終わりからの始まり
(クシム視点)
「おや。ここまでかい、三重奏騎士」
「く……っ!」
僕は今、魔王城に愚かながら攻めてきたこの三重奏騎士と対峙している。
仮にも魔王討伐を依頼されている身だそうで思ったより強かった。
……だが、エネルギー量だけに頼っており、自身の力は引き出せていない。小物だ。
残念だったな。もう少し来るのが遅かったらもっと楽しめて……
「うふふ。いつから、私たちが3人だと認識していたの?」
「なんだと…!?」スパッ…!
直後に、琴葉がいる場所とは別の方向から何かが通過する。
僕が認識する前に腕を飛ばされた。拳銃か?
しかし、今の攻撃でなんとなく理解できた。
なるほどな、隠れていたと。
「ふぅ。琴葉、いい加減にしてや。いくらなんでも命知らずの作戦やったで?」
「ごめんってば、穂風。でも、私がさっきみたいに言わないとクシムが……」
「ちょっと、なにごちゃごちゃ喋っちゃってるんですかぁ!いい加減にしてくれませんか!」
こいつらうるせぇな……
ただ静かなのが1人いる。
「……クシム。家族はいる?」
なぜその質問をする?訳がわからない。
「急になんだ」
「家族の有無を聞いている」
「生き別れの兄が1人、な。まぁ仲が良かったわけではないし、あまりショックではなかったが」
……なぜ僕は、敵に自らの生い立ちを話しているのだろうか。
「そっか。私たちは子供がいるよ。
私、風織は女の子で琴葉と穂風は男の子なんだよ。
でも私と琴葉は異世界の人間だから、私たちの子供がこっちに来るのはかなり時間がかかるかも」
「……何が言いたい」
そういえば、色彩騎士であるすずなと音色騎士の琴葉はこの世界と異世界を行き来する人間だったことを思い出す。
そんなことが本当にあるのかは知らないが、相手に嘘をつく理由など見当たらない。
「簡単だよ。
今から私たちがあなたを封印する」
すずながそう言った瞬間、周囲のエネルギーが吸い取られていく気がした。
まさか……!!
「あなたにはしばらくの間眠ってもらいます!」
風織が杖に魔力を込めながらそう宣言する。
「私たちの子が……なずなちゃん達がこっちに来る頃には封印は半分解けている状態になる。でも、あの子たちなら必ずやってくれるよ。
……それまでしばらく大人しくしていてね、
けい」
なぜ、その名を知っている……
最後にそれだけ不思議に思いながら、僕の意識は遠くに離れていった。
(すずな視点)
「…ちょっと風織、今なんて…………」
「私の子は、私の妹に託そうと思ってます」
「……どうしたん?風織は風璃ちゃん溺愛ママやったやんか」
「私にはもう無理です。あの子を育てる資格がない」
悲しそうに目を伏せる風織。その姿が痛々しくて、見ていられなかった。
「ダメよ風織。そんな資格は自分が決めるんじゃないってことはあなたも分かってるんでしょう?」
琴葉は風織の話を静かに聞いていて、そして風織の肩を掴んだ。
「そんなこと分かってます!分かってる、つもりなんですよ……」
「……風織。なんでそう思ったのか、私たちに教えて」
「…実は……」
風織は重そうに口を開いた。
「わたし、もう永くないんです。
このままあの子を…風璃を育てていたら、悲しい思いをさせてしまうことになる。それだけは避けたいんです。
あの子には、のびのび生きていてほしい。
だから自我が芽生え始めている今のうちに妹に託そうと思いまして。
本当は、わたしの命が燃え尽きるまであの子と過ごしたい。
でも、それは無理だと悟ったんです」
「……えんいを風璃ちゃんの親代わりにしたらええんちゃう?あの子なら責任感もあるし」
えんいとは、風織の契約魔者だ。
炎を扱う熊の獣人、みたいな感じらしい。
種族名は決まってないから、クシムを封印した今、『えんい』が種族名になるらしい。
そこらへんはあんまり教えてくれないんだよね。
「それも思ったのですが。
えんいもお腹の中に子供がいます。
別々の種族を一緒に育てた場合お互いがお互いを見て育ち、それぞれの種族では好ましくない立ち方や喋り方になります。
それも避けたいのです」
「風織様、わたくしは…!」
「…少なからず、そうなってしまうんです。
辛い思いをさせてしまってごめんね」
風織はもう、覚悟を決めているようだった。
「分かった。風織の人生だもん。私たちに止める権利はないよ。
………私たちはそろそろ、あの世界に帰るよ。
わけにだけ挨拶してくるね。
行くよ、イエロ」
「わふっ!」
イエロは私の契約魔者。
言葉は通じないけど、大事な仲間だ。
『氷の魔術師』って呼ばれてる種族だけど、実際この子突飛な行動とかしないんだよね。
「今までありがとう、穂風、風織。楽しかったよ」
「落ち着いたらあの子たち連れてくるから待ってて。
また会おうね」
「あなたたちと冒険できたこと、とても嬉しかったです。お体に気をつけて」
「またな。わけにもよろしく伝えといて」
私と琴葉はそう言ってみんなの元を去った。
「もう帰っちゃうんだね。
ありがとう。お疲れ様」
「私たちの方こそ感謝だよ。ありがとう。
生活が落ち着いたらなずなちゃん、連れてくるね」
「みつるも付けて連れてくるよ!」
琴葉も賛同する。
「……イエロ。君たちはここに残ってわけのお手伝いさんになってね。
さすがに私たちの世界に一緒に連れて行ったらびっくりされちゃうから」
「わぅ〜……」
「あんたたちもだからね」
琴葉はそう言って自身の契約魔者を見た。
「たまには会いに来てやれよ?」
「分かってるよ」
「それじゃ。
またね、わけ」
わけは少し寂しそうな顔をした。
「さて、と。
そろそろ戻らなきゃね」
私たちの世界とこの世界の時間の過ぎ方は全然違う。
こっちで2日経ったと思えば、あちらではまだ1日しか経っていないのだ。
「そうだね。
みつるたちのお迎えもしなきゃ」
私たちが私たちの世界に戻って1年ほど経った
ある日。
風織の訃報が届いた。
私と琴葉、それから同じく急いで集まった穂風とわけはみんな真っ青な顔をして、えんいと向き合っていた。
「……えんい。あんたは自分の道を進み。
風織と同じように子供を手放さんでも…」
「いいえ。わたくしは風織様の忠実なる契約魔者です」
「でも、えんいがそんな風になるの、風織は望んでないんじゃないのかな。
私は穂風の言うように、えんいの人生を大切にしてほしいよ」
主人である風織を亡くしたえんいは今、正しい判断ができなくなってるんだ。
どうしようかとみんなが悩んでいる時。
えんいが衝撃の話を告げた。
「この子は山に捨て置きます」
「!?
えんい、それはダメに決まってるだろう!
いくらなんでも身勝手が過ぎる!」
「なぜ?
先ほどすずな様は教えてくださいました。
『わたくしはわたくしの人生を大切に』と。
ならば、この子をどうしようと、わたくしの勝手ですよね」
ダメだ、えんいが壊れかけてる。
ここまで来るとどうしようもない。
……風織もそうだったな。
「…えんい、辛いのは分かるけど、それはえんいの子供のためになると思う?
君はそんな冷たい子じゃないって、私知ってるよ?」
「……っ、ごめん、なさい……!!」
えんいはそうとだけ言うと、涙を流しながらどこかに去ってしまった。
…赤ん坊を置いて。
「………えんいはうまくやるさ。きっと。
この子は一旦、僕が引き取るよ。
種族としての"えんい"は小さい頃経験したことも覚えている。記憶を消しておかないとこの子も一生後悔するだろう。
風織の娘の契約魔者になるんだ、それなりに鍛えてやらなくちゃ」
わけ……
「わけが育てたら虐待なりそうやけど
大丈夫なんか?」
こらこら、なんで水差しちゃうの。
「穂風怒られちゃえ」
琴葉……
全く。
「琴葉ってよく人の不幸望むよね。
私が罠に引っかかったときも助けるそぶりほとんどなかったじゃん」
「す、すずな、それは秘密……!」
「へぇ?それは本当かい、琴葉」
琴葉も怒られちゃえ。
「……そろそろ戻らなきゃ。
なずなちゃんが寂しがってるかも」
「なずなって今何歳だったっけ。
そんな小さい年齢じゃなかっただろう?」
「今年で6歳だよ。
もう仕草全部が可愛いのなんの……」
思わず両手を頬に当てる。
「だってだって、私がこっちの世界に来ようとしたらしがみついてくるんだよ?
おもちゃ渡しても、『おかあさんがいい!』って目がうるうるしちゃうの!」
「…すずな。
悪い事は言わない、病院行こ?
重症だわ」
「琴葉、全てを悟ったような感じで言わんといてあげて…」
「それは色々と大丈夫なのかい、すずな」
みんなひどいなぁ。
「だってだって、琴葉もみつくん大好きでしょ?
穂風も涼空くん大好きでしょ?」
「もちろん自分の息子だもん、可愛いに決まってるでしょ」
「そりゃもちろん」
ほらね?
「わけは……
あ、ごめんね?」
「すずな?今すごい失礼なこと考えたよな?
大丈夫だよ、少しの間はこの子が僕の娘だ」
「やめてくれなんか嫌や」
穂風のバサっと言う性格私嫌いじゃないよ。
「……じゃあまたね、穂風、わけ。
イエロは役に立ててる?」
「あぁ。ものすごく優秀だよ。
心配しないで、君たちはなずなとみつるを存分に愛しなよ」
「また遊びにおいでや。
まだ涼空には会わせられへんけど、こっちも賢い子に育ってるから」
「ばいばい」
穂風たちと二度目の別れを告げ、私たちは私たちの世界に帰るべく人目のつかないところに歩いて行った。
「……そういえばすずな、帰る前に『ある子と話したい』って言ってなかった?」
「言った言った!
…琴葉も名前だけは知ってると思うよ」
「??」
琴葉の頭がはてなマークで埋め尽くされる前に、早くその子に会わせちゃおう。
「……ん〜、ここにはいないっぽい。
いつもどこにいるって言ってたっけなぁ」
「あのさぁ、すずな。
どこ探してんの。
そんなダンゴムシとナメクジとミミズぐらいしか集まんないとこ探しても意味ないでしょ」
「ちょっとの希望を持つことは大事だよ、琴葉」
「何言ってんの?怖いんだけど」
琴葉、口が悪いよ。
…まあそんなことは置いといて。
「……本当にどこ行ったんだろ、ウィース…」
「ちょっと待って!ウィースってあの、昔からいる悪魔のこと…!?」
「呼んだ〜?ウィースってボクだけど」
「うわぁっ!!」
琴葉は腰を抜かし、その場に座り込んだ。
カルテットナイトがこんな反応……
大丈夫なのかな。
「ウィース、久しぶりだね。
覚えてるかな?元気してた?」
「すずちゃんだ〜!!
もちろん覚えてるよっ!すずちゃんも元気?」
「うん、ありがとう」
琴葉はまだポカンとしている。
でも私は無視してウィースと話をする。
「あのね、ウィース。
そろそろなずなちゃんがこっちに来る年齢に
なるんだ。
あの話、ちゃんと覚えてるよね?」
「もちろんだよ!
でも、本当に大丈夫?受け入れられるかな?
ボクはそれが心配だよ…」
ウィースとの『あの話』。
単刀直入に言うと、ウィースはなずなちゃんの契約魔者になる悪魔だ。
ただ、ウィースはもはや伝説級の悪魔。
本人が望んでいなくても対価を支払わなければならない。
そこで、母親の私がなずなちゃんの代わりに対価を
支払う。
だから私は一時的に魂を失う。
あの子には悲しい思いをさせることになるだろうけど。
「それは思ったけどね。
大丈夫、あの子ならうまくやるよ」
「……すずな、どういうこと?
そろそろ教えてくれたっていいんじゃないの?」
あ、琴葉すっぽかしてた…
「ん〜、帰りながら話すね。
……そうだ。ウィースって呼び方だったらどこで命狙われてもおかしくないよね?
新しく名前、考えよっか?」
「うん!
でも、ボクは母様と父様につけてもらった
名前があるから大丈夫!
『シュージュ』って言うの!」
「いい名前だね。
なずなちゃんの前では極力その名前を名乗ってほしいな」
なずなちゃんもこっちの世界に来たら、
『ウィース』という名前がどんなに邪悪なものか分かるはずだから、それまでは秘密。
「じゃあ、そういうことで。
ばいばい、シュージュ」
「ばいば〜い!」
「……帰ったら寝よ…」
琴葉は多分今脳がショートしてる。
「琴葉ごめんね?」
「本当だよ……全く」
これからはもうちょっと琴葉を大切にしよう。
なずなちゃんが12歳の時。
私はウィースとの契約通り、魂を失った。
まあ病院に運ばれてからわけにあっちの世界に連れて行ってもらったから、本格的に魂を失ったわけではない。
なずなちゃんは私の大事な娘。私のペンダントも持って行ったから魔力が感じ取れるようになっていると思う。
だから、ウィースの魔力の痕跡が目立たないようにベランダからわざと落ちた。
「……ごめんね、なずなちゃん」
そして2年後。
琴葉が事故で他界した。
その半年後。
穂風と旦那さんも色眼という理由で盗賊に襲われ、涼空くんと晴良ちゃんたちを残して琴葉と同じところに行ってしまった。
気づかれないようにわけが守っているけど。
ここまで来ると、みんないなくなるんじゃないかと少し怖くなってしまう。
クシムの封印がそろそろ解けてしまう。
風織がいないのによく耐えてた。
さすがだね。
「…………私たちの代では無理だった。
あの子たちに任せよう。
頑張って、なずなちゃん」