詐欺に多い手口だ
この前は置いていなかった机の上のインク壺とペン立てを観察しているとオズワルドが一人で入ってきた。
前回一緒だったスキンヘッドのゴメスという男はいない。丸めた紙を二本持ってきたオズワルドは相変わらず乱暴にソファーに座ると丸めた紙を広げ始めた。それを私とモーガンの前に投げる。
また投げんのんかい!上下がくるんとなった紙を手に取ったが、数字はわかるものの文字はさっぱり読めなかった。モーガンは紙を左手で押し広げながら書きにくそうにサインをしている。
「お前の管理者はどうした?」
「私は夕方以降に手続きしようと思います。少し到着が遅れているようですので。」
そうそう、初見で相手の事を“お前”って呼ぶ奴、軽蔑するわ。
そう言えばクラウンもそうだっけ。まあ召喚主だし、あの声で“お前”はある意味オイシイから除外とする。それにしてもこのオッサンは何様のつもりなの?まだ“貴様”の方が許せるわ、“様”だけに。
こう思っていることはおくびにも出さずにへりくだって答え、オズワルドからそっと視線を外した。だって身に着けているものまで値段が分かるんですもの!意識しないでおこうとすればするほど数字が見えてくるものだ。
「そうかそうか、ちょうどいい、だったらそこにサインしろ。」
「え?」
クラウンと一緒じゃないとダメだと言ったのはそっちではないか。
さすがにモーガンもこちらを見て目をパチパチさせている。きっとあり得ない事態なのだろう。モーガンに自分の紙を見せて書かれてあることがおかしな内容ではないか確認してもらったが、モーガンと同じものだった。
「管理者には後からサインをもらうから。お前だって先に金が欲しいんだろ?」
「申し訳ありませんがどんな書類にも勝手にサインはしないよう教えられておりますので改めて管理者と共にお伺いいたします。ランクアップもその時で構いません。」
紙を元通り丸めてオズワルドにつき返した。
管理者の部分に別の名前を書かれても困るし、モーガンに確認してもらいはしたが何かこちらが不利になるようなことが書かれていないとも限らない。こういうのは絶対に単独で判断しない方がいいに決まっている。詐欺に多い手口だ。
「ふん、なら仕方あるまい。ではそれまではギルド預かりにしておこう。」
丸めた紙を奪うように取り、顎を触りながらオズワルドはあっさりと引き下がった。
不服そうな顔をしているが特に残念がってもいない。何か裏があると思ったのだが、私の考え過ぎだっただろうか。もう出て行けと言われたので素直に従った。
ランクアップを終えたモーガンは銀色の冒険者カードに感激している。
ゲームでもランクアップやレベルアップした時はめちゃくちゃ嬉しいものだ。ちなみに私はコンシューマーのRPGだとエリアボスはワンパンで倒せるくらいまでレベル上げする方だ。絶対に負けたくない。そしてお宝の取りこぼしは許さない。余談か。
「Bランクが銀色ならAランクは金色なの?他はどうなってんの?」
「Sランクが白金だな。Cランクは俺のをさっき見ただろ?DFは鋼と鉄、あんたのが鉛だ。まあ全部強度を上げて加工されてるけどな。」
「へ~。じゃあ何で私はデリヘルだって分かるの?」
首から自分のを出してモーガンに見せると顔を赤くして、こんなところで見せるなと言われた。
三種類目の薬草探しの道すがら話すから隠せ隠せと言ってくる。とにかく服の中に戻してギルドを出た。




