいはい、今行きます〜」




