音色少年の過去
(みつる視点)
「っ、お前らなぁ…」
「ほ、ほらアモン!
怒られちゃったじゃんか…」
「そ、そそそういうキューテも、結局は僕と一緒だったでしょ!?」
はぁ……
あたりにはティッシュやら毛玉やら色々なものが散乱していた。
「………とりあえず、そこが共犯ということが分かった。
片付けてから準備するぞ」
「は〜い!!」
「ア、アモンはなんでそんなに元気になるの…?」
わっちゃわっちゃと片付け始めるアモンとキューテの背中を見て、昔のことを思い出した。
「みつる!」
母さんは一階から二階にいる俺を大声で呼んだ。
続けて母さんは言った。
「なずなちゃん、うちで暮らしてもらうことになったから!
なずなちゃん迎えに行ってきて!」
そこまで言われて思い出す。
たしか2日前になずなの母さんがマンションから落ちていたんだっけ。
これは一定数の人間しか知らないが、なずなの母さんは救急車で運ばれて病院についたあと、ベッドからいなくなっていたそうだ。
たまたま病院にいた時、スタッフの耳打ちが聞こえてきたのだ。
なずなに言えばいますぐ探しに行くとか言って止めても聞かないだろうし、言いたくても言えねぇけど。
「りょーかい」
俺はそう答えた。嬉しく思っている自分がいることに気づき、腹が立つ。
なずなは産まれた日や産まれた場所、時間がまったく同じの幼馴染だ。また、名前も「森野」「能海」で結構似ていたりする。
小学校低学年の頃は「そんなことが本当にあるのか」といじられてたりしたが、お互いのコピーした母子手帳を見せたら静かになった。
昔っからなずなははちゃめちゃで、ここ最近、やっと性格が落ち着いてきた。
何度あいつの荒事に巻き込まれたことか………
俺は呆れながら一階に降りていき、こたつに丸まっていた猫二匹をなでた。栗色の猫がアモン、クリーム色の猫がキューテだ。
こいつらも親を亡くしてうちに引き取られたんだっけな。なずなと意外な共通点を見つけ、びっくりしてしまう。
「んじゃ、行ってくる」
「うん、いってらっしゃい、気をつけて」
「おう」
気をつけての範囲じゃねーだろ、家は隣りなんだから。母さんは相変わらず心配性だな。
誰がなずなを引き取るかという話し合いではまっさきに手を挙げたらしいしな。
俺はなずなの家に入る。
合鍵をもらっていたし、なずなやなずなの母さんからも許可はあった。そこからなずなの部屋に直行。
リビングを一見するが姿が見えない。あいつは部屋にいるとみた。
階段を登って2階に上がる。
…………うん、やっぱりいたわ。
「なずな」
呼びかけたが返事はない。俺は俺に背を向けたなずなに近づいてもう一度、今度は大きい声で呼んだ。
「なずな。どうした」
そう呼ぶとはっとなずなは思いっきり振り返って俺のすねに頭をぶつけていた。
「いって…!」
何してんだこいつ。俺も今結構痛かったし。
「……ったぁ……!みつくんが蹴ったぁ…」
「いや蹴ってねえよ!お前が来たんだろうが」
なずなは頭を押さえている。そんなに痛かったのか…
「ほら、行くぞなずな。話は聞いてるんだろ」
そう言ってなずなの顔をよく見ようとかがみこんだ。すると、ふいっと顔を逸らされた。
「………だ、」
なずなは何か言った。だが全然聞き取れなかった。
「ん?どうした?聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
そう言うと。
「……やだ、やだやだやだやだやだやだ!
私は、大好きなおかあさんと住んだこの家にずっと住んでたい!」
なずなはそう言い切ると大粒の涙をボロボロと流し始めた。
そうだった。気づかなかった俺が馬鹿だった。
なずなの父親はなずなたちを裏切り、別の女と住み始めたそうだ。だからなずなの家族はこいつの母さんしかいなかった。しかしその唯一の家族もいなくなって、心細くないわけがない。
引き取られるのが幼馴染である俺の家でも、ここにまだ残っていたいという願望があるのは当然だろう。
なずなは俺に抱きついてきた。昔の感覚でやったのだろうが年頃だ、気にしないのかこいつは………
「……みつくん、私は………」
そこで泣かないでくれ、頼むから。
…………服がビショビショになる。
はぁ、とため息をついて
「だけどな、なずな。なずなが全く何もできないというので言っているわけじゃないんだが、ご飯も洗濯も、一人で全部できるのか?ご飯はできたとしても、カップラーメンとか偏ったものしか食べないだろ?
辛いのは分かる。気づいてやれなくてごめんな。
でも、お前の母さんは1人じゃ危ないと思ってるだろう」
そう言うとなずなはまた泣き出した。
やらかした……………
「だって、私が言ったらおばさんとかみつくんに迷惑かけちゃう……」
「何を今更。一緒に暮らそ」
「……っ、うん!ありがと、みつくん………!」
「ただいま、ごめん、時間かかった」
「お、お、お邪魔します」
「うふふ、いらっしゃい、なずなちゃん。
みつるもありがとね。
ほら、ご飯できてるわよ」
そこから、俺たち3人の暮らしが始まった。
あれから二年後。母さんが居眠りトラックに轢かれ、俺たちの誕生日に亡くなった。
そして、あとを追うようにアモンとキューテも他界した。
そこからは驚きの連続で、ほとんど何も覚えていない。
シュージュによって俺となずながこっちの世界に来ただとか、アモンとキューテが魔物として生き返っただとか。
「……昔の俺、よくあんな情報量の中生きてたな…」
「え?どうしたの、みつるくん」
「んや、なんでもねぇ。
ほら、そこまだティッシュ落ちてるぞ」
「アモン…」
「ごめんって、キューテぇ!」
ギャーギャー騒ぎながら、なんとか片付けを終えた俺たちは外に出た。
……相変わらず、外は真っ白。
ぼんやり見つめていると、幼馴染の声が聞こえた。
「……る、みつる!」
ハッと我に帰る。
「どうしたの?」
なずなは俺の目をのぞいてくる。
「いや、なんでもない。
ちょっとしんみりしてただけ」
「しんみり?
あ、もしかして過去を振り返ってた、とか!」
人差し指をピンと立てた。
「なんでわかんだよ、エスパーか何かか?」
「えへへ、私も絵本を見て昔のこと思い出してたから、みつるもそうかな〜って!」
「え、なんでだよ」
考えるそぶりを見せてから。
「またアモンとキューテがティッシュ散らかしたんでしょ?
服についてるもん。
だから、片付け最中にあの子たちを見てて思い出しました…的な!
ね、違う?」
……すごいを通り越してドン引き。
「いやいや、そんなに引かないでよ」
「悪いけどドン引き。
お前ストーカーか?」
「なっにそれ失敬な!
何年の付き合いだと思ってんの〜?
みつるの考えなんて、手に取るようにわかるよ!」
………長年一緒にいる幼馴染から想われてるのを知らないこいつは、まだまだ俺のことをわからないらしい。
まあ言うつもりはないけどな。
「ほら、みつる、準備できたんなら行こ!
風璃も涼空も準備してるよ!」
ピンと城の方向を指差す。
知らず知らずのうちに、俺たちの集合場所は城のすぐ側にある野原になっていた。
花々や、夜には星々が見える穴場の絶景スポット。
なずなが見つけてきた時は、そんな幻想的な場所があるのかと喧嘩を売ったが、実際見てみると結構綺麗だった。
……なずなはやっぱり生き生きしているな。
負けてられない。
「あぁ、競争だ!」
「よーい、ドン!」
俺たちは一気に走り始めた。




