清風少女の過去
(風璃視点)
ジャー………
どこかで水道が流れている。
この白化してしまった国でも水って流れるのね…
あたしはそう苦笑しながら、その水音で蘇る辛い記憶を思い出していた。
ビシャッ!バシャッ!
「オラオラ、邪魔だどけ!」
「ううっ…!」
大男はまだ5歳の女の子に、キンキンに冷えた水をぶちまけた。
あぁ、また…………!
「フン、全く、こいつらは………」
さっきの子に冷水をかけた大男はドシドシと歩きながらどこかへ行った。
ここは孤児院。あたしたちは親に捨てられたり親が他界したりした子供たちだ。
その中でもあたしは最長年の部類に入る。
まあ言っても、12歳なんだけどね。
だから、あたしよりも小さい子がさっきみたいに大男にいじめられ、亡くなるのを見るのがとても辛い。
あたしはさっきの子に駆け寄る。
「怖かったわね、もう大丈夫よ」
「うわぁぁぁん!風璃お姉ちゃん、私、もうここから出たいよぉ、ここ嫌い!」
そう言って泣き叫ぶ。大男が聞いてるかもしれないという怖さはなく、ただただ、この子に同感するだけだった。
ここを出るには、里親が来てくれなければならない。なのに、大男が「みんなここでの生活に満足しているんです」とか言うし、勘づいてくれた人が中に押し入ろうとしたら「今うちはやってませんので!帰って下さい!」って押し返す。
何度か脱出した子もいるけれどその子たちは体がバラバラの状態で帰ってきた。
大男のやり方ではなかったので、他にも敵がいるのだろうと勘づいた。
「はぁあ!?だーかーらー言ってんだろ、ここは孤児院だっての!
子供が子供を引き取るとか普通に許さねえよ!」
外でなにやら大男が騒いでいる。外にいるのは………同い年ぐらいの女の子1人と男の子1人。
「ふぅん、じゃあ、一旦この子達全員を引き取って別の安全な孤児院に入れる」
女の子の方がそう言った。
「お前話聞いてたのか!?」
「おっさん、ドンマイ。こいつは何言っても聞かねえよ」
男の子が大男に同情するように言った。
「とにかく、これより先には入らせねぇよ!」
そう言って大男は女の子に掴みかかろうと
した。
ダメよ、殴られるわ!!
きゅっと目を瞑った瞬間。
「…そんなへなちょこパンチが私に当たるわけないでしょ?」
くすっと笑いながら女の子はそれをするっと避け、孤児院の扉を押して入ってきた。男の子は大男を抑えている。
「あのでっかい人、嘘つきじゃん。こんなとこのどこが"いい場所"なんだろ」
女の子はまっすぐあたしたちのところに来た。
「うわぁ、子供たちがいーっぱいいるよ!"例の子"はどこにいるのかなぁ?」
またなんかでてきた!
ていうか、例の子って何………?
あたしはとっさに年下の子達を守る。
「ちょっと。あんたが誰かは知らないけれど、この子達に手を出すのは許さないわよ」
「姉様、この子だ!この子だよ!」
悪魔みたいな女の子はあたしを指さして言った。
だから、さっきからなに言って…
「本当だ、この子だ。でも、まずは説明してあげなきゃ。
なんのことか分かってないよ?」
女の子はそう言ってあたしにほほえんだ。
「はじめまして、青嵐風璃ちゃん。
私は森野なずな。カルテットナイトのカラーナイトだよ」
「!?なんで、あたしの名前………ていうか、青嵐?あたしに苗字なんてあったの…?」
腰が抜けるほど驚いた。
しかも、カルテットナイトって………!
「やっほ〜!ボクはシュージュ!
はじめまして、風璃ちゃん!
姉様………じゃなくて、なずなの契約魔者だよ!」
悪魔………シュージュは大声でそう言った。
「さっき、私と一緒にいた男の子は……」
「能海みつるだ。カルテットナイトのサウンドナイト」
なずなさんのうしろから低い声が聞こえた。
さっき軽々とあの大男を抑えてた男の子。
「うっわびっくりした!あのおじさんは?
ほっといて大丈夫なの?」
「わけが来るまで、アモンとキューテに任せてる。例のやつはこいつか?」
「うん、そう。シュージュも言ってるし、私のペンダントも反応してる」
そう言ってなずなさんは自身の首に下げられているペンダントを見た。
見ると、黄色に光っている。
どうして黄色なの…?
「黄色は歴代ウインドナイトが持っていたアクセサリーの色。風璃、あなたはカルテットナイトのウインドナイトなんだよ」
やっぱり、嘘じゃないんだ………!
カルテットナイトは、実在してるんだわ……!
「でも、どうしてあたしがその伝説のウインドナイトなの?」
さっきから頭の中がはてなで埋まっている。
「まあまあ、まずはわけのところに……」
ていうか、さっきからわけ、わけって…
チルテ王国の他王わけ様?
「ねえ、そのわけって人ってもしかして?」
「うん?わけはわけだよ?」
なずなさんには話通じないの……?
「このバカなずな」
みつるさんがなずなさんの頭をはたいた。
「ったぁ!!なにすんの!?」
なずなさんは右のほっぺを膨らませた。
「お前……じゃなくて、風璃。お察しの通り、わけはチルテ王国の王だよ。
意外に知識あるんだな」
みつるさんはそう教えてくれた。
でもなんか、最後煽られた気がする………
「みつる、そんな言い方しないで!
もうすぐわけが来ると思うからおじさんのところに行っといてよ」
「ハイハイ、りょーかい」
みつるさんはひらひらと手を振りながら
出口に歩いて行った。……すると。
「君が、この孤児院の管理者かい?」
「だからそう言ってんだろ!」
大人びた声が聞こえた。どんだけ増えるの……
「お、来たね!」
「え…?」
もしかして、この人がさっきまで話してた…!?
「劣悪な環境、子供たちへの虐待、家賃滞納………
君にはここの管理者は向いていないみたいだね」
その声の持ち主は大男を従者の人に引き渡した。
そして、あたしたちのところに来た。
「やあ、はじめまして。僕は他王わけ。
よろしくね」
わけ様はそう言って笑った。
「ねえ、なずな。この子が風璃かい?」
「うん、そうだよ。ペンダントは反応してるし、違いないよ!
でもやっぱり、本人は分かってないみたい?」
「あ、あの!本当に、さっきからカルテットナイトだとかウインドナイトだとか、本で読んだことしかない言葉がポンポン出てきていてよく理解できていないの。
説明を求めるわ」
あたしは2人に頼んだ。
「それは失礼。けど、ややこしいことは一切ないし、結構簡単なことだとは思うよ?
つまりね、その伝説の1人になってほしいんだよ。
カルテットナイト自体は知っているんだろう?」
わけ様はそう問うてきた。
「ええ、知っています。かつてあの魔王を滅ぼした4人組ですよね」
「さすがだね。けど、一つ訂正。滅ぼすのは無理だったんだ。
かろうじて封印ができただけさ。
でも、最近になって魔王の封印が解かれ始めている。
あと数年であの魔王……クシムが復活するだろう。
それを食い止めるためにカルテットナイトを再結成させようと思っているんだ。
前のカルテットナイトは色々あって、後継者を出すことができなかったからね。
さっき聞いたとは思うけど、なずなはカラーナイトで、みつるはサウンドナイト。
もうひとりいるんだが、その子はラックナイト。
君がウインドナイトとして加わってくれれば、カルテットナイト全員集合となるんだよ」
よく分からない……でも、なんだか楽しそうかも。
なずなさんやみつるさんもいるんだし、1人じゃない!
「分かった。やるわ。でも、この子達は…」
そう言ってあたしはこの子達を見た。
どの子も不安そうにあたしを見ている。
「風璃お姉ちゃん、どこに行っちゃうの……?」
「僕たち置いてかれちゃう……………?」
胸がチクリと痛んだ。
この子達はもう長くないというのは薄々気づいていた。
ご飯もろくにもらえず、睡眠中も大男が来るから常に睡眠不足。体に悪いことしかされないから、みんなはもう痩せ細っている。
「大丈夫、全員、僕たちが引き取るよ。
こことは違う場所を提供してあげよう。
ちゃんと寝床も用意するし、温かいご飯も用意する。もちろん暴力も振るったりしないよ。
決定するのは君たちだ。
悔いのない方を選べよ」
わけ様がそう言ったとたんに、みんなの目がキラキラと輝いていた。
「行きたい!」
みんなが口を合わせてそう言った。
「分かった。じゃあ、みんな準備してくれるかい?」
「は〜い!」
「わけ様、感謝します」
「あはは、敬語も様呼びも外して大丈夫なのに。
むしろ、そうしてほしいな」
「え!?え、ええ、分かったわ、わけ」
あ〜〜〜!なんだか口がムズムズするわ!
「なずなさんもみつるさんもシュージュもありがとう。
久々にみんなが笑っているところを見たわ」
「え!私?私はほとんど何もしてないんだけど……
あはは、ありがと。ていうか、私たちもさん付けじゃなくて大丈夫だよ!
これからも仲間、でしょ?」
なずな……は優しいんだな。初めて会ったのに"これからも"って、なんだか前から知り合っていたみたい。
「よろしくな、風璃。
変に裏切ったら許さねぇからな?」
「そんなことするわけないじゃないの!
なずなたちがこのタイミングで来てくれなかったら、あたしたちは今頃死んでいたかもしれないっていうのに」
そう言うと、なずなが声をあげて笑い始めた。
「あっはは!!!
風璃って面白いね!」
「え?ええ!?」
「すまん…
こいつ、笑いのツボがおかしいんだ」
「みつる??
聞こえてるけど??」
今度はなずながみつるをひっぱたいた。
わけからこっそり聞いたけど、2人は幼馴染らしい。
……親同士の繋がりなんてものないから、ちょっと羨ましかったりする。
それよりも。
なずなやみつるとは、今日初めて会ったばかりなのに懐かしい感じがする。
おかしいな。
どこかで会ったかしら…?
思い出せないまま、あたしたちは孤児院を後にした。
あのあと、大男は連れていかれたらしい。
まあ、当然のことだけどね。
「あ、そうそう、風璃。
これ、できるだけ肌身離さず付けておいてね」
わけからそう渡されたのは、黄色の中に不思議なマークが書かれている、結晶のようなものが埋め込まれたブレスレットだった。
「なあに?これ」
「それ、カルテットナイトの証?みたいなもの!
私はペンダント、みつるはピアスだよ」
2人は息ぴったりにあたしにそれぞれのアクセサリーを見せてくれた。
あたしのとマークは違うものの、なずなは青色ベース、みつるは赤色ベースで、構造は一緒だった。
「それ、絶対なくさないでくれよ?
結構色々使えるから」
使える…?
「例えば、契約魔者の依代だな。
さっき見たシュージュは覚えてるだろ?
そいつらは普段外には出ないんだ、ざっくり言えば邪魔だから。
その時にこのアクセの中にいるんだ」
「でも、あたし、その…?っていうの、いないわよ」
「大丈夫だよ、すぐできるから」
わけの意味深な笑顔を見て、本来なら不安になるんだろうけれど、あたしは不思議と安心した。
左手にブレスレットを通すと、しっくりきた。
………さっきから不思議なことしか起こらないわね…
まあいっか、それも楽しいしね。
開き直り、なずなたちを追いかけた。
……本当に、あたしの契約魔者はすぐ簡単に見つかった。
「風璃様?いかがなさいましたか?」
琳火がそう聞いてくれた。
「ううん、なんでもないわ。
昔のことを思い出していたの。
あたしがなずなたちに拾われて、城に向かってる最中に、ケガをしたあなたに出会ったのよね。
最初はあたしたちの名前すら覚えるのに一苦労だったというのに、今ではこんなに立派になっちゃって」
「そうですね……今思うと恥ずかしい気持ちでいっぱいです」
頭に生えた丸っこい耳諸共撫でてやると、照れたように笑った。
この子、何をしても絵になるわね…
「……前も今も変わってないわね。
琳火、これからもあらためてよろしくね」
「いまさら何をおっしゃっているのですか、もちろんでございます!」
やっぱり、あたしは本当にいい仲間に恵まれ
たわ。
「さぁて、なずな達はそろそろあの場所にいるはずよ。
あたしたちも出発しなくちゃ、置いてかれちゃうわ!」
「はい!」
琳火の良い返事を聞きながら、あたしは靴を履いた。
前の更新から遅くなりすみません!
実は、9/20にどうしても投稿したい理由がありまして…
本日9/20は、風璃の誕生日なんです!
その記念という意味で、誕生日に合わせて風璃の過去編を投稿しようと薄々考えていました笑
拙い文章、ころころと変わる視点など、読みにくい点が大量にありますが、これからも読んでやってください…!




